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第292回 円空仏か神像か?-ルートヴィヒ美術館展

”こちらの作品は「円空などの仏像と比較される」ということですが--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。コロナ自粛中にパスポートの更新をすっかり忘れていて、再発行する羽目になった宮澤やすみです。みなさんはだいじょうぶですか?

さて、先日は国立新美術館で開幕した「ルートヴィヒ美術館展」のプレス内覧会に行ってきました。

ドイツ・ケルンにあるルートヴィヒ美術館は、市民の寄贈を基本として作品を所蔵する市営の美術館。


ポスターのメインヴィジュアルは、350点の作品を寄贈し、美術館の開館に寄与したペーター・ルートヴィヒ氏の肖像。アンディ・ウォーホルによるもの

20世紀の最初期から現代アートまで網羅した作品を、一挙に観覧できます。

なので、観覧の際は「100年以上の時間の流れをぜんぶ観る」という気持ちをもって展示室に入りましょう。
7つの展示室を移るたびに、つぎつぎに異なる美術世界が繰り広げられて、頭がクラクラしてきます。
基本的には、時間軸に沿って展示されているので、最初は後期印象派、次第にアバンギャルドさを増して、ピカソを挟んで、シュル・レアリスム、抽象絵画、ポップアート、現代美術へと進みます。


ロシア・アバンギャルドの作品を展示

仏像ファンとしては、やはり彫刻が気になります。

こちらの作品は、「円空などの仏像と比較される」(図録解説より)ということですが、どう思いますか?
仏像とはちがうけど、おにぎり型のフォルムはどこか神像のようなたたずまいを感じます。


エルンスト・バルラハ《うずくまる老女》1933年。後ろにあるのはカンディンスキーの作品

仏像ファンならわかると思いますが、円空とはちがいますよね。
百歩ゆずって、木喰仏とは表面的に似ているかもしれません。ノミ跡を残しつつ滑らかな仕上げにしている点などが似ています。
ただしこれはあくまでも表面的なもので、解説を引用すると、このバルラハの作品は石膏でモデルを作ってから制作しているのだそうで、円空のような木の存在を尊重しながらザクザク彫っていくのとはちがいます。
その点で「バルラハの木彫は木による塑像に近い」(図録解説より)。

「仏像と比較される」というのは、表面的なことではなく、作品が放つ深い宗教性や神聖な雰囲気にあると思われます。
作者のエルンスト・バルラハは、中世の教会でさかんだった木彫を20世紀に復興させた功労者です。
しかし、ナチスの台頭により活動を強制的に止められ、そのまま亡くなってしまいました。
その無念の思いをかたちにした、ケーテ・コルヴィッツの作品も展示されています。


バルラハの友人だったケーテ・コルヴィッツ作《哀悼》1938年

20世紀美術は、大きな戦争によって翻弄された作家たち思考をそのまま閉じ込めたようなもので、いつみても「その時の空気」を感じられるのが面白いのだと思います。

最後に展示されているのは、2014年の作品。
なんの変哲もない、ハシビロコウの写真をプリントした作品です。左は内覧会に登場したトラウデン直美さんです。

著作権がきびしい現代美術作品のなかで、これだけは撮影OK。なぜか。


カーチャ・ノヴィツコヴァ《近似(ハシビロコウ)》2014年。オフィシャル・アンバサダーを務めるトラウデン直美さん

じつは、このハシビロコウの写真は、インターネットにアップされている画像を使った「ネットの拾い絵」なんですね。
ネットから拾ったものを、立体作品にし、それをみんなに撮ってもらってSNSにアップされ、またネットに還っていくという、循環があるんです。
その「拾い絵」の使用は許可取ったのか、とツッコミたくなりますが、ともかく現代的なコンセプトですね。
(仏像の写真でこれやったら絶対怒られるしお金請求されます。気を付けて)


ミュージアム・ショップでは、アンディ・ウォーホルの洗剤箱の作品《ブリロ・ボックス》のレプリカが売られてました

第1展示室ではエコール・ド・パリの瀟洒な世界にいたのに、ここではもう現代のネット社会を考えさせられている。
じつにスケールの大きな展覧会です。
「ぼくはアンフォルメルが好き」とか好きなジャンルが決まっている美術ファンならいいですが、どれも見ごたえあって作品に没入してしまうので、時間をたっぷりとって100年間の美術を俯瞰したら楽しいと思います。

個人的には、若いころハマったデ・クーニングの抽象作品が、今みるとそんなでもないなとか思ったり、ポップアートが意外と深い考察のもとにあるのを知ったりと、いろいろ発見がありました。オプ・アートは見るより感じるのが楽しく、時間が足りなかったのでもう一回行きたいと思います。


それでは聴いてください。
クラフトワークで、「ザ・モデル Das Model」。



【ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡―市民が創った珠玉のコレクション】
 国立新美術館 企画展示室2E
 2022年6月29日(水)~9月26日(月)
 毎週火曜休館
 (巡回)10月14日より京都国立近代美術館
 詳細は↓
 https://ludwig.exhn.jp/





---おしらせ---

(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
2022/7/24(日)15:30開演
上野広小路/御徒町 ワロスロード・カフェ
本職の小唄など三味線音曲をゆるりと。詳細後日。


2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ


宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/

3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m