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第390回 なぜ書は音楽といえるのか「石川九楊大全 古典編」

”筆と墨で歌を歌っているようなものと--”

音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。6月のソロライブ、おかげさまで超満員(といっても20名だけど)で終演しました。江戸の小唄と世界の歌をカバーしました。

そんな中、東京・上野の森美術館では「石川九楊大全」展が開幕。報道内覧会に行ってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。

現代書の大家として知られる石川九楊氏。
図録に「既成の書的情緒を否定・拒絶」とあるように、書の世界を拡張革新し、現代美術の一環としても評価を得てきた書道界のレジェンドです。


報道陣を前に書を語る石川九楊さん

展覧会HPなどでは

─書とは言葉の表現であり、ゆえに書は文学である─

とありますが、内覧会当日の石川先生本人がおっしゃっていたのが、

─書は音楽に通じる─

ということ。

五連の大作《李賀詩 感諷五首》

内覧会のスピーチで力説されていましたが、報道陣にどれだけ伝わったか。
言葉の表現=文学はわかる気がしますが、音楽と何が共通するのか?


石川先生の名言がより深い鑑賞の手引きに

じつは私自身も、音楽と書を並行してやってきたものでして、石川氏の足元にも及びませんが、書が音楽と共通するという論は、自身の体験を通して、身をもってわかります。
なので、今回の展覧会は石川作品の「音楽性」に最初から注目していました。

ざっくり言うと、一発勝負というライブ性が、まずは書と音楽の共通点かと思います。
両者とも、始まりと終わりがある時間芸術、なんですよね。


《感諷五首》の部分。にじみを重ねて憂いのある詩の雰囲気を表現。書いてある言葉は展示パネルで確認できる

書も音楽も、ライブパフォーマンスであれば文字通りライブの一発性が共通するし、
作品化する工程も、テイク1、テイク2、テイク3と何度も制作や録音を繰り返して、ベストなものを作品として世に出す作業をします。

「あ、まちがっちゃった」となれば次のテイクで最初からやり直し、となり、上から塗り足したりすることは基本的にできません(やることもあるけど)。

そのへんが、絵画作品とは異なる、書の生々しさなのかなと。
紙の上に残った書のにじみやかすれは、その時にしかできない、再現性が無い「ライブレコーディング」の痕跡とでも言えるでしょうか。


「こう、紙の上での筆と墨のせめぎあいが……」書と音楽の共通性を熱弁する石川九楊さん

また、海外の人の依頼を受けると、Write calligraphy (書を書く)と言われますけど、
作家の感覚としては Draw、つまりドローイングをしているつもりなんですよね。


《桐壺》源氏物語54帖+1帖を、1帖ずつ内容や世界観に合わせて書作品化

題材の言葉がもつ雰囲気や物語を、墨と筆の働きを駆使して紙の上に表現します。
字を書いているという感覚は薄く、自由に描く、それはまさに、歌手が歌詞を(朗読じゃなくて)歌うのと同じ感覚じゃないでしょうか。僕が書と歌と両方やっていたからそう思うのかもしれませんが。
だから、「言葉の表現」ではあるんですけど、さらに言うと、筆と墨で歌を歌っているようなものと思うんですね。

石川九楊先生が、もし音楽の道に進んでいたら、人気歌手になっていたんじゃないでしょうか。


《歎異抄 No.18》部分。これを楽譜に書き起こした音楽の演奏会も開催された

そんな展示の前期は”古典編”として、漢詩や源氏物語などの文学作品を作品にしたものを展示。なかでも《歎異抄》はご自身の作家人生の中でも大事な作品だそうで、必見です。


《歎異抄 No.18》

それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「如意輪のまどろみ(Nyoirin's Daydream)」



石川九楊大全
上野の森美術館
6月8日(土)~30日(日)【古典篇】遠くまで行くんだ
7月3日(水)~28日(日)【状況篇】言葉は雨のように降りそそいだ
詳細
https://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=11788868


--おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

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 2.一木造
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 4.川のほとりで
 5.Benzai-Tennyo
 6.Black Etenraku
 7.北斗星
 8.いけるとこまで
 ほか、付録CDにボーナストラック




宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m