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第291回 松本・四柱神社でみた神仏分離の後始末

”時代を追うごとに新たなボスキャラが登場するの、よくあるんですよね--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

先日はサイレント映画(活動写真)の上演のため、長野県松本市を訪問しました。無声映画にその場で語りと音楽を付けます。語るのは活動弁士・片岡一郎、音楽生演奏はわたくし宮澤やすみでありました。

前回は国宝・松本城を訪問しました。

その松本城の南側には四柱(よはしら)神社という神社があります。

ここはもともと、松本城の総堀と呼ばれる幅広い外堀があったところで、城の玄関口である大手門があったところです。


のどかな流れの女鳥羽川。川沿いに縄手通りのお店が連なる

すぐ南側を女鳥羽川が東西に流れて、川沿いが門前の観光スポット「縄手通り」。
神社の境内も自由に人が行き交って、松本市民の癒しスポットになっています。


縄手通りの「カエル大明神」。ちいさな社の中にカエルが鎮座している。女鳥羽川に多くいた蛙を神格化

四柱神社の創建は明治12年で、神社としては新しいです。
ここのご祭神を確認して、目を引いたのが「造化の三神」と呼ばれる神です。


四柱神社の社殿

古事記の最初に登場するという「造化の三神」。デジタル大辞泉を引用すると、

”万物生成化育の根源となった三神”

ということで、かのイザナギ、イザナミよりも先に出現した根源的な存在といえますね。

三神は、それぞれ
 天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)
 高皇産霊神(たかみむすびのかみ)
 神皇産霊神(かみむすびのかみ)
といって、四柱神社ではこれに、
 天照大神(あまてらすおおみかみ)
を加えた四柱の祭神を祀り、すべての願い事が叶う「願い事むすびの神」と言われます。


万物創成のイメージからあらゆる願い事を結ぶ(成就する)ご利益があるといわれる

アマテラスは、ご存知伊勢神宮の主祭神で、おおまかにいえば日本の神々のリーダー格。
そのアマテラスも、造化の三神から見れば子孫のひとりだという、かなり上位互換の存在なわけです。

仏像ファン向けにちょっとくだけた補足をすると、宗教の歴史のなかで、時代を追うごとに新たなボスキャラが登場するの、よくあるんですよね。
仏教だと、釈迦が主役で、薬師だ阿弥陀だとあったのが、何百年もすると大日如来が宇宙の根源としてトップに君臨したりする。
神道でもそうしたことがあって、出雲のオオクニヌシ、伊勢のアマテラスなどリーダー格の神がいるなか、さらに別格の神を見出して、日本の信仰形態をトップダウンで再編成しようとしたのでした。

それを国造りに活用したのが、明治新政府です。

ここで、四柱神社の前身がちょっと興味深いので触れてみましょう。


伊勢神宮の方角に向かって参拝する「遥拝所」

この連載で何度も書いている、神仏分離の政策が関係しています。
明治新政府が発足して、すぐに取り掛かったのが宗教政策でした。
まだ明治の元号が発表される前、慶応四年に神仏判然令が布告され、日本全国で神社と寺を明確に分けることが定められました。

これによって、それまで「○○権現」と称して地域の神を仏像のかたちで祀るような神仏混淆の信仰形態が崩されていきます。
(この影響で地域によって「廃仏毀釈」運動が起きますがそれは別の機会に)。

国としては、天皇中心の国の形を思想の面でも国民に浸透させたかったようで、明治3年には「大教宣布の詔」が下されて、明治の近代神道の基盤が作られます。これによって、東京の増上寺に大教院が置かれ、各県には中教院が設置されます。国が進める天皇中心の思想を、神道と仏教の合同で国民に教化しようする目論見でした(つまり政府に廃仏の考えはなかったのです)。

これを推進したのは、国による国民教化機関として明治5年に設置された教部省というところです。神道、キリスト教、仏教、儒教をひっくるめて国の宗教政策を進めようとしたんですが、たった5年で教部省は廃止。明治政府の宗教政策は頓挫することになります。

行き過ぎがあったり反発があったり。
現代から当時のことを想像すると、政府の急な舵取りに人々がついていけなかったんじゃないでしょうか。

当時は、今よりももっと信仰がくらしに根差していた時代ですから、急な変革に無理があったみたいです。
これを機に、神仏分離、廃仏毀釈の動きも沈静化。いっぽうで近代神道の思想は着々と形成されていきました。

で、四柱神社に戻りますが、こちらは先ほど出た中教院の敷地に社殿を設けてスタートしたのでした。
日本の各地にこうした明治の近代神社がいくつもあり、東京だと東京大神宮などが同じ経緯の神社になります。
明治という時代は、日本の宗教観についていろいろ考えさせられる興味深い時代です。また折をみて触れていきたいと思います。


出雲大社とその東にある美保神社の神をまつる「恵比寿神社」もある。つまりここに来ると伊勢出雲の神も拝める。なんだかお得

激動の明治に生まれた四柱神社は、歴史が浅いとはいえ、現在では盛んにお祭りが行われて、松本の市民でいつも賑わう、松本になくてはならない神社となっています。


それでは聴いてください。
平沢進で「Beacon」。



(参考)
四柱神社
https://www.go.tvm.ne.jp/~yohasira/

(過去記事)
明治の神仏分離ってなに?「立山の明治維新」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20181009-2/
聖林寺十一面観音から見える明治「神仏分離」と令和「緊急事態」の共通性
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20200602-2/



---おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

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2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ


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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
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