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第267回 100年前の映画に登場する三尺阿弥陀

”右脇腹で衣を引っかける形とか、足首の裾が二重になっているのも快慶像と共通し……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。九州ツアー好評のうちに幕となりました。CDもたくさん売れました。
活動写真弁士・片岡一郎さんとのデュオで、古い無声映画に弁士の語りとぼくが三味線生演奏を添える「活弁」上演でした。


さて、今回上演した短編作品のなかで、なんと冒頭から仏像が登場するものがあったのです。
1915年(大正4年)制作のアメリカ作品。「The mission of Mr.Foo」というサイレント映画です。

冒頭の画像がこれ。仏像にくわしい人なら食いつくんじゃないでしょうか。


いきなり阿弥陀如来が真ん中に登場。物語の設定はアメリカに潜む中国・清の官吏が仏を拝むというものだけど、どうみてもこれ日本の仏像でしょう。画像提供(以下も含む):片岡一郎

画像が鮮明ではありませんが、手の指をOKのような形にしている阿弥陀如来の立像です。
像高90cmほど。長い衣を身にまとって、腕から長い袖が垂れている。

このスタイルの立像は、通称「三尺阿弥陀」と言われます。

平安時代、阿弥陀来迎の信仰が流行しました。それは、ふだん座っている阿弥陀さんが臨終の場に立ち姿で現れ、お迎えに来てくれるというものです。その来迎の姿を表す像高三尺の立像が造られるようになりました。

そのスタイルの美術的完成形が、名仏師・快慶が手掛けた東大寺の像(重要文化財)です。これ以降、快慶の様式(「安阿弥様(あんなみよう)という」を真似た端正な三尺阿弥陀がよく造られるようになります。


三尺阿弥陀の作例。東京国立博物館にて


その写真はネットに出回ってますが、この毎日新聞の記事写真が見やすいです。

快慶 阿弥陀如来立像(奈良・東大寺) 今も生きる普遍的な美https://mainichi.jp/articles/20170522/dde/012/040/026000c


それをふまえて、もういちど、映画に登場する仏像を見てみましょう。
この「三尺阿弥陀」は、片足をほんの少し前に出して、救いにやってくる様子を表現するのも特徴なのですが、映画の仏像をよく見ると、右足を前に出しているように見えます。ちょっと傾いているようですね。


秘密のアジトでも同じ仏像が登場。ドリフのコントみたいなセットが無造作に動くと仏像がガタンと揺れて、仏像ファンは映画のストーリーとは別にハラハラすることになります

衣の表現は、右脇腹あたりで衣を引っかける形とか、足首の裾が二重になっているのも快慶像と共通します。
しかし、衣文の線は、快慶の三尺阿弥陀と比べると線が細く表面的。また、肉髻(頭部の盛り上がり)が大きいのも目につきます。

こうした特徴をふまえると、快慶よりちょっと前の平安時代のものにも見えます。
しかし、足を半歩踏み出す形などは、鎌倉時代以降のように思えるし、むずかしいですね(もしかして傾いているだけかもしれないけど)。

正確な制作年代については、専門家のセンセイではないのでわかりません。仏像ファン同士であれこれ推測をしあうのも楽しいものですね。


明治以降、絵画や工芸品も含め、日本美術の傑作が海外に流出した歴史があります。
仏像も、神仏分離によって仏像排斥の機運があるとなおさら、国宝級の仏像が欧米に流出したのでした。
快慶の仏像でも、米・ボストン美術館とキンベル美術館が所蔵するものがあります。

映画に登場している仏像も、造形を見ると出来栄えは非常によく、今だったら博物館に丁寧に管理されるべき像ではないでしょうか。


劇中のアメリカ人女性も阿弥陀如来に魅了される。このあと像の手に触れちゃうんですけど

もしレプリカだったとしても、それはそれでかなりの完成度だと思います。

今回の活弁上演では、三味線を持ちながらこんな仏像トークも披露した、楽しい映画上映イベントになりました。


それでは聴いてください。
久保田早紀で「異邦人」。


(参考)
この映画が上映された「小倉昭和館」での活弁イベント
https://kitaq.media/22307/

アメリカ・キンベル美術館の快慶像など紹介
https://www.narahaku.go.jp/exhibition/special/201704_kaikei/

(この連載の過去記事)
サイレント映画に登場していた仏像に注目
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20191008-2/



(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
2022/1/8(土)18:00開演
上野広小路/御徒町 ワロスロード・カフェ
「東京ららばい」など懐かし昭和ポップスのカバーと江戸の小唄を、ゆるりと
感染防止対策準拠。飛沫の飛ばないとても静かなライブで疲れを癒してください



2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ


宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/


3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m