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教会の聖母子像に白鳳の仏像を見たーイタリア守護聖人の旅その2

”マリア像と古い仏像の共通点が見られます。それは座り方です。古い時代の仏像に見られる「倚坐(いざ)」という形と同じ--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。イタリアから京都へ音楽遠征が続き、ちょっと体調くずしております宮澤やすみです。

そんな中、先日行ってきたイタリア公演の、オフの日にちょっと遠出してトリエステという街に行ってきました。
そこで見たものがなかなかすごかったのでご紹介します。

トリエステは、海と山のいいとこどり。
イタリア半島の付け根の東端に位置し、すぐ隣がスロベニアという国に接しています。
アドリア海の真っ青な海に面した、いかにも地中海の街という明るさで、シーフードの料理が最高。
それに加えて、オーストリア・ハプスブルグ家の支配下にあった時代もあり、歴史あるカフェとかザッハトルテとか、ちょっとオーストリアっぽい中欧の文化が残っている、とてもきれいな街でした。



マグロのタルタル、オレンジソース

海からすぐ起伏があって、丘の上に歴史的な遺構が残されています。
古代ローマ時代の劇場を観ながら(紀元前の遺跡がふつうに街なかにある)坂道を上ると、サン・ジュスト大聖堂に着きます。
紀元1世紀、古代ローマの遺跡をベースに改築を繰り返し、5~9世紀の建築が今も残る古い教会です。
フランスやドイツでよく見るゴシック建築が登場するより5~600年以上昔の建物で、絢爛豪華なゴシック教会とは異なる武骨で重厚な姿ですね。


サン・ジュスト大聖堂入り口。1世紀古代ローマの柱から14世紀ゴシック期の大きなバラ窓までいろんな時代が入り混じるが、基本的には5~9世紀中世初期のかたちらしい。ややこしい

この教会で注目すべきは、ドームにあるモザイク画。
貝殻を使ったもので、11~12世紀の作ではありますが、モザイク画の盛期だった5~6世紀の様式(ビザンティン様式といいます)が偲ばれます。

右のドーム天井を見ると、キリストと聖人の絵が見えます。


真ん中がキリスト。向かって左側が教会の名前になっている聖ジュスト

聖ジュストは、3世紀後半にこの街でキリスト教を広めて迫害され殉教した聖人で、その遺骨が祀られています。


1ユーロ硬貨を入れると灯りがつく仕組み。お賽銭のかわりにいいし、この割り切った拝観姿勢、嫌いじゃないです(その横には”聖なる場だから静かに”という看板もある)

つぎに、左のドームはマリアが赤ん坊のキリストを抱いた聖母子像。左右に天使がいます。
マリアさんのお顔、キリっとしてきれいでした。


聖母子像と天使ガブリエルとミカエル、下段は12使徒

本尊がマリアさま、両脇に天使が立ち、12使徒が並ぶ様は、仏像ファンなら薬師三尊と12神将の並び方となぞらえて見ちゃうんじゃないでしょうか(キャラクターは異なるけれども)。

それだけでなく、マリア像と古い仏像の共通点が見られます。それは座り方です。古い時代の仏像に見られる「倚坐(いざ)」という形と同じ。

倚坐は、仏画やせん仏(粘土の板に浮彫をする形式)によく見られます。日本では白鳳期といわれる7世紀ごろに流行しました。
表現の特徴は、仏の上半身が、真正面から見たかたちを表しているのに、下半身は斜め上からの目線で表現されます。椅子の座面が見えていることから、それが分かります。


奈良、川原寺出土の塼(せん)仏

もういちど、サン・ジュスト大聖堂のマリア様を見てみると、まさにこの「倚坐」のパースと同じ。
サン・ジュストの像は制作年代がずれますが、古来の姿を模していると思われますし、いずれにしても聖画仏画のたぐいは似通ったかたちになるのだなあと感心しました。


マリア倚像とも言うべきか。ちょっと内股になっているのは女性らしい

白鳳期の仏像表現は7世紀。キリスト教美術としてのモザイクの盛期は5~6世紀で、時代が近い。
ご存知の通り、仏教はインドが発祥ですが、さらに源流をたどると古代ペルシャやメソポタミアになるでしょう。
キリスト教もメソポタミア、エジプトが発祥。
シルクロードを通じて、文化が東西に広がったわけで、その美意識が脈々と受け継がれてきたのかなと思うと、古い堂内でひとり胸アツになるのでした。

モザイク画は紀元前から存在してましたが、キリスト教が広まると、東ローマ帝国内では教会美術として盛んになりました(西ローマ帝国はすぐに滅亡)。
トリエステはちょうど東ローマ帝国の文化圏にあったので、古い教会とモザイク画がぴったりです。


遺跡の中に建つ教会で、滅びゆく古代ローマと勃興する中世ヨーロッパに思いを馳せたりしております

ヨーロッパでは、中世という時代はキリスト教の時代でした。日本では、古代から中世は仏教の時代。両方とも宗教美術が花開きました。人間、やることは同じでございます。
中世の教会美術を見ると、まるで奈良のお寺の仏像を見るのと同じような、ワクワクした気分になるんですね。


お寺と同じで、堂内の厳かな雰囲気がいいですよね


丘の上からトリエステの街を一望

この旅は、イタリア・ポルデノーネで開催される、国際的な無声映画祭というビッグイベントに出演するためのものでした。
活動写真弁士・片岡一郎をリーダーに、ぼくが三味線、ほかにピアノ(上屋安由美)、太鼓(田中まさよし)の4人で上演し、おかげさまで絶賛を受けました。
イタリアのメディアレポート:
https://quinlan.it/2019/10/11/chushingura/


左から片岡一郎、宮澤やすみ、上屋安由美、田中まさよし。名付けて「映楽四重奏」

---おしらせ---

本稿の筆者・宮澤やすみ出演

【50年に一度の”ご開帳”
宮澤やすみ 69生誕祭】
11/9(土) 18:00開演(17:30開場)
目黒・SLOPEにて
出演:
宮澤やすみ and The Buttz(仏像バンド)
The 69 JAZZ CLUB(宮澤やすみジャズバンド)
ザ・ショウワーズ(1969=昭和44年を歌う)

神仏研究家・音楽家の宮澤やすみ生誕50周年
また、ロック全盛期1969年から50周年を記念して
仏像+音楽のイベントを開催。
江戸の裏鬼門・目黒の貴重な秘仏など特別拝観も(要予約)

詳細はHP
http://yasumimiyazawa.com/buttz/69.html