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都心の仏像・中指を曲げる阿弥陀さんと八百屋お七の深い関係

”阿弥陀堂の内陣には、「お七地蔵」と呼ばれるかわいらしいお地蔵さんが立ってる。首をななめにかしげて、しなを作るというんですか、なんとも色っぽいじゃありませんか--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。自身の生誕祭「69生誕祭」を終え、この秋一連の音楽出演がひと区切りつきました。みなさんのおかげでどれも盛況のうちに終え満足感に浸っております宮澤やすみです。

その「69生誕祭」では、ライブの前に仏像拝観プチツアーをするという、独自の企画になっていました。

お客さんを連れて行きましたのは東京・目黒の大円寺。

江戸の裏鬼門守護として機能した古いお寺です。
でもJR山手線の駅すぐという立地で、都会のなかにもこうしたスポットがあるんですよね。


個人拝観不可の阿弥陀堂へ特別に上げていただきました。写真はすべて特別に許可を得て掲載しています

今回注目したのは境内奥の阿弥陀堂。

ここは、八百屋お七のエピソードと深く関係するお堂です。

八百屋お七は、恋した男に会いたいばかり火を付けて、その科で死罪になった江戸時代の女性。
そのお七の彼氏さんは、お七の菩提を弔うため出家して、目黒の明王院というお寺に入りました。現在の目黒雅叙園の敷地にあったお寺です。
明治からお隣の大円寺と合併し、阿弥陀堂は大円寺に移設されたのでした。

阿弥陀堂の内陣には、「お七地蔵」と呼ばれるかわいらしいお地蔵さんが立っています。首をななめにかしげて、しなを作るというんですか、なんとも色っぽいじゃありませんか。

主役の阿弥陀如来も、庶民の身分であったお七に合わせた姿をしています。
仏像ファン目線からすれば、これがなかなかめずらしい。


首を左に曲げている、通称「お七地蔵」

阿弥陀さんは、手の指で「OK」みたいなかたちをするポーズが特徴なんですけど、だいたいは人差し指と親指をくっつけて、まさにオッケーのかたちをつくります。
ところが、ここ大円寺の像は、中指と親指を付けているんですね。
この指使いで、救いのランキングというか、救う対象が異なるという話があるんです。

よく勉強してお寺への庇護もしっかりした貴族やなんかは、上品上生(じょうぼんじょうしょう)という「上の上」コースが適用される。
庶民はなかなかそこまで知識もお金もないから、中品(ちゅうぼん)というクラスになってしまいますが、救われるのは確か。

この阿弥陀堂は、八百屋お七への弔いがコンセプトですから、庶民クラスである中品下生(ちゅうぼんげしょう)のポーズになっているというわけ(お七さんは火付けをしてしまったので中の下ランクになってると推測します)。


中指を曲げた中品ポーズがめずらしい

こんなふうに、阿弥陀如来が極楽から救いに来る(来迎)とき、その救い方に9つのランクがあるという話。「九品往生」といいますが、くわしくは検索すると出ます。もしくは拙著『はじめての仏像』(河出書房新社)などどうぞ。

仏像の指使いなどで区別するのは江戸時代に流行したらしいです。


大円寺・阿弥陀堂の阿弥陀三尊。前には「お七地蔵」

・・・と、こんな話をですね、音楽好きのバンドファンの人たちに向けてお話したんですけど、いやもう皆さん興味深く聞いてくれて、ご案内してホントによかった。

「こういう機会でもないと、行かないからね~」
「ひとりで行っても、漫然と見て帰るだけで、つまんないし」


「これが”ご開帳ブルース”に出てくる秘仏だって!」大円寺の秘仏・釈迦如来も特別拝観。みんな興味津々!

という感想。こういう一般の人たちも、仏像ファン、いや、ブツ沼の道(笑)へお連れしたいですね。

このあと、近くのライブ会場で、ぼくの”仏像バンド”の歌を存分に楽しんでもらったのです。
たとえば、

・寄木造
・むかえにきたよ
・悪人でいこう

は阿弥陀如来の世界観(阿弥陀来迎、悪人正機)や、造仏技法を歌に。

・邪悪の守護神

は薬師如来の眷属・十二神将の歌。

最後は、おなじみ「ご開帳ブルース」。
本日うかがった大円寺さんも歌に盛り込んでいます。

仏像ファンなら、曲名だけでもちょっと興味をひくでしょ(笑)

ここを読んだ方も、我々”仏像バンド”こと「宮澤やすみ and The Buttz(ザ・ブッツ)」ご注目いただけましたら!


会場一体で”オープン・ザ・ドア!”「ご開帳ブルース」大合唱のようす


マニアも初心者さんも、心底たのしい仏像ライブパーティでした!

(参考)
この大円寺は、徳川家光が大黒天を祀ったのがはじまりとされ、護摩堂に祀られていますが、そこはこの4月にぼくの同企画で訪れ、この連載でもレポートしています。
【花祭り!目黒の秘仏は「清凉寺式」】
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20190416-2/

※大円寺さんは、個人の拝観は受付けておりません。ご家族だけで切り盛りしている小さなお寺なので、個別のお問合せはお控えいただくようお願いいたします。

※今回は特別にこのページへの写真掲載を許可いただきました。撮影:Mr.tsubaking(The Buttz)、家永サンシャイン(The Buttz)

参考図書:
『はじめての仏像』(河出書房新社)
『東京仏像さんぽ』(明治書院)
いずれも宮澤やすみ著

宮澤やすみ and The Buttz オフィシャルサイト:
http://yasumimiyazawa.com/buttz/