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仏像好きならハマる「高麗茶碗」展-その2-

”武野紹鴎さん、今だったらきっと無印良品に通って、オーガニックカフェめぐりが趣味だとか言うタイプじゃないでしょうか--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。秋は音楽仕事が増える季節、歌と三味線の稽古に励んでいる宮澤やすみです。そんな中でも先日は宗教学講座で密教のお話を取材するなどしてますが、それはまたこんど。

さて、前回につづいて、三井記念美術館「高麗茶碗」展のご紹介です。

仏像ファンに向けて茶碗を語るのもどうかと思いますが、仏像が好きならきっと入っていける世界だと思います。
「名物」だの「誰々好み」だのと解説がつく名茶碗ですが、他人がいくらいいと言ったって、自分の好みじゃないこともある。それも全然OK。茶碗の場合、自分の好き嫌いを言える自由が、仏像よりあるんじゃないでしょうか。
フリーダムな気分で、自分好みの一碗を探してみたいものです。

そんなわけで、朝鮮半島から輸入されて、茶器として使われたのが高麗茶碗。

長い歴史のなかでその形はだいぶ変容していきます。

だいたい、高麗茶碗でよく見る有名なやつは、桃山時代、高麗茶碗が使われるようになった最初期のものでしょう。
それが大井戸とか小井戸とか言われるジャンルの茶碗なんですけど、そのフォルムがいいんですね。

大振りな大井戸茶碗は、ほとんど丼みたいな大きさなんですけど、横からみると腰がきゅっと引き締まって、色合いが枇杷色(びわいろ)という薄い茶色をベースに、ほんのり赤が混じったり、青みがかったり、微妙な色合い。覗き込む「見込み」が深くて、ここに鮮やかな緑色のどろっとした濃茶が入ったら、さぞかし深遠な気持ちになるだろうなあと想像します。


名碗のひとつ《大井戸茶碗 銘「蓬莱」藤田美術館蔵》から展示が始まる。(報道内覧会で許可を得て撮影)

小井戸茶碗も、少し小ぶりというだけでべつに大井戸に劣るというわけでなく、小井戸なりの存在感があります。柳家小さんだって小が付くけど存在感ある、あの「小」だと思ってください。

おもしろいのは、これらの井戸茶碗が、もともと朝鮮半島でごくふつうのくらしのご飯茶碗などに使われていたものということです。
それを、当時の日本の茶人が、「これこれ!これがいいんだよ~!」と茶の湯で使うようになった。

桃山期より前の茶の湯は、金ピカ趣味でとにかく豪勢&贅沢&派手。自分のリア充さをこれでもかと自慢する会でありました。
茶碗は、「唐物(からもの)」つまり中国インポートものが最高とされました。

そんな華美な趣味にバカバカしさを感じたんでしょうか。派手さをなくてシンプル&ナチュラルな美を追求する人たちが登場します。
室町時代の村田珠光がその走りで、その後武野紹鴎(たけのじょうおう)という人がこの路線を発展させたと言われます。これが「侘び茶」というもので、ここで用いられたのが高麗茶碗。
高麗茶碗も「インポートもの」ではあったのですが、「くらしの器をそのまま茶の湯に使う」というコンセプトが新しかった。
武野紹鴎さん、今だったらきっと無印良品に通って、オーガニックカフェめぐりが趣味だとか言うタイプじゃないでしょうか。バターチキンカレー食べてるかもね。
ちなみに武野さんの弟子にあたるのが千利休で、このあと自前で作る楽茶碗を登場させて、どこかの党首みたいに既成概念をブッ壊すことになるのですが。

そんな侘び茶のコンセプトのひとつとして、「用の美」というのがあるそうで、鑑賞するためのオブジェじゃなくて、使いこんで味が出る道具を愛でる風潮があります。そんなコンセプトにぴったりきたのが、当時の高麗茶碗だったんですね。

展示品を見ると、武骨な井戸茶碗はゆがんだ形で、ひび割れもあって、色もまだら。それを欠点ととるか長所ととるかは人次第。そこで美意識が試されちゃうんですね。このへんが一般の人を遠ざける要因なのかも(笑)。

路地の奥にある古びた居酒屋、ぼろぼろで入りづらいけど勇気出して入ったら、愛想の悪い店主の出す料理が絶品で、居心地も最高、という体験あるでしょうか。あんな感じに近いかも。一歩踏み出したらその魅力のハマるというやつ。

そんな高麗茶碗ですけど、これが古い茶人たちに愛用され、時の将軍とか偉い人の所有になると、一気に価値があがります。
そうすると、とにもかくにも高麗茶碗=高級=ステータスの証 という図式が生まれ、需要が生まれる。
そうすると、茶の湯のために高麗茶碗を造らせて、江戸時代には対馬藩が朝鮮半島と茶人たちの間をとりもってビジネスするのだそうです。
富裕層セレブむけの商売は、いつの時代もありますね。
その時代の高麗茶碗は、井戸とはだいぶ異なる形をしています。

古い時代の高麗茶碗が「年季の入った店構えでお燗を飲む個人店」だとすると、
江戸時代の高麗茶碗は「小ぎれいなエントランスで人気の冷酒を取揃えた外食企業店」
みたいな感じでしょうか。好みはそれぞれです。
ちなみに僕は吟醸の冷酒よりも本醸造くらいのお燗が好みです。

茶碗を見て、あ~居酒屋いきたい、と思うのもなんですが、目の前の茶碗の個性を、ほかのものに例えてみると面白いと思います。それが「見立て」というやつでして。

今回の展示では、ぼくの一番は《小井戸茶碗 銘「小塩」》でした。色合いや質感に高級感ありながら、ほんわかとゆるい曲線が親しみやすく、友達になれそうな感じ。
仏像にたとえたら、「重要文化財ではないけど見とれてしまう平安期のはんなり観音菩薩」のよう。
展示2室の《粉引茶碗 津田粉引》は派手でカッコイイなと思ったけど、やはりセレブ中のセレブ茶人・津田宗久が持っていたこともあって、庶民は相手にしてくれなそうな、仏像なら快慶作の醍醐寺三宝院弥勒菩薩みたいな印象。

とかなんとか、見立てながら自分のイチオシを見つけてみると、楽しいですよ。

茶碗の写真はなかなか載せづらいのですが、最後の一碗はこちら。


報道内覧会後に許可を得て撮影

三井記念美術館の入る三井タワーの地下1階にある、うどん屋さんの一碗。これもまじまじと器を見てしまいました。
東京で関西風ダシのうどんが食べられる貴重な店で、取材後によく行くんですけど、このうどんを、展示の大井戸茶碗でいただいたら最高だなあと思ったりして(笑)
そんな途方もない夢を上げて、お茶を濁して終わりたいと思います。

特別展 茶の湯の名碗
「高麗茶碗」
三井記念美術館
2019年9月14日(土)〜2019年12月1日(日)
http://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html

---おしらせ---

本稿の筆者・宮澤やすみ出演

【小唄 in 神楽坂】
11/2(土) 15:00開演(14:30開場)
神楽坂・善國寺書院にて
出演:
宮澤やすみ(小唄、三味線)
宮澤やすみ一門(三味線、小唄)
吾妻春瑞(舞踊)

毎秋恒例の小唄演奏会。
もっともシンプルな三味線音楽「小唄」を
解説トーク付きで気軽に楽しんでもらう演奏会。
一門選抜メンバーとともに賑やかにやります。
舞踊ゲストも華を添えて江戸気分満開。

詳細はHP
 http://yasumimiyazawa.com/kouta.html