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アートは健康にいい!「超写実絵画の襲来」で感じた”効能”

”美術館を出たあとは、温泉に浸かった後のようなスッキリ感を実感しました……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。今回は仏像話ではありませんが、きっと仏像ファンなら気になるでしょう、超写実絵画です。

東京・渋谷のBunkamuraミュージアムでこの3月に始まった「超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵」でしたが、新型コロナウイルス禍により中止。しかし、
6月11日にめでたく再開しました。

じつはわたくし、3月のうちに行っておりました。
その後緊急事態宣言により世の中自粛、ちょっとお出かけ話をしづらい状況になってしまい、ご紹介できずにいたのでした。
この原稿執筆現在(2020年6月15日)、東京はまだまだ安心には程遠い状況ですが、主要な美術館はどこも安全に細心の配慮をし、再開しています。
まずは晴れてご紹介できる状況になったこと、素直にうれしく思いましょう。


入口で消毒アルコールと体温測定を徹底



さて、超写実絵画です。

展示室に入ると、女性モデルを描いた作品から、風景画、静物画、さまざまなものを描いた作品がずらり。

どれも本当に息を飲む存在感で、近づいたり離れたりしてじっくり見るのがおすすめ。時間をかけてじっくりと作品と向き合います。
幸か不幸か人がまばらなので、今ならそれができます。


館外に撮影コーナーあり。生島浩《5:55》2007~2010年


最初の印象は、なんだか16~17世紀あたりの古典絵画のようだな、というもの。
調べてみると、確かに何名家の作家さんはヨーロッパでフェルメールやレンブラントなどの技法を学んだ方だそうです。

いつもの美術展だったら、古い絵画に描かれるのは王様や貴婦人とかなんですけど、今回は現代のふつうの女性ですからね。
フェルメールの古典技法で、描かれてるのが現代の女性という、つまり我々にとって身近なものが描かれているとものすごくリアリティを感じるのですね。

王様とか当時の貴婦人の絵は、現代人から見ればもはやおとぎ話の世界ですけど、当時の人たちにとってみれば、ご近所の知り合いとかが絵になってるわけで、その迫真のリアリティは、それこそ「息遣いが聞こえてきそう」な感覚だったことでしょう。
それが、今回の写実絵画展でよく実感できました。


実物絵画に対面すると、自分の目線の高さにこの顔が迫ります


たとえば、ポスターなどの広報画像に出ているこちらの作品。タイトルは《5:55》というもの。
これ、モデルさんが”このあと用事あるんだけどな・・・”と製作途中でソワソワし出した時間のことだそうで、右上の時計が5:55を指しています。
絵の前に立つと、そのちょっとピリ付いた空気感が感じられるんですね。
ただ美人さんが目の前にいてうつくしいな~とかそういう次元の作品ではないのです。いやうつくしいけどね。


一般撮影が許可されている作品。小木曽誠 《森へ還る》2017。写真でもCGでもない、油彩絵画なりの存在感は会場で


公式サイトに作品画像が出ていますが、やっぱり画像や印刷物で見ると魅力がぜんぜん伝わらないと思います。

こういう絵は、よく「写真のような」と言われがちですが、そういう類のスーパーリアリズムとは一線を画す作品なんだそうです。

所蔵元であるホキ美術館のHPにわかりやすく解説があったので、引用します。

”野田弘志氏は著書『リアリズム絵画入門』のなかで、「写実絵画とは物がそこに在る(存在する)ということを描くことを通してしっかり確かめようとすること。物が存在するということのすべてを二次元の世界に描き切ろうという、一種無謀ともみえる絵画創造のあり方。物がそこに在るということを見える通りに、触れる通りに、聞こえる通りに、匂う通りに、味のする通りに描ききろうとする試み」と述べています。”(ホキ美術館WEBサイト「収蔵作家と作品」より

ちょっと長い引用でしたが、ぼく自身の解釈だと、対象とする存在そのものを完全に把握しようとする試み、というふうに思います。
展示作品は美人の女性モデルだけじゃなくて、大木とか昆虫とか鳥の巣とか、作家がこれと感じたものが描かれます。
題材は何であっても、その存在の根源を突き詰めるような、激しい問いかけが感じられました。
前にジャコメッティの展覧会を取材しましたが、彼の「見たままのものをそのままカタチにする」という途方もない挑戦と同じものを感じました。

描かれた絵画なんだけど、たしかに描かれた部屋の空気の音とか臭いとかが伝わってきそうです。

ぼくが個人的に惹かれた作品は、青木敏郎さんの一連の静物画。
無機質な静物画なのに生きているというか、空気感、雄弁な存在感があって、絵に吸い込まれそうな恐怖感さえ感じました。


これもメイン広報に使われている作品。五味文彦 《いにしえの王は語る》 2018年


なにしろ、絵画と向き合っている時間は、コロナウイルスとか社会の問題とか仕事が無くなったとか、そういうあれこれから完全に解き放たれて、不思議の国のアリスみたいに別世界に没入している自分がいるのでありました。
これが気持ちイイ。

こうした行為によって、脳の疲れが取れたんですね。
美術館を出たあとは、温泉に浸かった後のようなスッキリ感を実感しました。
ずっと閉じこもっていたこの春、凝り固まっていた脳をほぐす意味でも、美術鑑賞は必要なことですね。
もちろんぼくらが大好きな仏像は代表的な対象ですが、宗教美術に限らず、美術全般、絵画に彫刻作品もそう。
そして、目を閉じて好きな音楽に浸る時間も同じように大事なことだと思います。

つまり、

アートは健康にいい!

ちょうどウイルス禍がひどかった3月末、ドイツ政府の文化相が、
「アーティストは今、生命維持に必要不可欠な存在」
と言ったのがニュースになりました。
自分は音楽家の端くれなので、音楽を作っていく意味を肯定できて前向きになれた瞬間でした。

ウイルスや人権問題など、誰もが避けて通れない大事な問題が課せられる現在ですが、音楽を含めた幅広い意味での「アート」をお忘れなきよう。むずかしい判断を誤らないためにも、脳と精神の健康を気を付けたいものですね。



特別展【超写実絵画の襲来 ホキ美術館所蔵】
Bunkamura ザ・ミュージアム
2020/6/11(木)~6/29(月)
10:00-18:00 (最終入館17:30)※変更の可能性あり
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/20_choshajitsu/



●おしらせ

本コラム筆者の”仏像バンド”ことThe Buttz(ザ・ブッツ)
新譜音源発売中

「日本書紀」成立1300年記念
飛鳥をテーマにしたミニアルバム『欣喜雀躍』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
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アルバムジャケットは飛鳥・橘寺の風景



宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m