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第258回 特別展「最澄と天台宗のすべて」まるで恐怖の魔王？元三大師
”元三大師の魔性が、厄除け祈願の頼りになったのでした……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。今週末に、年に一度のメイン演奏会「小唄 in 神楽坂」を控えている宮澤やすみです。私の一門総出の会で、自分はプロデューサー的立場。自分一人で演奏するよりも緊張が高いものです。
先日東京国立博物館の平成館で開幕した「最澄と天台宗のすべて」。
報道内覧会にいってきました。
先週の連載で、ざっと会場のようすを写真でご覧いただきまいた（特別に許可を得て撮影）。
「すべて」とタイトルにあるように、天台の教義伝来、比叡山の隆盛、各地への伝播と、天台宗を網羅した非常に内容の濃い展示です。
天台宗にまつわる珠玉の仏像群
その中から、わたくし宮澤がいちばん期待していたのは、東京・深大寺の元三大師坐像であります。
”大師”つまり高僧の像なのですが、よくある等身大の渋い肖像ではなく、像高２メートル。大迫力で恐怖すら感じる巨像です。
巨大すぎるわけではないものの、ふつうの人間の大きさにしては異様。ある意味絶妙な大きさの表現が恐怖感につながります
展示室での登場シーンを動画に撮りました。
その大きさを感じさせるニクい演出と申しましょうか、順路を進むとまず深大寺のアイドル・白鳳釈迦如来像の愛らしい姿が見え、ほっこりした気分になりかけたところへ、突然どーんと巨像が目に入るので、とてもびっくりするのです。
まずは、そのようすをご覧ください
この異様な存在感は何なのでしょうか？
骨ばった頭部がやけにリアルで、ギロリと睨むような白い眼が目立ちます。
仏像は、長年拝まれるとろうそくのススで黒くなる。この元三大師も黒々として、この日本人離れした表情は屈強なアフリカ人のよう。
黒光りした頭部。近づいて下から見ると思いのほかやさしい顔にも見える
ぼくは、ご開帳で初めて拝したときから、ジャズドラマーのエルヴィン・ジョーンズに似ていると思っていました。
モダンジャズの世界でもクセの強いリズム表現で、のちにジョン・コルトレーンと共にフリージャズの荒野を突き進む荒ぶるドラマーと、魔物に対抗する力強い元三大師のイメージが重なります（仏像ファンかつ音楽に興味ある人がどれくらいいるかわかりませんが、すみません何とかついてきてください）。
こちらはエルヴィン・ジョーンズ氏。どっちがどっちかわからないほど（笑）似てませんか！？ 私はパリのジャズクラブで晩年のエルヴィン・ジョーンズの生演奏を見たことがあり、度肝を抜かれました
話を元三大師に戻すと、このお方は古くから厄除け祈願の対象として拝まれてきました。
よく知られる姿は「角大師」と呼ばれる、鬼のような角が生えた異様な姿。お札でよく見かけるんじゃないでしょうか。
我が家の玄関に貼ってある元三大師（角大師）のお札。現在の滋賀県長浜市虎姫が生誕地
これ、良源（元三大師の僧名）が疫病退散のための祈願をしたときに、弟子が障子越しに見たシルエットが、角が生えた鬼のような姿をしていた、という伝承によります。
人類を脅かす魔物である疫病に対し、自らも鬼つまり魔物となって戦ったという、まるで鬼滅の刃みたいなエピソードです。
深大寺のHPによると、この像は鎌倉時代の作で、元寇に際して異国調伏のための造像の可能性に言及しています。
また、今回の図録には、
「祖師信仰の領域をはるかに超えて、魔除け、調伏といった人智を超えた力が期待された」（皿井舞「慈恵大師（元三大師）良源 救済と調伏の力をもつ高僧」）
とあり、それだけ元三大師の魔性が、厄除け祈願の頼りになったのでした。
そんな信仰の背景を考えると、今回展示の坐像の恐怖感も、たんに私の個人的な妄想ではないとわかります（エルヴィン・ジョーンズの件は完全に妄想ですが）。
魔物に対してするどい視線をなげかけるよう
元三大師は、僧名を良源といい、平安時代10世紀に比叡山延暦寺の伽藍や、宗派の風紀を立て直して、天台宗を盛り返した「中興の祖」と言われます。
亡くなった後、天皇から「慈恵」の謚（いみな：死後に付けられる称号）が与えられ、慈恵大師と呼ばれるように。
伝説になるほどの法力強大さから、おおよそ鎌倉時代以降、厄除け祈願の対象になって「元三大師」の通称も流行しました。
慈恵大師の命日が元日三日だったことからこの通称ができたそうです。
日付の面でも、初詣にちょうどよさそうですね。
この特別展は九州、京都へと巡回しますが、東京展ならではの出展、お見逃しなきよう。
それでは聴いてください。
エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンで「マインド・ゲーム」（エルヴィン氏の顔のアップがすぐ出ます）
Elvin Jones Jazz Machine
特別展「最澄と天台宗のすべて」
2021年10月12日（火）～11月21日（日）月曜休館
東京国立博物館 平成館
詳細は公式サイトへ：
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/saicho2021-2022/
（おしらせ）本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
１．
宮澤やすみ一門演奏会「小唄 in 神楽坂」
10/23（金）15:00開演（16:30終了）
神楽坂 善國寺（毘沙門天）書院
フランスのシャンソンと並ぶ、小粋な歌が日本の「小唄」
それを専門に指導している宮澤やすみ一門の年に一度の演奏会です。
（イベント詳細ページ）
https://machitobi.org/2021/204/
２．
新作MV公開「寄木造」宮澤やすみアンド・ザ・ブッツ
宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/
３．
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
（ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応）
宮澤やすみ公式サイト：http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター：https://twitter.com/yasumi_m
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。今週末に、年に一度のメイン演奏会「小唄 in 神楽坂」を控えている宮澤やすみです。私の一門総出の会で、自分はプロデューサー的立場。自分一人で演奏するよりも緊張が高いものです。
先日東京国立博物館の平成館で開幕した「最澄と天台宗のすべて」。
報道内覧会にいってきました。
先週の連載で、ざっと会場のようすを写真でご覧いただきまいた（特別に許可を得て撮影）。
「すべて」とタイトルにあるように、天台の教義伝来、比叡山の隆盛、各地への伝播と、天台宗を網羅した非常に内容の濃い展示です。
天台宗にまつわる珠玉の仏像群
その中から、わたくし宮澤がいちばん期待していたのは、東京・深大寺の元三大師坐像であります。
”大師”つまり高僧の像なのですが、よくある等身大の渋い肖像ではなく、像高２メートル。大迫力で恐怖すら感じる巨像です。
巨大すぎるわけではないものの、ふつうの人間の大きさにしては異様。ある意味絶妙な大きさの表現が恐怖感につながります
展示室での登場シーンを動画に撮りました。
その大きさを感じさせるニクい演出と申しましょうか、順路を進むとまず深大寺のアイドル・白鳳釈迦如来像の愛らしい姿が見え、ほっこりした気分になりかけたところへ、突然どーんと巨像が目に入るので、とてもびっくりするのです。
まずは、そのようすをご覧ください
この異様な存在感は何なのでしょうか？
骨ばった頭部がやけにリアルで、ギロリと睨むような白い眼が目立ちます。
仏像は、長年拝まれるとろうそくのススで黒くなる。この元三大師も黒々として、この日本人離れした表情は屈強なアフリカ人のよう。
黒光りした頭部。近づいて下から見ると思いのほかやさしい顔にも見える
ぼくは、ご開帳で初めて拝したときから、ジャズドラマーのエルヴィン・ジョーンズに似ていると思っていました。
モダンジャズの世界でもクセの強いリズム表現で、のちにジョン・コルトレーンと共にフリージャズの荒野を突き進む荒ぶるドラマーと、魔物に対抗する力強い元三大師のイメージが重なります（仏像ファンかつ音楽に興味ある人がどれくらいいるかわかりませんが、すみません何とかついてきてください）。
こちらはエルヴィン・ジョーンズ氏。どっちがどっちかわからないほど（笑）似てませんか！？ 私はパリのジャズクラブで晩年のエルヴィン・ジョーンズの生演奏を見たことがあり、度肝を抜かれました
話を元三大師に戻すと、このお方は古くから厄除け祈願の対象として拝まれてきました。
よく知られる姿は「角大師」と呼ばれる、鬼のような角が生えた異様な姿。お札でよく見かけるんじゃないでしょうか。
我が家の玄関に貼ってある元三大師（角大師）のお札。現在の滋賀県長浜市虎姫が生誕地
これ、良源（元三大師の僧名）が疫病退散のための祈願をしたときに、弟子が障子越しに見たシルエットが、角が生えた鬼のような姿をしていた、という伝承によります。
人類を脅かす魔物である疫病に対し、自らも鬼つまり魔物となって戦ったという、まるで鬼滅の刃みたいなエピソードです。
深大寺のHPによると、この像は鎌倉時代の作で、元寇に際して異国調伏のための造像の可能性に言及しています。
また、今回の図録には、
「祖師信仰の領域をはるかに超えて、魔除け、調伏といった人智を超えた力が期待された」（皿井舞「慈恵大師（元三大師）良源 救済と調伏の力をもつ高僧」）
とあり、それだけ元三大師の魔性が、厄除け祈願の頼りになったのでした。
そんな信仰の背景を考えると、今回展示の坐像の恐怖感も、たんに私の個人的な妄想ではないとわかります（エルヴィン・ジョーンズの件は完全に妄想ですが）。
魔物に対してするどい視線をなげかけるよう
元三大師は、僧名を良源といい、平安時代10世紀に比叡山延暦寺の伽藍や、宗派の風紀を立て直して、天台宗を盛り返した「中興の祖」と言われます。
亡くなった後、天皇から「慈恵」の謚（いみな：死後に付けられる称号）が与えられ、慈恵大師と呼ばれるように。
伝説になるほどの法力強大さから、おおよそ鎌倉時代以降、厄除け祈願の対象になって「元三大師」の通称も流行しました。
慈恵大師の命日が元日三日だったことからこの通称ができたそうです。
日付の面でも、初詣にちょうどよさそうですね。
この特別展は九州、京都へと巡回しますが、東京展ならではの出展、お見逃しなきよう。
それでは聴いてください。
エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーンで「マインド・ゲーム」（エルヴィン氏の顔のアップがすぐ出ます）
Elvin Jones Jazz Machine
特別展「最澄と天台宗のすべて」
2021年10月12日（火）～11月21日（日）月曜休館
東京国立博物館 平成館
詳細は公式サイトへ：
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/saicho2021-2022/
（おしらせ）本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
１．
宮澤やすみ一門演奏会「小唄 in 神楽坂」
10/23（金）15:00開演（16:30終了）
神楽坂 善國寺（毘沙門天）書院
フランスのシャンソンと並ぶ、小粋な歌が日本の「小唄」
それを専門に指導している宮澤やすみ一門の年に一度の演奏会です。
（イベント詳細ページ）
https://machitobi.org/2021/204/
２．
新作MV公開「寄木造」宮澤やすみアンド・ザ・ブッツ
宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/
３．
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
（ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応）
宮澤やすみ公式サイト：http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター：https://twitter.com/yasumi_m
