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観音のハンドパワー?を持ち帰る「手のかたち・手のちから」

「いつの間にか、この手足形に石観音の霊力が宿るパワーアイテムとして、参拝者が持って帰るようになった。
図録では”形代から護符(おまもり)への転換”と解説しています」
--神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ--

こんにちは。最近はレコードが見直されてるそうで、私も懐かしいレコードをつい何枚か買ってしまい、しかしプレーヤーが無いので仕方なくジャケットとライナーノートを読んでいる宮澤やすみです。
プレーヤー買えばいいんですけどね。

そんな中ですが、先日は武蔵野美術大学美術館の企画展「手のかたち・手のちから」に行ってきました。

開催前に展覧会チラシを観ましたが、そのインパクトたるや相当なもので、必ず観にいこうと思っていました。

展示の目玉は、福井県若狭地方にある三方(みかた)石観世音のお堂に奉納されていた「手足形」の展示です。
おびただしい数の小さな手足形が、びっしりと展示室の壁を埋めます。
中央には、うず高く積まれた手足形の山。

現地で奉納された手足形の数、およそ6万点。
武蔵野美術大学の神野善治教授をリーダーとする調査チームが、8年にわたってこれを調査し、今回の展示となりました。
膨大な数をひとつひとつ調べて、気の遠くなる作業だったでしょうね……。


実際に奉納されていた手足形。写真は特別に許可を得て撮影

展示を見ると、リアルな形の手もあれば、木の枝を手に見立てた素朴な作りのもの、小さな手を精巧な寄木細工の箱に入れた精巧なものなど、個性的な造形があって、見ていて飽きません。現代アートのオブジェのようにも見えてきます。
しかし、墨書を見ると江戸時代の年号もあって、何百年もの間たくさんの人がここを訪れたことがわかります。

形のおもしろさが目を引く手足形ですが、本来は三方石観世音の信仰にあやかって、奉納されたものです。

三方の観音さまは岩に線刻されたお像(だから石観音)だそうで、なぜか右手だけ彫られず片手の状態の観音さま(弘法大師作の伝承がある)。そこから転じて手の患い、そして足や各所の病を除いてくれる信仰が流行したそうです。

まず観音堂で手足形を授かり、家に持って帰って祈願。そして治ったらお礼参りとして、同じ手足形を造って奉納する、というシステムなのでした。
調査によると、たしかに同じ形のペアが見つかるそうで、無事に痛みや病が治った証です。効き目があったんですね。


年代によって造型が異なる。足形や乳房形もある。特別に許可を得て撮影

それにしても、こうやって自宅にもって帰る「テイクアウト」システムがあるとは、初めて知りました。

世間によくあるパターンでは、人体のかたちに作った「人形(ひとがた)」に、自分の病やケガレを付けて神仏に奉納し、お焚き上げするシステムがありますよね。
流し雛の風習もこれにあたります。
今では和紙を切って作りますが、昔は木で作って目や口を書いているのも発掘されています。
こういう、人の穢れを乗り移らせるアイテムのことを「形代(かたしろ)」といいます。

ここの三方石観世音でも、当初は「形代」として手足形を奉納したのだろう、とのことです(図録より)。

しかし、いつの間にか、この手足形に石観音の霊力が宿るパワーアイテムとして、参拝者が持って帰るようになった。
図録では「形代から護符(おまもり)への転換」と解説しています。

なんといっても、ここの観音さまは片手が無い。願いが込められた手足形は「石観世音様の欠けた手の象徴であり、霊力を示すものになる」(図録より)。こうして、いつのまにか手を持ち帰る風習が広まったようです。


三方石観世音を調査し、展示を監修した神野教授による解説。手の延長としてさまざまな道具へ展示が展開します

現代の感覚だと、手が無いのはハンディキャップと捉えられそうですが、無いからこそ特別な力が信じられたという、興味深いお話です。

イメージしますと、観音さまから手が離れて、参拝者の手元に届いて力を発揮する。これはまさしく「ロケットパンチ」じゃないですか(笑)

もちろん、ロケットは付いてませんけども、手が飛んで行って人々のところに届くというイメージ。昔の人の想像力がすごいと思います。

その豊かな想像力は、やはり「患いを治してほしい」という切実な願いがあったからこそだと思います。

”ムサビ”は美術芸術だけでなく、民俗学的分野でも興味深い研究をされているんですね。今後も注目したいです。

くらしの造形20
「手のかたち・手のちから」
武蔵野美術大学 美術館・図書館
2019年8月9日(金)〜2019年9月21日(土)
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/15930/

---おしらせ---

本稿の筆者・宮澤やすみ出演

【活動写真サロン】
9/11(水) 19:30開演(19:00開場)
新宿カールモールにて
出演:
山内菜々子(活動写真弁士)
宮澤やすみ(エレキ三味線、三味線、小唄)

サイレント映画に活動弁士が生で声を付け、
楽士が生演奏する、活動写真上演。
現代の演奏で古い映画も今の作品として蘇ります。
今回は1915年の米映画を三味線の伴奏で上演します。
宮澤の専門である「小唄」コーナーもあります。

詳細はフライヤー
http://yasumimiyazawa.com/katsu_salon.jpg