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第389回 阿弥陀か?観音か? ブランクーシ彫刻のフォルムにみえるもの

”これ、三尺阿弥陀だよね。実物をみて最初そう思い--”

音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。6月のソロライブ、2席空きがでています。気になる方は遠慮なくご連絡ください。小唄のほかアラブやヨーロッパの曲も演奏準備中です(詳細記事末ご参照)。

そんな中、先日は東京・京橋のアーティゾン美術館で「ブランクーシ 本質を象る」展を見てきました。

取材ではなく一般来場でしたがほとんどの作品が撮影OKでありがたいです。


手前の作品《レダ》は白鳥のイメージ。それが《空間の鳥》を見つめるような構図で展示されている

仏像ファンにはなじみが薄いかもしれませんが、ブランクーシはこの連載の読者でも楽しめると思います。
このブランクーシさん、究極のフォルムを求める一環で東アジアの仏像にも影響を受けたとか。
その痕跡が見えるのが《ミューズ》シリーズではないでしょうか。

写真の《ミューズ》を見ると、眉の線があきらかに仏像、ですよね。


《ミューズ》1918(2016鋳造)

この像は頬に手を当ててわりとわかりやすい顔立ちのフォルムになっていますが、さらに抽象化して頭部だけゴロンと横たえた作品もあり、ブランクーシの「究極のフォルム」を求める旅路が垣間見えます。


《ポガニー嬢II》女性の顔であることはわかるが、同時に古代のオーパーツみたいにも見えるし、女性の顔を端緒として究極のかたちを見出そうとしている


同じ作品を横からみたもの。画面右に鼻、中央左寄りに耳のようなものが見える。いろいろな角度から眺められるのがおもしろい

それで、なんといっても代表的な作品が「空間の鳥」です。
重力から解き放たれて自由に空へ舞い上がる鳥。作家はそんな鳥のイメージを表現しようと、鳥シリーズの作品をいくつも作ります。その究極最終形がこの「空間の鳥」。


《空間の鳥》1926(1982鋳造)横浜美術館蔵

もはや鳥の面影はなく、抽象的な形に昇華したイメージ。抽象化されたぶん、見る側の解釈は自由にひろがるのです。

ふわりと宙に浮くような上昇するかたちと、前のめりの体勢に、われわれ仏像ファンはどこか馴染み深いものを感じます。

これ、三尺阿弥陀だよね

実物をみて最初、そう思いました。というのは、像高が100cmほどという大きさもあって、ちょうど阿弥陀立像の大きさに近いというのもあったもので。


横からみた《空間の鳥》。すうっと上昇するフォルムと前のめり感

すらりとして柔和な輪郭線は、国宝の快慶作三尺阿弥陀を彷彿させます。
像高を無視すれば、十一面観音立像といってもいいかもしれません。国宝の向源寺十一面観音は、前のめりの姿勢でふわりと飛び立つ瞬間のような姿勢が知られます。

その「ふわり飛び立つ」感じが、まさしくこのブランクーシ作「空間の鳥」に見事に表されていて、仏像ファンなら納得するんじゃないでしょうか。


正面からみた《空間の鳥》。神々しさを感じるし、刀剣ファンも引き込まれるかもしれない?

先日ちょうどテレビでやっていましたが、この作品をアメリカに運び入れた時にこれが芸術作品とみなされず、工業製品として関税をかけられたとか。
いまの我々の目であれば、これが抽象表現の芸術だとわかりますが、当時は画期的なことだったそう。およそ100年前のできごとです。

中学の美術教科書で見た「空間の鳥」。なんじゃこりゃと思って以来気になっていたブランクーシ。我が人生の後半でやっと実物を見ることができ感無量であります。


それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「一木造(Ichibokuzukuri)」


ブランクーシ 本質を象る
2024年3月30日[土] - 7月7日[日]
アーティゾン美術館
https://www.artizon.museum/exhibition/detail/572


--おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
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 2.一木造
 3.Shami on The Water
 4.川のほとりで
 5.Benzai-Tennyo
 6.Black Etenraku
 7.北斗星
 8.いけるとこまで
 ほか、付録CDにボーナストラック




宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m