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如意輪でつながる3つの大寺-石山寺・如意輪観音の旅 その8
”石山寺-醍醐寺-東大寺は、この時代、同じ密教流派による「真言密教トライアングル」を形成していた……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。宮澤やすみです。
ここ数回は、滋賀・石山寺をテーマにブツブツ書いております。
※出かけたのは2020年6月、ちょうど緊急事態が解除され状況が収まりかけていたタイミングでのこと。現地に迷惑を掛けないよう、充分に感染対策しての旅でした。
前回は、醍醐寺と石山寺を繋ぐ、「ファクターX」とは? で終わりました。
「ファクターX」の結論を言うと、やはり如意輪観音なのでした。
確認すると、如意輪観音は、空海ゆかりの真言密教を代表する尊格です。
いっぽう、石山寺は空海よりも昔の奈良時代から存在していた寺院(本尊も)です。
さて、このシリーズ連載では、石山寺に醍醐寺の僧が入ってきたことで、密教以前から存在した石山寺本尊が、密教の代表的尊格「如意輪観音」になった話をしてきましたが、醍醐寺は醍醐寺で注目すべき如意輪観音がいるのでした。
その如意輪観音は、座り方が「踏み下げ」のかたちのものなんですね。しかも10世紀作で、石山寺に来た淳祐(しゅんにゅう)内供さんの時代と重なります。
ネットに出ていた写真を埋め込みます↓
腕は六本あり、石山寺の二本腕とは異なりますが、座り方にご注目ください。これが「踏み下げ」という形で、石山寺本尊と共通します。
さらに、江戸時代の記録では、そもそも醍醐寺の本尊が二臂の像だったと書かれてあるそうです。
これらの情報は、前回同様、清水紀枝氏の論文『院政期真言密教をめぐる如意輪観音の造像と信仰』を参考にしています。
これが、カギになった可能性がありますね。
いつものクセで、想像してしまうんですけど、
「石山寺の踏み下げ形の観音さまって、醍醐寺の如意輪さまと似てなくない?」
そんな会議が、石山寺の会議室で交わされたんじゃないでしょうか(勝手な想像です)。
二臂であったり、特殊な座り方が共通していた、それを糸口に、淳祐さんは石山寺の本尊を「これは如意輪さまじゃ!」と呼んだんじゃないでしょうか。
石山寺多宝塔。二重めが円形のスタイルは真言宗系ならではの形。鎌倉時代の建築で現存最古の多宝塔
というわけで、平安時代の、石山寺の「観音」が「如意輪観音」に名前が変わる背景には、仏教のトレンド変化(密教化)があった、ということが見えてきました。
これで話が終わり、じゃないんですね。
ここで出てくる第三の寺院が、みなさんご存知、奈良の東大寺です。
この連載の第一回で紹介したとおり、石山寺は、もともと奈良時代は東大寺に関係が深い寺院でした。
それが平安時代、今度は、石山寺は醍醐寺とつながって真言密教の寺院に変化。
その後、淳祐さんの流れを汲むお弟子さんたちが、続々と東大寺に入るようになります。別当つまりお寺の経営に深く関わる立場の人が、石山寺関連の人びとだったのでした。
いっぽう、醍醐寺を開いた聖宝は修行時代を東大寺で過ごし、のちに東大寺内に東南院を建立しています。
そんなことから、石山寺-醍醐寺-東大寺は、この時代、同じ密教流派による「真言密教トライアングル」を形成していたのですね。
その証というかシンボルが、如意輪観音というわけです。
醍醐寺の本尊が如意輪観音であり、石山寺の本尊も如意輪観音になった。そして東大寺は、
大仏殿の大仏脇侍が如意輪観音。
しかも二臂、踏み下げの姿をした石山寺と同じスタイルでした(現在の像は江戸期の作で、坐法が変わっています)。
「如意輪観音で、ひとつになろう」
そんなキャッチコピーが唱えられたんでしょうか。
平安時代なかばに、都の郊外の大寺院で、大連合ができたのでした。
現代にたとえると、新興勢力だったGoogleが、Youtubeなどいろんな会社をどんどん買収して大きくなっていった、そんな様相を想像してしまいます。
それでは聴いてください。ニルヴァーナで「世界を売った男」
なんと次回も石山寺シリーズです! 長い!
(おもな過去記事)
奇岩に座すカミ-石山寺・如意輪観音の旅 その1
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20200714-2/
(東大寺と関連する石山寺創建伝承)
「観世音」が「如意輪」になる-石山寺・如意輪観音の旅 その5
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20200811-2/
(石山寺の古代から中世までの年表まとめ)
●おしらせ
本コラム筆者・宮澤やすみの”仏像バンド”ことThe Buttz(ザ・ブッツ)
新譜音源発売中
「日本書紀」成立1300年記念
飛鳥をテーマにしたミニアルバム『欣喜雀躍』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/buybuttz.html
アルバムジャケットは飛鳥・橘寺の風景。手前の礎石は石山寺の石を使った川原寺の復元
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。宮澤やすみです。
ここ数回は、滋賀・石山寺をテーマにブツブツ書いております。
※出かけたのは2020年6月、ちょうど緊急事態が解除され状況が収まりかけていたタイミングでのこと。現地に迷惑を掛けないよう、充分に感染対策しての旅でした。
前回は、醍醐寺と石山寺を繋ぐ、「ファクターX」とは? で終わりました。
「ファクターX」の結論を言うと、やはり如意輪観音なのでした。
確認すると、如意輪観音は、空海ゆかりの真言密教を代表する尊格です。
いっぽう、石山寺は空海よりも昔の奈良時代から存在していた寺院(本尊も)です。
さて、このシリーズ連載では、石山寺に醍醐寺の僧が入ってきたことで、密教以前から存在した石山寺本尊が、密教の代表的尊格「如意輪観音」になった話をしてきましたが、醍醐寺は醍醐寺で注目すべき如意輪観音がいるのでした。
その如意輪観音は、座り方が「踏み下げ」のかたちのものなんですね。しかも10世紀作で、石山寺に来た淳祐(しゅんにゅう)内供さんの時代と重なります。
ネットに出ていた写真を埋め込みます↓
腕は六本あり、石山寺の二本腕とは異なりますが、座り方にご注目ください。これが「踏み下げ」という形で、石山寺本尊と共通します。
さらに、江戸時代の記録では、そもそも醍醐寺の本尊が二臂の像だったと書かれてあるそうです。
これらの情報は、前回同様、清水紀枝氏の論文『院政期真言密教をめぐる如意輪観音の造像と信仰』を参考にしています。
これが、カギになった可能性がありますね。
いつものクセで、想像してしまうんですけど、
「石山寺の踏み下げ形の観音さまって、醍醐寺の如意輪さまと似てなくない?」
そんな会議が、石山寺の会議室で交わされたんじゃないでしょうか(勝手な想像です)。
二臂であったり、特殊な座り方が共通していた、それを糸口に、淳祐さんは石山寺の本尊を「これは如意輪さまじゃ!」と呼んだんじゃないでしょうか。
石山寺多宝塔。二重めが円形のスタイルは真言宗系ならではの形。鎌倉時代の建築で現存最古の多宝塔
というわけで、平安時代の、石山寺の「観音」が「如意輪観音」に名前が変わる背景には、仏教のトレンド変化(密教化)があった、ということが見えてきました。
これで話が終わり、じゃないんですね。
ここで出てくる第三の寺院が、みなさんご存知、奈良の東大寺です。
この連載の第一回で紹介したとおり、石山寺は、もともと奈良時代は東大寺に関係が深い寺院でした。
それが平安時代、今度は、石山寺は醍醐寺とつながって真言密教の寺院に変化。
その後、淳祐さんの流れを汲むお弟子さんたちが、続々と東大寺に入るようになります。別当つまりお寺の経営に深く関わる立場の人が、石山寺関連の人びとだったのでした。
いっぽう、醍醐寺を開いた聖宝は修行時代を東大寺で過ごし、のちに東大寺内に東南院を建立しています。
そんなことから、石山寺-醍醐寺-東大寺は、この時代、同じ密教流派による「真言密教トライアングル」を形成していたのですね。
その証というかシンボルが、如意輪観音というわけです。
醍醐寺の本尊が如意輪観音であり、石山寺の本尊も如意輪観音になった。そして東大寺は、
大仏殿の大仏脇侍が如意輪観音。
しかも二臂、踏み下げの姿をした石山寺と同じスタイルでした(現在の像は江戸期の作で、坐法が変わっています)。
「如意輪観音で、ひとつになろう」
そんなキャッチコピーが唱えられたんでしょうか。
平安時代なかばに、都の郊外の大寺院で、大連合ができたのでした。
現代にたとえると、新興勢力だったGoogleが、Youtubeなどいろんな会社をどんどん買収して大きくなっていった、そんな様相を想像してしまいます。
それでは聴いてください。ニルヴァーナで「世界を売った男」
なんと次回も石山寺シリーズです! 長い!
(おもな過去記事)
奇岩に座すカミ-石山寺・如意輪観音の旅 その1
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20200714-2/
(東大寺と関連する石山寺創建伝承)
「観世音」が「如意輪」になる-石山寺・如意輪観音の旅 その5
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20200811-2/
(石山寺の古代から中世までの年表まとめ)
●おしらせ
本コラム筆者・宮澤やすみの”仏像バンド”ことThe Buttz(ザ・ブッツ)
新譜音源発売中
「日本書紀」成立1300年記念
飛鳥をテーマにしたミニアルバム『欣喜雀躍』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
↓↓↓
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アルバムジャケットは飛鳥・橘寺の風景。手前の礎石は石山寺の石を使った川原寺の復元
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宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m