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聖林寺十一面観音から見える明治「神仏分離」と令和「緊急事態」の共通性
”「炎上」前にいち早く聖林寺に移すことで、天平の美と信仰を破壊から守ったと……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。2か月間のステイホームで心身ともにすっかりダレていた宮澤やすみです。
先日やっと2か月ぶりに電車に乗りまして、銀座を歩きますと、つい数日前まで緊急事態だったことが信じられないくらい、多数の人出でした。
そんな中、先日は銀座の蔦屋書店での仏像のトーク配信に呼んでいただきました。
テーマは、聖林寺の十一面観音菩薩。
天平時代の美を現代に伝える、国宝です。
この春に、銀座蔦屋書店限定で、聖林寺公認の複製木彫仏像が販売されたのを機に、今回のイベント開催となりました。

【蔦屋書店 限定】聖林寺 十一面観音 複製木彫仏像
この像、詳細な資料をもとに綿密に造られただけあって、あの聖林寺像を忠実に再現。
実物を見ると、形はもちろんのこと、彩色がすごいですね。金箔の剥落具合とか経年変化を見事に表現していて、天平仏の存在感というか神秘的な雰囲気をたたえていました。
トークは、同業仲間の田中ひろみさん、みほとけさん(お二人は美術展の取材とかで必ず会う)に続いての三番手。僭越ながらトリを務めさせていただきました。
進行は、銀座蔦屋書店日本文化コーナーを一手に引き受ける佐藤昇一さんです。

広々とした日本文化コーナー
聖林寺像の美しさについては、先のお二人が存分に語ってくれたので、ぼくは三輪山信仰とのかかわりに触れました。
よく知られた話ですが、聖林寺の十一面観音菩薩は、もともと奈良の三輪山(ヤマト古代祭祀の中心)をご神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)にあった仏像でした。

聖林寺から三輪山を望む
大神神社本殿の近くに、若宮という薬や病封じ関連のお社がありますけど、ここ昔は大御輪寺というお寺だったんですね。
で、十一面さんはこの大御輪寺にいたんだそうです(天平の造像当初からいたとは限らないのですが)。
今回のトークでは、なぜ病封じのお寺にいたのかという点を紹介しました。
キーワードは「悔過(けか)」です。

銀座蔦屋日本文化のインスタグラムアカウントで、トークの録画が見られます
悔過は、自分の行いを懺悔して身を清めることなんですけど、奈良時代はこの悔過によって身を清め、疫病退散を願ったそうです。
悔過法要の本尊として代表的なのは、まず薬師如来、そして十一面観音。東大寺二月堂の「お水取り」も、要は十一面観音悔過の儀式なんですよね。
聖林寺の像は、そんな奈良時代の十一面観音さんですから、悔過法要が行われてたかもしれないですね(まだ確証はないんだけど)。
それが、明治(正確には慶応4年)の神仏分離によって、聖林寺に移ったんですけど、このときの顛末が聖林寺の先代ご住職の著書にありました。
大御輪寺の仏像を聖林寺へお預けするという「覚書」が残っていて、じつに粛々と丁寧に仏像の遷坐が行われたようです。
その後明治6年に大御輪寺が廃絶したことで、十一面観音は聖林寺のものになりました。
神仏分離は、江戸期から動きはあったんですが、慶応四年の「神仏判然令」布告から国じゅうで大きな動きになります。
地域によっては仏像破壊など過剰な行動(廃仏毀釈)もありました。
どうもこのへん、令和2年の「緊急事態宣言」による「自粛警察」とかコロナ差別とかに重なるような気がしてなりません。
お上が号令を出したとたん、素直というか過剰というか、あまりにもしっかり遂行するのが日本人の特徴。
奈良地域も廃仏毀釈が激しかったのですが、大御輪寺ではそうした「炎上」前にいち早く聖林寺に移すことで、天平の美と信仰を破壊から守ったといえるでしょう。
しかし、ぼくの著書やこの連載でも書いたように、鎌倉の鶴岡八幡宮では観音堂が破壊され、観音像が由比ガ浜に捨てられ、日本橋大観音寺に移されました。
富山県・立山では、胸に傷がある阿弥陀如来を本地とする権現信仰が廃絶され、仏像が散逸。民俗信仰の「おんばさま」は村人によってひそかに守られました。
鹿児島はもう跡形もなくなって、かろうじて残った仁王は下半身しかありません。
「神仏判然令」の内容には仏像破壊などまったくなかったのに、なぜここまで過激な活動が起きたのか、平成令和になっていろんな方が研究なさっています。
ただ、今回の緊急事態宣言下での日本人の行動をみると、なんとな~くですが、神仏分離令下で過剰な廃仏運動をした人々と重ねて合わせてしまうのでありました。
ひとたびお上の号令がかかったときの、あまりにも従順で過剰な順守行動。
日本人の行動パターンは、この150年変わっていないのかなと思った今日この頃でございます。
(参考)
【蔦屋書店 限定】聖林寺公認 国宝十一面観音立像 (木彫再現像)
https://store.tsite.jp/ginza/blog/humanities/13558-1253410316.html
特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ― 三輪山信仰のみほとけ」
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/
この夏に、東京国立博物館で特別展にお出ましのはずだったのですが、ウイルス禍のために一年ほど延期になりました。
(過去記事)
流血する阿弥陀如来のナゾ。立山信仰のヒミツ
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181023-2/
立山の女人救済「おんば様」と謎の「布橋灌頂会」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181016-2/
●おしらせ
1.
本コラム筆者・宮澤やすみの作品
The Buttz(ザ・ブッツ)新譜発売中
「日本書紀」成立1300年記念
飛鳥をテーマにしたミニアルバム『欣喜雀躍』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/buybuttz.html

アルバムジャケットは飛鳥・橘寺の風景
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。2か月間のステイホームで心身ともにすっかりダレていた宮澤やすみです。
先日やっと2か月ぶりに電車に乗りまして、銀座を歩きますと、つい数日前まで緊急事態だったことが信じられないくらい、多数の人出でした。
そんな中、先日は銀座の蔦屋書店での仏像のトーク配信に呼んでいただきました。
テーマは、聖林寺の十一面観音菩薩。
天平時代の美を現代に伝える、国宝です。
この春に、銀座蔦屋書店限定で、聖林寺公認の複製木彫仏像が販売されたのを機に、今回のイベント開催となりました。

【蔦屋書店 限定】聖林寺 十一面観音 複製木彫仏像
この像、詳細な資料をもとに綿密に造られただけあって、あの聖林寺像を忠実に再現。
実物を見ると、形はもちろんのこと、彩色がすごいですね。金箔の剥落具合とか経年変化を見事に表現していて、天平仏の存在感というか神秘的な雰囲気をたたえていました。
トークは、同業仲間の田中ひろみさん、みほとけさん(お二人は美術展の取材とかで必ず会う)に続いての三番手。僭越ながらトリを務めさせていただきました。
進行は、銀座蔦屋書店日本文化コーナーを一手に引き受ける佐藤昇一さんです。

広々とした日本文化コーナー
聖林寺像の美しさについては、先のお二人が存分に語ってくれたので、ぼくは三輪山信仰とのかかわりに触れました。
よく知られた話ですが、聖林寺の十一面観音菩薩は、もともと奈良の三輪山(ヤマト古代祭祀の中心)をご神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)にあった仏像でした。

聖林寺から三輪山を望む
大神神社本殿の近くに、若宮という薬や病封じ関連のお社がありますけど、ここ昔は大御輪寺というお寺だったんですね。
で、十一面さんはこの大御輪寺にいたんだそうです(天平の造像当初からいたとは限らないのですが)。
今回のトークでは、なぜ病封じのお寺にいたのかという点を紹介しました。
キーワードは「悔過(けか)」です。

銀座蔦屋日本文化のインスタグラムアカウントで、トークの録画が見られます
悔過は、自分の行いを懺悔して身を清めることなんですけど、奈良時代はこの悔過によって身を清め、疫病退散を願ったそうです。
悔過法要の本尊として代表的なのは、まず薬師如来、そして十一面観音。東大寺二月堂の「お水取り」も、要は十一面観音悔過の儀式なんですよね。
聖林寺の像は、そんな奈良時代の十一面観音さんですから、悔過法要が行われてたかもしれないですね(まだ確証はないんだけど)。
それが、明治(正確には慶応4年)の神仏分離によって、聖林寺に移ったんですけど、このときの顛末が聖林寺の先代ご住職の著書にありました。
大御輪寺の仏像を聖林寺へお預けするという「覚書」が残っていて、じつに粛々と丁寧に仏像の遷坐が行われたようです。
その後明治6年に大御輪寺が廃絶したことで、十一面観音は聖林寺のものになりました。
神仏分離は、江戸期から動きはあったんですが、慶応四年の「神仏判然令」布告から国じゅうで大きな動きになります。
地域によっては仏像破壊など過剰な行動(廃仏毀釈)もありました。
どうもこのへん、令和2年の「緊急事態宣言」による「自粛警察」とかコロナ差別とかに重なるような気がしてなりません。
お上が号令を出したとたん、素直というか過剰というか、あまりにもしっかり遂行するのが日本人の特徴。
奈良地域も廃仏毀釈が激しかったのですが、大御輪寺ではそうした「炎上」前にいち早く聖林寺に移すことで、天平の美と信仰を破壊から守ったといえるでしょう。
しかし、ぼくの著書やこの連載でも書いたように、鎌倉の鶴岡八幡宮では観音堂が破壊され、観音像が由比ガ浜に捨てられ、日本橋大観音寺に移されました。
富山県・立山では、胸に傷がある阿弥陀如来を本地とする権現信仰が廃絶され、仏像が散逸。民俗信仰の「おんばさま」は村人によってひそかに守られました。
鹿児島はもう跡形もなくなって、かろうじて残った仁王は下半身しかありません。
「神仏判然令」の内容には仏像破壊などまったくなかったのに、なぜここまで過激な活動が起きたのか、平成令和になっていろんな方が研究なさっています。
ただ、今回の緊急事態宣言下での日本人の行動をみると、なんとな~くですが、神仏分離令下で過剰な廃仏運動をした人々と重ねて合わせてしまうのでありました。
ひとたびお上の号令がかかったときの、あまりにも従順で過剰な順守行動。
日本人の行動パターンは、この150年変わっていないのかなと思った今日この頃でございます。
(参考)
【蔦屋書店 限定】聖林寺公認 国宝十一面観音立像 (木彫再現像)
https://store.tsite.jp/ginza/blog/humanities/13558-1253410316.html
特別展「国宝 聖林寺十一面観音 ― 三輪山信仰のみほとけ」
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/shorinji2020/
この夏に、東京国立博物館で特別展にお出ましのはずだったのですが、ウイルス禍のために一年ほど延期になりました。
(過去記事)
流血する阿弥陀如来のナゾ。立山信仰のヒミツ
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181023-2/
立山の女人救済「おんば様」と謎の「布橋灌頂会」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181016-2/
●おしらせ
1.
本コラム筆者・宮澤やすみの作品
The Buttz(ザ・ブッツ)新譜発売中
「日本書紀」成立1300年記念
飛鳥をテーマにしたミニアルバム『欣喜雀躍』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/buybuttz.html

アルバムジャケットは飛鳥・橘寺の風景
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m