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第283回 擬人化キャラの元祖?辟邪絵の天刑星-「SHIBUYAで仏教美術」展

”活き〆牛頭天王の酢漬けという、スーパーの鮮魚売り場みたいな言葉が--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。ライブを終えた後はすぐ社会人むけ大学講座。めまぐるしくてちょっと疲れがたまっている宮澤やすみです。みなさまはお元気ですか。

さて、前回につづき、渋谷の松濤美術館で奈良博の所蔵品を展示するという「SHIBUYAで仏教美術」展の話です。

写真は、報道内覧会で撮らせてもらったものです。


奈良から到着。珠玉の仏教美術が並ぶ

この展示で、私がもっとも注目していたのが「辟邪絵(へきじゃえ)」。

古くは中国で信仰された絵で、病や災厄をもたらす神(ようするに鬼と呼ばれる存在)を退治する絵の事です。


かなり凄惨な描写でインパクト大。《辟邪絵 栴檀乾闥婆(せんだんけんだつば)》紙本著色 平安~鎌倉時代 12世紀 国宝


なかでも、私が一番注目していたのが「天刑星(てんけいせい)」の絵。

”星の神である天刑星が、病をもたらす牛頭天王を退治する”という内容の絵です。

この一文だけでも疑問点やツッコミどころは多々ありますが、ひとつずつひもときましょう。


WikipediaのP.D.画像より《辟邪絵 天刑星》紙本著色 平安~鎌倉時代 12世紀 国宝

まず主役の天刑星。
この方、恐ろしい形相で悪者に見えます。なにしろ牛頭天王を、進撃の巨人みたいにバリバリと食っちゃってます。
しかし、ここでは天刑星が悪を倒すヒーローで、牛頭天王が悪者という設定なんですよね。

横に書かれた詞書を読むと、牛頭天王を「すにさしてこれを食とす」つまり酢に付けて食うとあります。
私の頭の中には、

 活き〆牛頭天王の酢漬け

という、スーパーの鮮魚売り場みたいな言葉が浮かびます。
当時は醤油が無かった時代、酢でおいしくいただきました、ということでしょう。

天刑星は、中国古来の道教における星信仰の神で、陰陽道で使役される「式神」の代表格とされます。

いわば星をこんなふうに擬人化して絵にする、現代の日本は「ウマ娘」など擬人化キャラがあふれていますが、そのコンセプトは、ずっと昔からあったのでした。
天刑星は、擬人化キャラのはしり、と言えるでしょうか。だいぶ恐ろしい姿ではありますが。


展示第1会場の看板を飾る主役にも、天刑星さんが登場。牛頭天王は脚だけ

そして、食べられている牛頭天王は、仏像ファンも馴染みがある存在かと思います。

京都のお寺などで牛頭天王の像を見かけることがありますが、その素性はナゾに満ちていて、諸説あります。

おおざっぱにいうと、京都・祇園の八坂神社の神です。

八坂神社は、神仏分離以前は祇園感応院というお寺であり、そこに祀られたのが牛頭天王でした。

病封じの神として、祀られます。


天刑星の絵は前期展示のみで5月8日まで。後期はあと2つの国宝辟邪絵が展示される。つまり国宝辟邪絵のすべてが渋谷にやってくるということ

天刑星に食べられて退治される存在が、なぜ祭神として祀られているかというと、
古来の信仰は恐ろしい存在を丁寧に祀ることで災いを封じ、転じてご利益を得ようとする考え方があるからです。

たとえば怨霊と恐れられた菅原道真を神社に祀ることで祟りを封じる、といった考え方と同じです。

牛頭天王は、仏教では釈迦のインドでの寺院祇園精舎の守護者として登場しますが、日本ではあまりその性格は語られません。
先に述べたとおり、病をもたらす神であり、さらにはスサノオと同体であるとか、朝鮮半島の武塔神と同じであるとか、さまざまに習合して、ルーツがよくわからなくなっています。

先ほどの天刑星も、辟邪絵では牛頭天王を退治していたものの、あの恐ろしい顔のイメージもあってか、なぜか牛頭天王と一緒くた(同体説)にされて信仰されたりもするという、フリーダムな世界が広がっています。
奈良国立博物館HPの解説でも、「祇園社(ぎおんしゃ)に祭神として祀られる牛頭天王の同体異名とも考えられた(『神道集』巻第三「祇園大明神集」)」とあります(所蔵品データベース解説文より引用)。


中世の信仰の世界では、神道に仏教に陰陽道が絡み合って、やたらに「同体説」が出てきまして、
あの神この星この仏、みんなつながって絡まって、大変複雑な様相を呈します。

なんでこんなことになってしまうのか、現代になって勉強する側は本当に困るんですよね。
私も早稲田大学オープンカレッジで、勉強熱心なおじさんおばさんの受講者に質問されるとモゴモゴしちゃいます。

当時のことを想像すると、昔はいろんな信仰の流派が同時多発していたことでしょう。
それぞれの考え方が異なる中、お互いがケンカせずにうまくやっていくために編み出された「方便」なんだと捉えると、
「そういうこともあるよな、仕方ないな」と思えてきて、すべてまとめて飲み込んで腑に落ちる次第です。


それでは聴いてください。
スパークスで、「ディス・タウン(This Town Ain't Big Enough For Both Of Us)」。




「SHIBUYAで仏教美術―奈良国立博物館コレクションより」
前期:2022年4月9日(土)~5月8日(日)
後期:2022年5月10日(火)~29日(日)
月曜、5月6日休館
松濤美術館
詳細は公式サイトへ
https://shoto-museum.jp/exhibitions/195nara/


(参考)
国宝|辟邪絵 天刑星|奈良国立博物館
https://www.narahaku.go.jp/collection/1106-1.html


---おしらせ---

(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
宮澤やすみのバンド The Buttz(ザ・ブッツ)
2年半ぶりフル編成ライブ「復活祭」
4/28まで、ツイキャス配信にてどこからでも視聴可能です。
https://twitcasting.tv/greenappletokyo/shopcart/136386
4/9「大仏の日」に行なったライブの録画です。

2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ


宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/


3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m