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第330回 大安寺の仏像が語る「木彫復活」のナゾ②

”奈良の都の仏像担当者の声が聞こえてくるようです--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。渋谷・円山町芸者さんとの共演を終えてホッとしている宮澤やすみです。想定以上の大盛況で大勢のお客様に楽しんでいただきました。

そんな中、前回は「大安寺の仏像」から、
なぜ奈良時代の仏像に木彫が少ないの?という謎をご紹介しました。


大安寺、不空羂索観音。撮影:久保沙里菜

なぜ奈良で木彫りの仏像が造られなかったかというと、前回記事で、
「使える木材が無かったから」
と書きました。

というのは、お経に「この木を使うべき」と指定されてたんですってね。
とくに奈良時代に流布した『十一面観音神呪心経義疏』(十一面観音のお経を解説した書物)には、仏像造りには「白栴檀香」を使うべきと記されていました。これ白檀(ビャクダン)のことだそうです。


大安寺、多聞天。東京国立博物館本館11室での特別企画「大安寺の仏像」で、2023年1月2日から3月19日まで展示されました

しかし、日本にビャクダンは生えてなく、木はあるのに仏像が造れないとなってしまいました。
日本人らしいまじめさといいますか、律義なことでございます。

ちなみに、これ以前の飛鳥時代には、日本の神木の代表であるクスノキを使って仏像を造ることがありましたけどね。仏教の専門的な知識が深まるにつれて、
「本来はビャクダンであるべきなのにクスノキを使うのはいかがなものか」
「こんなことも分からない担当者がいるとは驚き」
「この国の仏教界もオワコンですね」
とかなんとか、奈良時代のヤフコメに書かれたんでしょうか。

そんな状況で、奈良の都では銅での鋳造や乾漆(ペースト状にした漆を使う技法)での仏像造りが盛んになっていたのですが、大安寺の仏像は木造の一木造りなのです。


大安寺、楊柳観音の下半身。上半身は前回記事参照

そんな奈良時代、仏教を立て直そうと起ち上がったプロジェクトが、「唐からちゃんとしたお坊さんを呼んで、ちゃんとしたお坊さんを育てよう」というものでした。
これで唐に向かった普照、栄叡といった大安寺の僧が鑑真和上を説得、長年の苦難を乗り越えて日本にやってきました。小説や映画「天平の甍」で有名な話です。

下記の論文によると、その鑑真一行のなかに唐の最新の仏像造りに長けた仏師グループもいたと思われ、これが仏像の木彫復活のカギだというんですね。

鑑真一行のやり方は、仏像造りに「代用木」を使うというものでした。

中国でもビャクダンはなかなか使えなかったので、代わりに「栢(ハク)」という木を使うことが主流だったそう。
その「栢」がどんな木なのか、諸説あるようですが、次第にカヤの木が「代用木」として使われるようになった。

「カヤだったら日本にもある!」
「え、まって、白栴檀木じゃなくてもいいの?」
「早く言ってよぉ~」

という、奈良の都の仏像担当者の声が聞こえてくるようです。

ということで、鑑真関連のお寺である唐招提寺と大安寺で、カヤによる仏像造りがなされたということだそうです。

この話は、論文
金子啓明|岩佐光晴|能城修一|藤井智之「日本古代における木彫像の樹種と用材観.-七・八世紀を中心に」、Museum(555),1998 p3-53
を参考にしています。

これ以降、カヤの一木造りの仏像がたくさん造られるようになり、木彫仏の全盛となっていくのでした。


それでは聴いてください。
ザ・ブッツの新曲で「一木造」。





---おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

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 2.一木造
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 4.川のほとりで
 5.Benzai-Tennyo
 6.Black Etenraku
 7.北斗星
 8.いけるとこまで
 ほか、付録CDにボーナストラック




宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m