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「非注意性盲目」を解消する仏像ガイドの仕事
”目の前にあるものに向き合っているだけだと、視覚的な認知としては「見てない」んですね……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。普段トイレに行くときスマホを持っていくのですが、こないだは気づいたらテレビのリモコンをもっていた宮澤やすみです。
前回、わたくしが監修した新刊『仏像”ここ見て”調査隊』に関連してあれこれ書きましたが、返す返すも思いますのは、「ここ見て」ということの大事さでございます。
以前ぼくは仏像めぐりツアーのガイドを仕事をやっていたので、そこで思ったことです。
お堂に入って、目の前にお目当ての仏像を前にしてツアー客へ話をするのですが、仕事を始めた当初は、仏さまの前であれこれしゃべくるのに気が引けて、なるべく言葉を少なく、あとは皆さんの自由な拝観時間をとろうとしてたんですね。
でも、それだと全然だめなんですね。
バスに戻ってから「何をみたのか全然印象に残ってない」みたいな感想をもらうことがよくありました。
奈良・飛鳥寺にて。あさっての方向を指さしているけどたぶん「この先に蘇我入鹿の墓が」とか言っているんでしょう
客層は仏像ファンが多いから「もう言わなくてもわかるだろ」と思ってたんですが、やっぱりひとつひとつ言わないと理解されないんですね。
それで、「ここの髪の生え際を見て」「ひざのあたりの衣のシワが」とか、具体的にピンポイントで拝観者の視線を誘導しますと、みなさん食い入るように見て、仏像と向き合ってくれました。
もちろん、存在の意味とかお寺の歴史とかを話したうえでのことですが。
仏像に限らず、人間の認知の落とし穴として、「非注意性盲目」というのがあるそうです。
見る対象への注意の向け方によって、目の前で見えている事象が正しく認識できないんだそうです。
興味ある人は、検索するといろいろ出るので見てみてください。実験動画なんかも上がっててすごく面白いです。
栃木・大関観音にて。こういう地方に隠れた仏像は細かい”ここ見て”ポイントを指し示す必要があります
だから、漠然と目の前にあるものに向き合っているだけだと、視覚的な認知としては「見てない」んですね。
じつは、自分もどちらかというと、視覚的にはあんまり細かく見ず、仏像を前にして妄想ばっかりしていたほうで(だから『仏像にインタビュー』なんて本ができたのです)、学者には向いていないんだと思います。学者の先生はなにしろ微細な箇所を見分けて研究する、「見る」ことのプロですからね。
では仏教のプロであるお坊さんはどうかというと、宗教的立場から仏に向き合うので、像としての仏像を見ている人は意外に少ないかもしれません。ぼくは以前にお坊さん向けに仏像講座をしたことがあるのですが、お坊さんて意外と仏像自体の知識はあんまり無いんだなと驚いたことがあります。お坊さんは実践主義ですからそういうものかもしれません。
だから、旅行会社で「僧侶がガイドする仏像ツアー」というのもありましたが、それはわりと法話をいただくのが目的という信徒さんの参加が多かったように思います。
先述の仏像めぐりツアーのお客さんは、旅行好きな中高年女性が中心のもので、おしゃべり大好き。だからとにかくいろいろ話すことに注力したものでした。帰りのバス車内では「ご開帳ブルース」や「夕焼けの法華堂」を歌ったものでした。おかげで、このクセが抜けず、自分の音楽ライブのとき「しゃべりすぎ」と言われたりするんですけどね。
埼玉・川口市主催のツアーにて。自分で秘仏の扉を開けて見せるという貴重なお仕事も
自分の個人的な好みとしては、余計なうんちくナシで、とにかく静かに自由拝観させてもらいたいと思うのだけど、そういう人はそもそもツアーとか参加しないのであります。
つかず離れず、お客さんが仏像に浸っているときは邪魔しない、でも欲しているときはしゃべる、このバランスを体得するまで苦労しました。
一般の仏像ファンのみなさんは、いろいろ細かいうんちくを言ってくれるガイドがいたら、楽しいですか? それともウザいですか?
今回は、そんなとりとめのない話でスミマセン。次週はちゃんとした話題にします(たぶん)。
それでは聴いてください。
カルチャー・クラブで「Miss Me Blind」
(参考)
宮澤やすみ文・絵
『仏像にインタビュー』
https://amzn.to/3uXwBK7
(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。普段トイレに行くときスマホを持っていくのですが、こないだは気づいたらテレビのリモコンをもっていた宮澤やすみです。
前回、わたくしが監修した新刊『仏像”ここ見て”調査隊』に関連してあれこれ書きましたが、返す返すも思いますのは、「ここ見て」ということの大事さでございます。
以前ぼくは仏像めぐりツアーのガイドを仕事をやっていたので、そこで思ったことです。
お堂に入って、目の前にお目当ての仏像を前にしてツアー客へ話をするのですが、仕事を始めた当初は、仏さまの前であれこれしゃべくるのに気が引けて、なるべく言葉を少なく、あとは皆さんの自由な拝観時間をとろうとしてたんですね。
でも、それだと全然だめなんですね。
バスに戻ってから「何をみたのか全然印象に残ってない」みたいな感想をもらうことがよくありました。
奈良・飛鳥寺にて。あさっての方向を指さしているけどたぶん「この先に蘇我入鹿の墓が」とか言っているんでしょう
客層は仏像ファンが多いから「もう言わなくてもわかるだろ」と思ってたんですが、やっぱりひとつひとつ言わないと理解されないんですね。
それで、「ここの髪の生え際を見て」「ひざのあたりの衣のシワが」とか、具体的にピンポイントで拝観者の視線を誘導しますと、みなさん食い入るように見て、仏像と向き合ってくれました。
もちろん、存在の意味とかお寺の歴史とかを話したうえでのことですが。
仏像に限らず、人間の認知の落とし穴として、「非注意性盲目」というのがあるそうです。
見る対象への注意の向け方によって、目の前で見えている事象が正しく認識できないんだそうです。
興味ある人は、検索するといろいろ出るので見てみてください。実験動画なんかも上がっててすごく面白いです。
栃木・大関観音にて。こういう地方に隠れた仏像は細かい”ここ見て”ポイントを指し示す必要があります
だから、漠然と目の前にあるものに向き合っているだけだと、視覚的な認知としては「見てない」んですね。
じつは、自分もどちらかというと、視覚的にはあんまり細かく見ず、仏像を前にして妄想ばっかりしていたほうで(だから『仏像にインタビュー』なんて本ができたのです)、学者には向いていないんだと思います。学者の先生はなにしろ微細な箇所を見分けて研究する、「見る」ことのプロですからね。
では仏教のプロであるお坊さんはどうかというと、宗教的立場から仏に向き合うので、像としての仏像を見ている人は意外に少ないかもしれません。ぼくは以前にお坊さん向けに仏像講座をしたことがあるのですが、お坊さんて意外と仏像自体の知識はあんまり無いんだなと驚いたことがあります。お坊さんは実践主義ですからそういうものかもしれません。
だから、旅行会社で「僧侶がガイドする仏像ツアー」というのもありましたが、それはわりと法話をいただくのが目的という信徒さんの参加が多かったように思います。
先述の仏像めぐりツアーのお客さんは、旅行好きな中高年女性が中心のもので、おしゃべり大好き。だからとにかくいろいろ話すことに注力したものでした。帰りのバス車内では「ご開帳ブルース」や「夕焼けの法華堂」を歌ったものでした。おかげで、このクセが抜けず、自分の音楽ライブのとき「しゃべりすぎ」と言われたりするんですけどね。
埼玉・川口市主催のツアーにて。自分で秘仏の扉を開けて見せるという貴重なお仕事も
自分の個人的な好みとしては、余計なうんちくナシで、とにかく静かに自由拝観させてもらいたいと思うのだけど、そういう人はそもそもツアーとか参加しないのであります。
つかず離れず、お客さんが仏像に浸っているときは邪魔しない、でも欲しているときはしゃべる、このバランスを体得するまで苦労しました。
一般の仏像ファンのみなさんは、いろいろ細かいうんちくを言ってくれるガイドがいたら、楽しいですか? それともウザいですか?
今回は、そんなとりとめのない話でスミマセン。次週はちゃんとした話題にします(たぶん)。
それでは聴いてください。
カルチャー・クラブで「Miss Me Blind」
(参考)
宮澤やすみ文・絵
『仏像にインタビュー』
https://amzn.to/3uXwBK7
(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m