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第393回 書を聴く、歌を観る「石川九楊大全 状況編」
”もはや作品を「読む」ことはなくて、ただその言霊を感じ取る--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ここに何度も書いてますが、また歯の痛みで悶絶している宮澤やすみです。前回は左奥、今回は右奥。根幹の神経がやられているそう。
そんな中、東京・上野の森美術館では「石川九楊大全」展が後期【状況篇】に突入。
作品がすべて入れ替わるため、再度の報道内覧会に行ってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。
アート系メディア関係者も興奮気味に作品に見入る
現代書の大家として知られる石川九楊氏。
図録に「既成の書的情緒を否定・拒絶」とあるように、書の世界を拡張革新し、現代美術の一環としても評価を得てきた書道界のレジェンドです。
この連載では前回「書は音楽である」ということについて自分の体験を交えて紹介しました。
さらに今回は、石川氏ご自身の手による解説メモが報道陣に配られ、東アジアの書の特徴と意義についてさらなる解説がありました。
アルファベットが発音をそのまま記号化した表音文字であるのに対し、漢字は表意文字である……これを端緒に石川理論が展開。
石川九楊氏の膨大なノートも展示。手書きの文字は意外とかわいい?
表意文字であるからこそ、音で聴くのでなく書に書きあらわすことでその言葉の奥にある思いや雰囲気や哲学が表現される……と、ざっくりそういう話になるようです。少なくとも私はそう解釈しました。
そのため、漢字を書で表現することが歌のような表現につながる、とこういうことでしょうか。
日本ではひらがなカタカナもありますが、これらは表意ではないにしろ、完全な表音文字かというといろいろありそうです。
石川氏は、漢字、ひらがな、カタカナの筆法を理論的にまとめて、さまざまな著作で発表しています。今回はそうした論文の草稿も展示しています。
そんなわけで、この連載の前回で、「筆と墨で歌を歌っているようなもの」と書きましたが、あながち間違いではなかったんでしょうか。
自身思い入れのある作品《エロイ・エロイ・ラマサバクタニ》1972年 をあらためて見る石川九楊氏
歌う事自体は世界中どこにも存在するいっぽうで、「書」は漢字文化圏ならではの言葉の表現なのだということを、石川先生はおっしゃりたかったんだと思います。
ここで、私のように日ごろ日本古代史に興味があって歌も歌う人間からすると、日本に漢字が入る以前の、文字を書かなかった時代の日本文化のことを考えてしまいます。
『日本書紀』や『古事記』そして『万葉集』などからわかるように、日本人は和歌でものごとを伝える文化がありました。すなわち歌を詠む、音声表現です。
現在でも皇室行事で「歌会始」があったりして、声に出して歌を詠むのが日本では最上の芸術行為とされてきました。
河東碧梧桐の俳句を書いた作品「大空を吾物にして朝の月」2020年
日本に漢字が入り、「書」の文化が花開いてから千数百年経っているわけですが、その間も日本文化の最高格として和歌があったことはまちがいありません。
だから、江戸時代の芸術家・本阿弥光悦は、俵屋宗達の芸術的な絵の上にわざわざ墨で書を書き、それではじめて作品が完成したというわけです(この連載の過去記事参照)。
また、私が日ごろ演奏している三味線音楽ですが、これも唄があることがデフォルトです。
尺八と箏による「春の海」など歌が無い邦楽曲がありますが、じつはあれは明治期に西洋音楽の影響で造られた近代作品なのです。
現代の日本人が落語や講談に熱狂するのも、言葉の音声表現の力に魅了されているからでしょう。
石川氏ご自身のテキストを書にした作品《「ヨーロッパの戦争」のさなかに--人類の未熟について》2023年
というわけで、日本人にとって言葉の音声表現は欠かせないものであり、その感覚をもって石川九楊氏の音楽的な言葉の表現に対峙してみましょう。
もはや作品を「読む」ことはなくて、ただその言霊を感じ取ることができるんじゃないでしょうか。
どう思うかは人それぞれ、ぜひ会場でいろいろと考えを巡らせながら、言葉の表現を楽しんでください。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツ(THE BUTTZ)で「如意輪のまどろみ(Nyoirin's Daydream)。
石川九楊大全
上野の森美術館
6月8日(土)~30日(日)【古典篇】遠くまで行くんだ
7月3日(水)~28日(日)【状況篇】言葉は雨のように降りそそいだ
詳細
https://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=11788868
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ 夏講座(全3回)
一般受付開始。申込時「教員紹介」を選択で割引になります。
【神と仏 1300年の愛憎関係】
-神仏習合から廃仏へ-
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/61917/
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ここに何度も書いてますが、また歯の痛みで悶絶している宮澤やすみです。前回は左奥、今回は右奥。根幹の神経がやられているそう。
そんな中、東京・上野の森美術館では「石川九楊大全」展が後期【状況篇】に突入。
作品がすべて入れ替わるため、再度の報道内覧会に行ってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。
アート系メディア関係者も興奮気味に作品に見入る
現代書の大家として知られる石川九楊氏。
図録に「既成の書的情緒を否定・拒絶」とあるように、書の世界を拡張革新し、現代美術の一環としても評価を得てきた書道界のレジェンドです。
この連載では前回「書は音楽である」ということについて自分の体験を交えて紹介しました。
さらに今回は、石川氏ご自身の手による解説メモが報道陣に配られ、東アジアの書の特徴と意義についてさらなる解説がありました。
アルファベットが発音をそのまま記号化した表音文字であるのに対し、漢字は表意文字である……これを端緒に石川理論が展開。
石川九楊氏の膨大なノートも展示。手書きの文字は意外とかわいい?
表意文字であるからこそ、音で聴くのでなく書に書きあらわすことでその言葉の奥にある思いや雰囲気や哲学が表現される……と、ざっくりそういう話になるようです。少なくとも私はそう解釈しました。
そのため、漢字を書で表現することが歌のような表現につながる、とこういうことでしょうか。
日本ではひらがなカタカナもありますが、これらは表意ではないにしろ、完全な表音文字かというといろいろありそうです。
石川氏は、漢字、ひらがな、カタカナの筆法を理論的にまとめて、さまざまな著作で発表しています。今回はそうした論文の草稿も展示しています。
そんなわけで、この連載の前回で、「筆と墨で歌を歌っているようなもの」と書きましたが、あながち間違いではなかったんでしょうか。
自身思い入れのある作品《エロイ・エロイ・ラマサバクタニ》1972年 をあらためて見る石川九楊氏
歌う事自体は世界中どこにも存在するいっぽうで、「書」は漢字文化圏ならではの言葉の表現なのだということを、石川先生はおっしゃりたかったんだと思います。
ここで、私のように日ごろ日本古代史に興味があって歌も歌う人間からすると、日本に漢字が入る以前の、文字を書かなかった時代の日本文化のことを考えてしまいます。
『日本書紀』や『古事記』そして『万葉集』などからわかるように、日本人は和歌でものごとを伝える文化がありました。すなわち歌を詠む、音声表現です。
現在でも皇室行事で「歌会始」があったりして、声に出して歌を詠むのが日本では最上の芸術行為とされてきました。
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日本に漢字が入り、「書」の文化が花開いてから千数百年経っているわけですが、その間も日本文化の最高格として和歌があったことはまちがいありません。
だから、江戸時代の芸術家・本阿弥光悦は、俵屋宗達の芸術的な絵の上にわざわざ墨で書を書き、それではじめて作品が完成したというわけです(この連載の過去記事参照)。
また、私が日ごろ演奏している三味線音楽ですが、これも唄があることがデフォルトです。
尺八と箏による「春の海」など歌が無い邦楽曲がありますが、じつはあれは明治期に西洋音楽の影響で造られた近代作品なのです。
現代の日本人が落語や講談に熱狂するのも、言葉の音声表現の力に魅了されているからでしょう。
石川氏ご自身のテキストを書にした作品《「ヨーロッパの戦争」のさなかに--人類の未熟について》2023年
というわけで、日本人にとって言葉の音声表現は欠かせないものであり、その感覚をもって石川九楊氏の音楽的な言葉の表現に対峙してみましょう。
もはや作品を「読む」ことはなくて、ただその言霊を感じ取ることができるんじゃないでしょうか。
どう思うかは人それぞれ、ぜひ会場でいろいろと考えを巡らせながら、言葉の表現を楽しんでください。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツ(THE BUTTZ)で「如意輪のまどろみ(Nyoirin's Daydream)。
石川九楊大全
上野の森美術館
6月8日(土)~30日(日)【古典篇】遠くまで行くんだ
7月3日(水)~28日(日)【状況篇】言葉は雨のように降りそそいだ
詳細
https://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=11788868
--おしらせ---
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雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m