- HOME
- 宮澤やすみの仏像ブツブツ
- 第395回 重厚、畏怖の仏像、東京に現る-「神護寺展」薬師如来-
第395回 重厚、畏怖の仏像、東京に現る-「神護寺展」薬師如来-
”怨霊や災禍に対抗するだけの強い仏像が求められたんでしょうか--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。早稲田大学エクステンションセンターでの講座(社会人むけ講座)、今期も無事おわりました。聴講ありがとうございました。
そんな中、東京国立博物館では特別展「神護寺ー空海と真言密教のはじまり」が開幕。
報道内覧会にいってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。
展示室内風景 第5章 神護寺の彫刻
昨年の報道発表からずっと待っていた、自分にとっても特別な展覧会。まず紹介したいのはやはり神護寺本尊の薬師如来立像です(展示順路の最終室第5章)。
まずは公式チラシ画像でお顔をごらんください。
わたくし、ひさしぶりに仏像をみて鼻血が出そうなほど興奮しました笑
特別展「神護寺ー空海と真言密教のはじまり」チラシ画像
この、ゆがんだ顔、陰鬱な目、厳格な口元。
なにか大きな怒りを秘めたような、おそろしい形相です。
ぼくの頭の中では、勝手にヘヴィメタルがBGMとして流れ、重低音が鳴り響いておりました。
実際の重さもかなりあるようで、カヤの一木造、内刳りをしていないから「100キロくらいはあるんじゃないですか」と学芸員の丸山士郎さんがつぶやいていらっしゃいました。
正確な重量はわかりませんが、等身大(169.4cm)の像高と比べてかなり重いわけです。
展示風景より、左から《月光菩薩立像》(平安時代、9世紀)、《薬師如来立像》(平安時代、8〜9世紀)、《日光菩薩立像》(平安時代、9世紀)
そして、このフォルム。張り出した下半身の充実した量感表現は、見るものを圧倒します。
また、衣文の深い彫り具合、とくに「翻波式衣文」(ほんぱしきえもん)も見られますが、どちらも平安時代初期の仏像によく見られる表現です。
国宝 薬師如来立像 平安時代・8~9 世紀 京都・神護寺蔵
一説には、この像が作られたのは8世紀末。
奈良から平安へ移る時代。
せっかく造営した長岡京も、のちに「最恐の怨霊」と恐れられる早良親王の事件で頓挫し、平安京が作られようとする頃です。
もしくは、もう少し後の9世紀作の可能性もありますが、それでも怨霊という存在に朝廷は悩まされ、富士山噴火や大地震に苛まれる不穏な時代です。
こうした時代には、怨霊や災禍に対抗するだけの強い仏像が求められたんでしょうか。
主役のほかにも見ごたえある仏像が抜群の照明効果で浮き立つ。吉野右京、大橋左衛門等作《十二神将立像》(室町時代〜江戸時代、15〜17世紀)
と、そんなことを思いながら、わたくしこの仏像に対峙していますと、
突然目からビームでも出して焼き殺されるんじゃないかと思いましたね笑
この連載でおなじみ、わたくしの勝手な妄想が発動してしまいます。
…そのまま博物館を破壊して上野公園をのっしのっしと歩き、西郷さんの銅像のあたりから熱線を照射して東京を焼き尽くす! 浜辺美波と神木隆之介も逃げ惑う(『ゴジラ-1.0』と混同)。人間どもよー滅びるのだー!
…とまあ、勝手な妄想が過ぎますけれど、この神護寺薬師如来はとくに妄想が広がりやすい、他にはないキャラクター性をもった仏像なのです。
ここは一般撮影OK。二天王立像 平安時代・12 世紀 京都・神護寺蔵
僕が初めて神護寺を訪れたのが今から25年くらい前のこと。
本堂の奥にあって、この像のディテールは見えませんでしたが、その存在感に背筋が凍る思いでした。
この、両手とも前に差し出すポージングですが、暗がりでみるとゆらゆらと動いているようにも見えて、自分も今より25年ぶん純粋だったので本当に怖かったです。
それが、今回初の寺外出展。
だいじょうぶなんだろうか…?
と、取材に伺うまで複雑な気持ちでいましたが、こうしてきちんとした照明で、公の前に姿がさらされると、ただ単に怖ろしいだけでなく、いろんな表情が見えたように思います。ちょっとお近づきになれたようで気持ちもほぐれました。
報道内覧会より、美術系メディアの取材陣に囲まれる薬師三尊
もし仮に、本当に目からビームが出るとしても、それは人類滅亡のためじゃなくて、悪鬼や邪気を払うためのものだから、安心して鑑賞することにしましょう。
ほかのトピックもこんどご紹介します。
それでは聴いてください。
ブラック・サバス(Black Sabbath)で『IRON MAN』。
創建1200 年記念
特別展「神護寺ー空海と真言密教のはじまり」
2024 年7 月17 日(水)~ 9 月8 日(日)
東京国立博物館 平成館
公式サイト
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/jingoji/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ 夏講座(全3回)
一般申込終了。次回は年明け冬期講座を予定
【神と仏 1300年の愛憎関係】
-神仏習合から廃仏へ-
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/61917/
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。早稲田大学エクステンションセンターでの講座(社会人むけ講座)、今期も無事おわりました。聴講ありがとうございました。
そんな中、東京国立博物館では特別展「神護寺ー空海と真言密教のはじまり」が開幕。
報道内覧会にいってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。
展示室内風景 第5章 神護寺の彫刻
昨年の報道発表からずっと待っていた、自分にとっても特別な展覧会。まず紹介したいのはやはり神護寺本尊の薬師如来立像です(展示順路の最終室第5章)。
まずは公式チラシ画像でお顔をごらんください。
わたくし、ひさしぶりに仏像をみて鼻血が出そうなほど興奮しました笑
特別展「神護寺ー空海と真言密教のはじまり」チラシ画像
この、ゆがんだ顔、陰鬱な目、厳格な口元。
なにか大きな怒りを秘めたような、おそろしい形相です。
ぼくの頭の中では、勝手にヘヴィメタルがBGMとして流れ、重低音が鳴り響いておりました。
実際の重さもかなりあるようで、カヤの一木造、内刳りをしていないから「100キロくらいはあるんじゃないですか」と学芸員の丸山士郎さんがつぶやいていらっしゃいました。
正確な重量はわかりませんが、等身大(169.4cm)の像高と比べてかなり重いわけです。
展示風景より、左から《月光菩薩立像》(平安時代、9世紀)、《薬師如来立像》(平安時代、8〜9世紀)、《日光菩薩立像》(平安時代、9世紀)
そして、このフォルム。張り出した下半身の充実した量感表現は、見るものを圧倒します。
また、衣文の深い彫り具合、とくに「翻波式衣文」(ほんぱしきえもん)も見られますが、どちらも平安時代初期の仏像によく見られる表現です。
国宝 薬師如来立像 平安時代・8~9 世紀 京都・神護寺蔵
一説には、この像が作られたのは8世紀末。
奈良から平安へ移る時代。
せっかく造営した長岡京も、のちに「最恐の怨霊」と恐れられる早良親王の事件で頓挫し、平安京が作られようとする頃です。
もしくは、もう少し後の9世紀作の可能性もありますが、それでも怨霊という存在に朝廷は悩まされ、富士山噴火や大地震に苛まれる不穏な時代です。
こうした時代には、怨霊や災禍に対抗するだけの強い仏像が求められたんでしょうか。
主役のほかにも見ごたえある仏像が抜群の照明効果で浮き立つ。吉野右京、大橋左衛門等作《十二神将立像》(室町時代〜江戸時代、15〜17世紀)
と、そんなことを思いながら、わたくしこの仏像に対峙していますと、
突然目からビームでも出して焼き殺されるんじゃないかと思いましたね笑
この連載でおなじみ、わたくしの勝手な妄想が発動してしまいます。
…そのまま博物館を破壊して上野公園をのっしのっしと歩き、西郷さんの銅像のあたりから熱線を照射して東京を焼き尽くす! 浜辺美波と神木隆之介も逃げ惑う(『ゴジラ-1.0』と混同)。人間どもよー滅びるのだー!
…とまあ、勝手な妄想が過ぎますけれど、この神護寺薬師如来はとくに妄想が広がりやすい、他にはないキャラクター性をもった仏像なのです。
ここは一般撮影OK。二天王立像 平安時代・12 世紀 京都・神護寺蔵
僕が初めて神護寺を訪れたのが今から25年くらい前のこと。
本堂の奥にあって、この像のディテールは見えませんでしたが、その存在感に背筋が凍る思いでした。
この、両手とも前に差し出すポージングですが、暗がりでみるとゆらゆらと動いているようにも見えて、自分も今より25年ぶん純粋だったので本当に怖かったです。
それが、今回初の寺外出展。
だいじょうぶなんだろうか…?
と、取材に伺うまで複雑な気持ちでいましたが、こうしてきちんとした照明で、公の前に姿がさらされると、ただ単に怖ろしいだけでなく、いろんな表情が見えたように思います。ちょっとお近づきになれたようで気持ちもほぐれました。
報道内覧会より、美術系メディアの取材陣に囲まれる薬師三尊
もし仮に、本当に目からビームが出るとしても、それは人類滅亡のためじゃなくて、悪鬼や邪気を払うためのものだから、安心して鑑賞することにしましょう。
ほかのトピックもこんどご紹介します。
それでは聴いてください。
ブラック・サバス(Black Sabbath)で『IRON MAN』。
創建1200 年記念
特別展「神護寺ー空海と真言密教のはじまり」
2024 年7 月17 日(水)~ 9 月8 日(日)
東京国立博物館 平成館
公式サイト
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/jingoji/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ 夏講座(全3回)
一般申込終了。次回は年明け冬期講座を予定
【神と仏 1300年の愛憎関係】
-神仏習合から廃仏へ-
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/61917/
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m