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「平安の仏女たち」は長谷寺詣でをどう書き残したか

”「推し仏がキラキラ見える!」「尊い」昔も今も、そのへんは変わらないんですね……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。最近、猫に話しかけられることが続いている宮澤やすみです。先日は自宅近くの路地で野良猫に呼び止められました。「おまえ、見ねえ顔だな…新入りか」とでも言ってるような凄みを感じました。

さて、ここ何回か、観音さんの話をしています。
観音さんって女性なの男性なのという話から始まって、いろんな例をみて、女性をイメージした像は鎌倉時代からあるけれど、どうやら現代人がイメージする女性的な観音像は、江戸時代くらいからポピュラーになった?というような流れになってきました。


奈良・長谷寺の本尊十一面観音は像高12メートル余。現在の像は天文7年(1538年)の再興。写真は近鉄の駅ポスターを撮ったもの

それより昔の、奈良時代や平安時代の有名な十一面観音なんかは官能的なお姿をしていて、まあワタクシも10年くらい前はテレビラジオで「魅惑のセクシー観音!」とか言ってました。だけど、実際はその一言だけで片付けられないものがあるんですよね。

たとえば白洲正子さんの言葉を借りますと、奈良・聖林寺の十一面観音像を見て「女躰でありながら精神はあくまでも男」と随筆で書いています。体つきがセクシーな姿態なのは確かなんですけど、顔立ちは厳格なんですね。
とはいえ、白洲さんもはっきりと「女躰」と書くあたりは、我々と同じ近代以後の目で仏像を見ています。

じゃあ、昔の人の観音イメージはどんなのだったのだろう? と思って平安時代の記述をざっとみてみると、平安時代の女性たちはこぞって観音参りをしてます。そのなかで二大人気スポットは滋賀の石山寺と奈良の長谷寺でした。


清少納言もこのような登廊をヒーヒー言いながら上ったという

なかでも長谷寺詣でについて注目すると、『源氏物語』では、その観音というか仏の霊験をたたえるような言葉使いがみえます。

この連載で前回紹介した長谷寺の霊験記でも”大和の長谷寺のすごいパワーが唐にまで届いていた!”という話がありましたが、あれは『源氏物語』の「玉鬘」の巻で書かれていた事で、それを引用したものと思われます。

『更級日記』でも長谷寺詣でについて、旅の道中で盗賊を心配したこととか、鏡を奉納したこととか、杉の木でおまじないをしておけばよかったとかいろいろ書かれています。

『枕草子』でも長谷寺詣では書かれているんですけど、
「蓑虫みたいな服を着た(身分の低い)者たちが、私たち貴人に遠慮もなく集まって参拝していてちょ~ムカつく!後ろから押し倒してやりたい!」
とかなりの調子でディスっていて、さすが清少納言さん一味ちがうなと思いました。
もし清少納言が今ツイッターやってたらかなり炎上体質の投稿をすることでしょう。


長谷寺本堂は江戸時代の建築。右手のほうに本尊がいてたくさんの参詣人が集まっている

まあそんな感じで、ともかく観音について女性性を指摘する言葉はあまり見当たらないようです。
そのかわり、枕草子に「仏のきらきらと見え給へるは、いみじうたふとき」(116段「正月に寺に籠りたるは」より)という記述がありまして、これはもう、現代の若い仏像ファンが使う言葉とおんなじですね。
「推し仏がキラキラ見える!」「尊い」
昔も今も、そのへんは変わらないんですね。


火災の度に再建を繰り返してきた長谷寺。本堂からの風景は平安時代と変わらないだろうか

日本の宗教と民俗学の大家、五来重先生によると、この時代の仏教は密教の呪術性が重んじられ、「衆生の願望をかなえる慈悲よりも、危難をすくう呪力、すなわち力による救済」が求められた(五来重『日本の庶民信仰』)と説明しています。
ということからも、古代の十一面観音は、前回までに紹介したような女性としての観音像を目的としているのではなく、神秘の存在として、今風に言うところの「パワー」を期待されたものと思われます。


長谷寺本堂は舞台造り。「宮澤さんここで演奏してくださいよ」と長谷寺の方に言っていただいたがなかなか実現できず、いつかやってみたい

また、この時代は花山法皇が西国三十三か所参りの端緒を作ったといわれ(実際はもう少し後の時代に確立したみたいですが)、末法思想を背景に、「あと数年で世は末法時代に突入する」という時期にあたります。
当時の貴族、とくにほぼ外出しない女性貴族がわざわざ何泊もかけて奈良まで出かけるというのは、かなりの大事だったことでしょう。
それだけ観音の霊験を本気で頼りにしてたわけですが、何度もでかけるうちに味をしめて、ちょっと旅の楽しみも覚えて、よい気晴らしになったかもしれないですね。

そして、長谷寺と並ぶ奈良いや日本の至宝・聖林寺の十一面観音菩薩が東京におでましになりますね。次回以降ご紹介したいと思います。


それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「夕焼けの法華堂 La La La 仏像めぐり」



(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
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6/25(金)18:00開演(休憩挟みながら20:00終了)
上野 御徒町 ワロスロード・カフェ
懐かしポップのカバーと江戸の小唄を、ゆるりと
飛沫の飛ばない静かなライブで疲れを癒してください
詳細はフライヤー

●ネット視聴:
6/26 Youtube配信(有料)
宮澤やすみYoutubeチャンネルにて
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/


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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m