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仏像に宿る坂東武者の気概-八王子の横山党
”平安、鎌倉の有名な仏像たちに、横山党や地元の武士が関わっています……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。先日は京都の二条城の重要文化財建築・御清所で三味線を弾いてきました。NHKの全国ニュースになったのでご覧になった人もいるかもしれないですね。
ご覧になっていない方は、こちらの新聞記事をどうぞ。
さて、前回は八王子市夢美術館での「みちのくの仏像」写真展をご紹介しましたが、この八王子で行ってみたかった場所があります。
それは、八王子八雲八幡神社。
この地域から出た武士団「横山党」の開祖・横山義孝が、石清水八幡宮を勧請して創建した神社です。
八幡神と素戔嗚尊(スサノオ)を祀る八王子八雲八幡神社。八雲とはスサノオを祀る神社のことで、牛頭天王と習合したもの。八王子(牛頭天王の眷属神)の地名由来はここから
境内にある案内板によると、「この境内付近一帯が横山党の根拠地であったと考えられています」とのこと。
八幡社の摂社として、横山党の開祖・横山義孝を祀る「横山神社」がある
横山党は、中世の武蔵国で活躍した「武蔵七党」といわれる武士団のうち、最大規模の集団でした。
小野妹子、小野篁などの血筋を引く小野氏が源流だそうで、ここ八王子を拠点に、多摩地域を治めました。
源氏をサポートして、源平の合戦でも活躍。鎌倉幕府の立ち上げに尽力しています。
この横山党にまつわる八王子の仏像で、仏像ファンが押さえておきたいのは、龍見寺に伝わる大日如来坐像です。
言い伝えでは、横山党の武士・横山経兼(つねかね)が発願した仏像とされます。
始祖・横山義孝の孫である経兼は、前九年の役で源頼義に付いて東北に赴き活躍しました。
そのころ、東北は一大仏教文化が花開く時代。
経兼は、きらびやかな仏閣や、荘厳な山岳信仰世界に魅了されたかもしれません。
言い伝えでは、経兼が湯殿山の本地仏である大日如来を勧請(仏でも勧請というのがいかにも神仏習合的です)して、横山党本拠地である八王子に祀ったといいます。
何度か移転して、現在は龍見寺のお堂にあります。
龍見寺の大日如来坐像。許可を得て撮影
平安末期のおだやかな風貌ながら、体つきは引き締まり、衣文のリアルな彫り方など、次の時代の彫刻様式の萌芽も感じる、美してカッコいい像です。
縁あって、僕はこのお像の前で、大日如来ソングなど歌わせていただきました。その節は大変お世話になりました。
横山神社の解説によると、
「横山一族の男たちは義を貫き、勇をもって世の中が平和になるよう鎌倉幕府創業に尽力」
したとあります。カッコいい男たちの集まりです。
しかし源氏の世は短く、その後は北条氏が台頭してきます。
横山一族は、三浦半島・横須賀の和田義盛とともに鎌倉幕府を支えた「初期メンバー」みたいなものです。両者協力して北条氏に対抗し、北条VS和田の「和田合戦」に臨みます。
横山党の勢力は、横山時兼を筆頭に3000騎。和田一族とともに奮闘するも、あえなく惨敗。
和田義盛はかろうじて生き残るも鎌倉幕府の要職を解かれ、これ以降は北条氏の天下になるのでした。
そして、この和田義盛といえば、横須賀・浄楽寺の運慶仏を造らせた、まさにその方なんです。
そんなわけで、平安、鎌倉の有名な華麗な仏像に、横山党や地元の武士、いわゆる「坂東武者」が関わっています。
♪坂東武者の名を留めし 衣笠城址西にして……
という歌は、僕の母校・神奈川県立横須賀高校に伝わる古い応援歌なんですけど、勇ましい行進曲調の歌は、正式な校歌よりも頻繁に歌われました。
高校に隣接する曹源寺には、運慶作ともいわれる十二神将像(東京国立博物館寄託)がありますし。浄楽寺もバスで近いです。
この地が、数々の仏像と義を貫く武士たちが関わるドラマティックな土地だと知ったのは大人になってからでした。
仏像を軸に、こうした時代と人間関係を調べていくのもおもしろそうですね。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「Great Sunshine Boy」
(龍見寺大日如来が登場します)
(過去記事)
八王子のイケメン仏像
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20161015-2/
三浦半島の傑作仏
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20170513-2/
●おしらせ
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロアルバム
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
2021年1月13日発売しました
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
2.
宮澤やすみ監修 中村文人著
『仏像”ここ見て”調査隊 奈良編』
『仏像”ここ見て”調査隊 京都編』
くもん出版から発売中
https://amzn.to/3dDMYpn
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。先日は京都の二条城の重要文化財建築・御清所で三味線を弾いてきました。NHKの全国ニュースになったのでご覧になった人もいるかもしれないですね。
ご覧になっていない方は、こちらの新聞記事をどうぞ。
さて、前回は八王子市夢美術館での「みちのくの仏像」写真展をご紹介しましたが、この八王子で行ってみたかった場所があります。
それは、八王子八雲八幡神社。
この地域から出た武士団「横山党」の開祖・横山義孝が、石清水八幡宮を勧請して創建した神社です。
八幡神と素戔嗚尊(スサノオ)を祀る八王子八雲八幡神社。八雲とはスサノオを祀る神社のことで、牛頭天王と習合したもの。八王子(牛頭天王の眷属神)の地名由来はここから
境内にある案内板によると、「この境内付近一帯が横山党の根拠地であったと考えられています」とのこと。
八幡社の摂社として、横山党の開祖・横山義孝を祀る「横山神社」がある
横山党は、中世の武蔵国で活躍した「武蔵七党」といわれる武士団のうち、最大規模の集団でした。
小野妹子、小野篁などの血筋を引く小野氏が源流だそうで、ここ八王子を拠点に、多摩地域を治めました。
源氏をサポートして、源平の合戦でも活躍。鎌倉幕府の立ち上げに尽力しています。
この横山党にまつわる八王子の仏像で、仏像ファンが押さえておきたいのは、龍見寺に伝わる大日如来坐像です。
言い伝えでは、横山党の武士・横山経兼(つねかね)が発願した仏像とされます。
始祖・横山義孝の孫である経兼は、前九年の役で源頼義に付いて東北に赴き活躍しました。
そのころ、東北は一大仏教文化が花開く時代。
経兼は、きらびやかな仏閣や、荘厳な山岳信仰世界に魅了されたかもしれません。
言い伝えでは、経兼が湯殿山の本地仏である大日如来を勧請(仏でも勧請というのがいかにも神仏習合的です)して、横山党本拠地である八王子に祀ったといいます。
何度か移転して、現在は龍見寺のお堂にあります。
龍見寺の大日如来坐像。許可を得て撮影
平安末期のおだやかな風貌ながら、体つきは引き締まり、衣文のリアルな彫り方など、次の時代の彫刻様式の萌芽も感じる、美してカッコいい像です。
縁あって、僕はこのお像の前で、大日如来ソングなど歌わせていただきました。その節は大変お世話になりました。
横山神社の解説によると、
「横山一族の男たちは義を貫き、勇をもって世の中が平和になるよう鎌倉幕府創業に尽力」
したとあります。カッコいい男たちの集まりです。
しかし源氏の世は短く、その後は北条氏が台頭してきます。
横山一族は、三浦半島・横須賀の和田義盛とともに鎌倉幕府を支えた「初期メンバー」みたいなものです。両者協力して北条氏に対抗し、北条VS和田の「和田合戦」に臨みます。
横山党の勢力は、横山時兼を筆頭に3000騎。和田一族とともに奮闘するも、あえなく惨敗。
和田義盛はかろうじて生き残るも鎌倉幕府の要職を解かれ、これ以降は北条氏の天下になるのでした。
そして、この和田義盛といえば、横須賀・浄楽寺の運慶仏を造らせた、まさにその方なんです。
そんなわけで、平安、鎌倉の有名な華麗な仏像に、横山党や地元の武士、いわゆる「坂東武者」が関わっています。
♪坂東武者の名を留めし 衣笠城址西にして……
という歌は、僕の母校・神奈川県立横須賀高校に伝わる古い応援歌なんですけど、勇ましい行進曲調の歌は、正式な校歌よりも頻繁に歌われました。
高校に隣接する曹源寺には、運慶作ともいわれる十二神将像(東京国立博物館寄託)がありますし。浄楽寺もバスで近いです。
この地が、数々の仏像と義を貫く武士たちが関わるドラマティックな土地だと知ったのは大人になってからでした。
仏像を軸に、こうした時代と人間関係を調べていくのもおもしろそうですね。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「Great Sunshine Boy」
(龍見寺大日如来が登場します)
(過去記事)
八王子のイケメン仏像
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20161015-2/
三浦半島の傑作仏
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20170513-2/
●おしらせ
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロアルバム
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
2021年1月13日発売しました
購入は「やすみ直販」で
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(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
2.
宮澤やすみ監修 中村文人著
『仏像”ここ見て”調査隊 奈良編』
『仏像”ここ見て”調査隊 京都編』
くもん出版から発売中
https://amzn.to/3dDMYpn
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m