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怨霊との関わり?-「国宝 鳥獣戯画のすべて」展
”楽しい鳥獣戯画の世界に、怨霊とはもっとも似つかわしくないワードですが、なぜでしょうか……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。先日は活動写真(サイレント映画)の生伴奏として三味線を弾いてきました。感染対策で人数制限の中でしたがそれでも観客の拍手はおおいに励みになりました。
そんな中、東京国立博物館では、特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」を取材してきました。
写真は報道内覧会で許可を得ての撮影です。
今回の最大の特徴は、「鳥獣戯画」の全巻展示。
うさぎやカエルの遊びで有名なのが①甲巻で、ほかに、どうぶつ大集合的な②乙巻、庶民の素朴な遊びが楽しい③丙巻、ヘタウマな筆さばきに和む④丁巻、
全四巻とも、どれも面白さ抜群で、見ながら終始笑みがこぼれます。
本展の新兵器、動く歩道に乗っての観覧。ゆっくりスピードで誰にも邪魔されずじっくり見られて、とても具合がよいです
僕の場合、コロナの巣ごもり以降、動物の動画ばっかり見ているので、乙巻の動物描写に見入りました。
麒麟や獏など、空想上の動物も描かれていて、なかでも獅子がいいです。
よく屏風絵などに描かれている獅子はスッと雄々しく立つポーズが多いのに、乙巻では、ネコそのまんまにペタンと座り、後ろ足で耳をカキカキしてるんですよ。そんな愛らしい獅子の絵、見たことあります? これを見るだけでも価値ありです。
ネコ好き必見。公家のマネをしたネコがかわいい
広くスペースをとった展示室はかわいい順路案内とシンプルな解説で、子供でも楽しめるようになっています。いっぽう、図録には原寸大の図版と充実した論文集がありますから、お好きな方はぜひ図録購入をおすすめします。
全体的に、鳥獣戯画が「マンガの原点」と言われたりするがそう単純に言えるものではない、という論調で、複数のテーマに複数の執筆者が寄稿なさっています。
散逸した断簡を繋ぎ合わせるとこうなる、という解説が興味深いです
なかでも目を引いたテーマは、鳥獣戯画が「何のために描かれたのか」ということ。
論文では、その答えを「怨霊」というワードで推測しています。
楽しい楽しい鳥獣戯画の世界に、怨霊とはもっとも似つかわしくないワードですが、なぜでしょうか…?
個人的に「好きな高僧ナンバーワン」の明恵上人。その木像が28年ぶり寺外公開。鳥獣戯画を所蔵する高山寺を中興した鎌倉時代の僧
松嶋雅人氏「犬のいない甲巻」という文章によると、甲巻には当時穢れた動物とされた犬や馬、牛などが描かれない。登場するのは、「月にかかわる動物でもある」(引用)カエル、ウサギ、猿たちで、甲巻全体で清浄な世界(黄泉の世界)を表現しているとのこと。
宮廷行事が描かれていることや、絵自体の非凡なクオリティからして、これは皇室などの特別な注文で描かれたと推測され、その目的こそ怨霊鎮めだというのです。
というのも、鳥獣戯画甲巻が描かれたのは、平安末期。源平の争乱でたくさんの人が死んだ時代です。
朝廷も武士も、大切な人を失い、「非業の死を遂げた高貴な人物は数多い」(引用)。
なかでも松嶋氏は、この時代に亡くなったある高貴な人物の「怨霊化を鎮めるため、穏やかで神聖な世界を描いた甲巻が生まれたと考えたい」といいます。
その人物とは。松嶋氏は、壇ノ浦の合戦で海中へ没した安徳天皇ではないかと推測なさっています。
じつに面白い仮説でありますね。
黄泉の国で神聖な動物たちが戯れる楽しそうなようす、これを捧げて、壇ノ浦で最期を遂げた幼い天皇の魂を鎮める……。
たしかに言われてみれば、楽しそうな中に上品さのあるEテレの番組みたいな甲巻の世界観をみると、そういう仮説も無理なく納得できるように思いました。
なお、乙巻は牛も馬もどーんと登場。丙巻丁巻は人間臭いバカバカしさ満載です。甲巻がEテレとすると丁巻はテレ東です(笑)。描かれた時代がちがうそうです。
名仏師・湛慶の作ともいわれる子犬像も展示
それでは聴いてください。
ダフト・パンクで「Human After All」
特別展【国宝 鳥獣戯画のすべて】
2021年4月13日(火)~5月30日(日)
月曜休館 ※5月3日(月祝)は開館
東京国立博物館 平成館
詳細は
https://chojugiga2020.exhibit.jp/
※事前予約制です
(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
●ネット試聴:
5/1(土)20:00 Youtube配信(有料)
ご試聴:https://youtu.be/b1z2MOeThtA
お支払:http://yasumimiyazawa.com/donation.html
※ネット決済のほか振込・振替もご案内しています。
会場となる飲食店の救済もありご協力お願いします。
●会場観覧:
4/30(金) 17:30開場 18:00開演
18:00 懐かしポップを三味線で
19:00 小唄と江戸の唄
各30分
上野御徒町ワロスロード・カフェ
M&Tチャージ2,500円+ご飲食代
フライヤーPDF
2.(アルバムCD,ダウンロード)
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
3.(著書)
宮澤やすみ監修 中村文人著
『仏像”ここ見て”調査隊 奈良編』
『仏像”ここ見て”調査隊 京都編』
くもん出版から発売中
https://amzn.to/3dDMYpn
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。先日は活動写真(サイレント映画)の生伴奏として三味線を弾いてきました。感染対策で人数制限の中でしたがそれでも観客の拍手はおおいに励みになりました。
そんな中、東京国立博物館では、特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」を取材してきました。
写真は報道内覧会で許可を得ての撮影です。
今回の最大の特徴は、「鳥獣戯画」の全巻展示。
うさぎやカエルの遊びで有名なのが①甲巻で、ほかに、どうぶつ大集合的な②乙巻、庶民の素朴な遊びが楽しい③丙巻、ヘタウマな筆さばきに和む④丁巻、
全四巻とも、どれも面白さ抜群で、見ながら終始笑みがこぼれます。
本展の新兵器、動く歩道に乗っての観覧。ゆっくりスピードで誰にも邪魔されずじっくり見られて、とても具合がよいです
僕の場合、コロナの巣ごもり以降、動物の動画ばっかり見ているので、乙巻の動物描写に見入りました。
麒麟や獏など、空想上の動物も描かれていて、なかでも獅子がいいです。
よく屏風絵などに描かれている獅子はスッと雄々しく立つポーズが多いのに、乙巻では、ネコそのまんまにペタンと座り、後ろ足で耳をカキカキしてるんですよ。そんな愛らしい獅子の絵、見たことあります? これを見るだけでも価値ありです。
ネコ好き必見。公家のマネをしたネコがかわいい
広くスペースをとった展示室はかわいい順路案内とシンプルな解説で、子供でも楽しめるようになっています。いっぽう、図録には原寸大の図版と充実した論文集がありますから、お好きな方はぜひ図録購入をおすすめします。
全体的に、鳥獣戯画が「マンガの原点」と言われたりするがそう単純に言えるものではない、という論調で、複数のテーマに複数の執筆者が寄稿なさっています。
散逸した断簡を繋ぎ合わせるとこうなる、という解説が興味深いです
なかでも目を引いたテーマは、鳥獣戯画が「何のために描かれたのか」ということ。
論文では、その答えを「怨霊」というワードで推測しています。
楽しい楽しい鳥獣戯画の世界に、怨霊とはもっとも似つかわしくないワードですが、なぜでしょうか…?
個人的に「好きな高僧ナンバーワン」の明恵上人。その木像が28年ぶり寺外公開。鳥獣戯画を所蔵する高山寺を中興した鎌倉時代の僧
松嶋雅人氏「犬のいない甲巻」という文章によると、甲巻には当時穢れた動物とされた犬や馬、牛などが描かれない。登場するのは、「月にかかわる動物でもある」(引用)カエル、ウサギ、猿たちで、甲巻全体で清浄な世界(黄泉の世界)を表現しているとのこと。
宮廷行事が描かれていることや、絵自体の非凡なクオリティからして、これは皇室などの特別な注文で描かれたと推測され、その目的こそ怨霊鎮めだというのです。
というのも、鳥獣戯画甲巻が描かれたのは、平安末期。源平の争乱でたくさんの人が死んだ時代です。
朝廷も武士も、大切な人を失い、「非業の死を遂げた高貴な人物は数多い」(引用)。
なかでも松嶋氏は、この時代に亡くなったある高貴な人物の「怨霊化を鎮めるため、穏やかで神聖な世界を描いた甲巻が生まれたと考えたい」といいます。
その人物とは。松嶋氏は、壇ノ浦の合戦で海中へ没した安徳天皇ではないかと推測なさっています。
じつに面白い仮説でありますね。
黄泉の国で神聖な動物たちが戯れる楽しそうなようす、これを捧げて、壇ノ浦で最期を遂げた幼い天皇の魂を鎮める……。
たしかに言われてみれば、楽しそうな中に上品さのあるEテレの番組みたいな甲巻の世界観をみると、そういう仮説も無理なく納得できるように思いました。
なお、乙巻は牛も馬もどーんと登場。丙巻丁巻は人間臭いバカバカしさ満載です。甲巻がEテレとすると丁巻はテレ東です(笑)。描かれた時代がちがうそうです。
名仏師・湛慶の作ともいわれる子犬像も展示
それでは聴いてください。
ダフト・パンクで「Human After All」
特別展【国宝 鳥獣戯画のすべて】
2021年4月13日(火)~5月30日(日)
月曜休館 ※5月3日(月祝)は開館
東京国立博物館 平成館
詳細は
https://chojugiga2020.exhibit.jp/
※事前予約制です
(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
●ネット試聴:
5/1(土)20:00 Youtube配信(有料)
ご試聴:https://youtu.be/b1z2MOeThtA
お支払:http://yasumimiyazawa.com/donation.html
※ネット決済のほか振込・振替もご案内しています。
会場となる飲食店の救済もありご協力お願いします。
●会場観覧:
4/30(金) 17:30開場 18:00開演
18:00 懐かしポップを三味線で
19:00 小唄と江戸の唄
各30分
上野御徒町ワロスロード・カフェ
M&Tチャージ2,500円+ご飲食代
フライヤーPDF
2.(アルバムCD,ダウンロード)
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
3.(著書)
宮澤やすみ監修 中村文人著
『仏像”ここ見て”調査隊 奈良編』
『仏像”ここ見て”調査隊 京都編』
くもん出版から発売中
https://amzn.to/3dDMYpn
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m