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第403回 仏像の本質を感じる「小川晴暘と飛鳥園 一〇〇年の旅」
”堂内に入り込んだような没入感--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。秋のイベント準備が立て込んでくるときに限って、健康診断とか溜まった本の整理とかしたくなってきている宮澤やすみです。暇なときにやっときゃいいのに。
そんな中、東京の半蔵門ミュージアムで開幕した「小川晴暘と飛鳥園 一〇〇年の旅」の取材にいってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。

仏像写真の名作がずらり。奥には半蔵門ミュージアムの本尊?大日如来坐像も
飛鳥園の仏像写真は、仏像ファンならどこかで必ず見たことがあるんじゃないでしょうか。
仏像関連の本はもちろん、僕がテレビのバラエティで仏像を語るとき、だいたいインサートの映像で飛鳥園の写真が出ていました。
きっと、あの数秒の映像にウン万円もの予算が使われていたと思います(詳細は知らない)。写真一枚でそんなに高いのなんでだろ、と思っていた若き日のワタクシですが、今ならその価値がわかります。
今回の展示は、飛鳥園の創業100周年を記念して、創業者で写真家の小川晴暘(せいよう)と、跡を継いだ息子・小川光三の写真を見ていくものです。
初代・小川晴暘さんが生まれたのが明治24年(1894)。当時最先端のメディアだった写真の腕を磨き、いろいろあって奈良の仏像に魅了されます。そこから美術史家・會津八一に認められて飛鳥園を創業したのが大正11年(1922)のこと。
今から100年前の写真というと、記録のための道具であった写真機が、芸術表現のツールになっていく時期でして、ちょうどこの時期に小川晴暘氏は仏像という撮影対象と出会ったのでした。

展示風景より。拝観では見られないアングルでのクローズアップに見入る
小川晴暘《中宮寺 菩薩半跏像(伝如意輪観音菩薩像) 》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
時代は進取の気風が吹く大正デモクラシーの頃、
晴暘氏の写真は、斜めからのアングルと、仏像を引き立てる黒バック。時には、ふつうの拝観ではありえない上からのアングルなど、チャレンジングな撮影もしています。

小川晴暘《中宮寺 菩薩半跏像(伝如意輪観音菩薩像) 右斜側面》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
今では斜めからのアングルなどはもうお手本といえそうです。しかし、明治期に活躍した小川一眞や工藤利三郎といった仏像写真の先駆者に比べれば、小川晴暘の仏像写真は斬新であったことでしょう。
ただ、やはり基本は自分の芸術性より仏像が主役であり、現飛鳥園社長である小川光太郎さんから「仏像の本質をあらわす写真を心がけていらした」とのコメントをいただいています。
写真作品は撮影者自身の想いや意図が表れるもの。しかし晴暘の写真は、本人の作家性より先にひたすら仏像の美に没入できる感じがして、そこが個人的には好きです。かといって無味乾燥な資料写真ともちがう絶妙な感覚がいいのです。無私の美術といえばよいのか、自我を抑えた作風といえるでしょうか。
なにしろ100年前ですから、カメラは今のものとまったく異なります。もちろんデジタルじゃないからその場で確認もできない。
きっと、目の前の仏像とじっくり向き合って、対話して、ようやく見つけた「ここしかない」というアングルを、熟練の技術でフィルムに収める。まさに一流のプロじゃないとできない仕事をされていたことが、大判に引き伸ばされた展示写真を見て感じられます。

大正期の貴重な撮影風景も。小川晴暘《東大寺法華堂撮影風景》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
しかも、照明は自然光が基本。堂内の窓から差し込む光を利用しているから、自分が実際にお寺で見たときの印象を崩しません。
やわらかな太陽光と陰の部分のコントラストが絶妙。日が傾く前の一瞬の時間をも捉えているのです。

小川晴暘《東大寺戒壇堂 四天王持国天像》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
展示後半は息子である二代目・小川光三氏の写真ですが、同じアングルの写真がいくつか見受けられます。
これも小川光太郎氏の言葉を引用すると「仏像の新たな美しい構図(角度)を探してもほぼ父である小川晴暘氏と同じような角度になったようである」。

先ほどの父の写真と同アングル。小川光三《中宮寺 菩薩半跏像(伝如意輪観音菩薩像) 》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
仏像の魅力ももちろんですが、古写真としての価値も感じることができる興味深い展示。各地へ巡回しますがここ半蔵門ミュージアムでは無料!ということで、何度でも足を運びたくなります。

展示風景より。大きなプリントで堂内に入り込んだような没入感
左)小川光三《法隆寺金堂 釈迦三尊像 》、右)小川光三《大安寺 伝楊柳観音像 》 飛鳥園蔵©Askaen.inc
われわれ一般の仏像ファンが、お寺で「撮影禁止」の看板をみて「飛鳥園ばっかり、いいなぁ~」と思ってしまいがち。冒頭に書いた「今ならその価値がわかります」という、その価値とは…、この展示を見ればなんとなくわかるんじゃないでしょうか。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで『君はソウルメイト!百済観音』。
小川晴暘と飛鳥園 一〇〇年の旅
2024年9月11日(水)~11月24日(日)
半蔵門ミュージアム
https://www.hanzomonmuseum.jp/
以降、パラミタミュージアム(三重)に巡回予定
■あわせて読む(関連記事)
愛ある前衛「安井仲治 僕の大切な写真」
(飛鳥園創業と同時代の写真芸術)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240227-2/
明治の古写真に写る 増上寺の男たち-「法然と極楽浄土」展-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240507-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ ソロライブ「チルやすみ in 松濤」
渋谷の大人エリア・松濤のバーでちいさなライブ。
初めての人向けにわかりやすく、楽しく。誰でも遠慮なく。
https://yasumimiyazawa.com/live.html#chillyasumi

くつろげるバーでのライブ。終演後はゆっくりお話しましょう
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html

雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。秋のイベント準備が立て込んでくるときに限って、健康診断とか溜まった本の整理とかしたくなってきている宮澤やすみです。暇なときにやっときゃいいのに。
そんな中、東京の半蔵門ミュージアムで開幕した「小川晴暘と飛鳥園 一〇〇年の旅」の取材にいってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。

仏像写真の名作がずらり。奥には半蔵門ミュージアムの本尊?大日如来坐像も
飛鳥園の仏像写真は、仏像ファンならどこかで必ず見たことがあるんじゃないでしょうか。
仏像関連の本はもちろん、僕がテレビのバラエティで仏像を語るとき、だいたいインサートの映像で飛鳥園の写真が出ていました。
きっと、あの数秒の映像にウン万円もの予算が使われていたと思います(詳細は知らない)。写真一枚でそんなに高いのなんでだろ、と思っていた若き日のワタクシですが、今ならその価値がわかります。
今回の展示は、飛鳥園の創業100周年を記念して、創業者で写真家の小川晴暘(せいよう)と、跡を継いだ息子・小川光三の写真を見ていくものです。
初代・小川晴暘さんが生まれたのが明治24年(1894)。当時最先端のメディアだった写真の腕を磨き、いろいろあって奈良の仏像に魅了されます。そこから美術史家・會津八一に認められて飛鳥園を創業したのが大正11年(1922)のこと。
今から100年前の写真というと、記録のための道具であった写真機が、芸術表現のツールになっていく時期でして、ちょうどこの時期に小川晴暘氏は仏像という撮影対象と出会ったのでした。

展示風景より。拝観では見られないアングルでのクローズアップに見入る
小川晴暘《中宮寺 菩薩半跏像(伝如意輪観音菩薩像) 》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
時代は進取の気風が吹く大正デモクラシーの頃、
晴暘氏の写真は、斜めからのアングルと、仏像を引き立てる黒バック。時には、ふつうの拝観ではありえない上からのアングルなど、チャレンジングな撮影もしています。

小川晴暘《中宮寺 菩薩半跏像(伝如意輪観音菩薩像) 右斜側面》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
今では斜めからのアングルなどはもうお手本といえそうです。しかし、明治期に活躍した小川一眞や工藤利三郎といった仏像写真の先駆者に比べれば、小川晴暘の仏像写真は斬新であったことでしょう。
ただ、やはり基本は自分の芸術性より仏像が主役であり、現飛鳥園社長である小川光太郎さんから「仏像の本質をあらわす写真を心がけていらした」とのコメントをいただいています。
写真作品は撮影者自身の想いや意図が表れるもの。しかし晴暘の写真は、本人の作家性より先にひたすら仏像の美に没入できる感じがして、そこが個人的には好きです。かといって無味乾燥な資料写真ともちがう絶妙な感覚がいいのです。無私の美術といえばよいのか、自我を抑えた作風といえるでしょうか。
なにしろ100年前ですから、カメラは今のものとまったく異なります。もちろんデジタルじゃないからその場で確認もできない。
きっと、目の前の仏像とじっくり向き合って、対話して、ようやく見つけた「ここしかない」というアングルを、熟練の技術でフィルムに収める。まさに一流のプロじゃないとできない仕事をされていたことが、大判に引き伸ばされた展示写真を見て感じられます。

大正期の貴重な撮影風景も。小川晴暘《東大寺法華堂撮影風景》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
しかも、照明は自然光が基本。堂内の窓から差し込む光を利用しているから、自分が実際にお寺で見たときの印象を崩しません。
やわらかな太陽光と陰の部分のコントラストが絶妙。日が傾く前の一瞬の時間をも捉えているのです。

小川晴暘《東大寺戒壇堂 四天王持国天像》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
展示後半は息子である二代目・小川光三氏の写真ですが、同じアングルの写真がいくつか見受けられます。
これも小川光太郎氏の言葉を引用すると「仏像の新たな美しい構図(角度)を探してもほぼ父である小川晴暘氏と同じような角度になったようである」。

先ほどの父の写真と同アングル。小川光三《中宮寺 菩薩半跏像(伝如意輪観音菩薩像) 》 飛鳥園蔵 ©Askaen.inc
仏像の魅力ももちろんですが、古写真としての価値も感じることができる興味深い展示。各地へ巡回しますがここ半蔵門ミュージアムでは無料!ということで、何度でも足を運びたくなります。

展示風景より。大きなプリントで堂内に入り込んだような没入感
左)小川光三《法隆寺金堂 釈迦三尊像 》、右)小川光三《大安寺 伝楊柳観音像 》 飛鳥園蔵©Askaen.inc
われわれ一般の仏像ファンが、お寺で「撮影禁止」の看板をみて「飛鳥園ばっかり、いいなぁ~」と思ってしまいがち。冒頭に書いた「今ならその価値がわかります」という、その価値とは…、この展示を見ればなんとなくわかるんじゃないでしょうか。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで『君はソウルメイト!百済観音』。
小川晴暘と飛鳥園 一〇〇年の旅
2024年9月11日(水)~11月24日(日)
半蔵門ミュージアム
https://www.hanzomonmuseum.jp/
以降、パラミタミュージアム(三重)に巡回予定
■あわせて読む(関連記事)
愛ある前衛「安井仲治 僕の大切な写真」
(飛鳥園創業と同時代の写真芸術)
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240227-2/
明治の古写真に写る 増上寺の男たち-「法然と極楽浄土」展-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240507-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ ソロライブ「チルやすみ in 松濤」
渋谷の大人エリア・松濤のバーでちいさなライブ。
初めての人向けにわかりやすく、楽しく。誰でも遠慮なく。
https://yasumimiyazawa.com/live.html#chillyasumi

くつろげるバーでのライブ。終演後はゆっくりお話しましょう
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html

雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m