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第404回 シルクロードの神仏習合「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」
”そんな風土で、インドの仏教とペルシャのゾロアスター教が入り混じるのは--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。9月30日で誕生日を迎えた宮澤やすみです。好きなものは赤ワインです。それに合う食べ物も好きです。
そんな中、東京・三井記念美術館での「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」を取材してきました。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものです。
展示第1章 展示風景
インドからシルクロードを経て日本まで 紀元2世紀から鎌倉13世紀まで網羅する幅広いスケールの展示です。
スケールが大きすぎて混乱しそうですが、展示順路に沿ってじっくりみていくとスムーズに理解できますよ。
ざっくり俯瞰すると、まず釈迦と太陽神の関連性、つぎに弥勒信仰、という流れで展示が展開します。もちろんみんな大好き半跏思惟像も登場。
報道説明会ではバーミヤン遺跡の全景写真が提示された
この両者をつなぐのがバーミヤン遺跡でして、
2001年に破壊された二つの大仏は、東側の像が釈迦、西側のが弥勒だったんですね。
展示パネルより。《バーミヤン遺跡と東大仏の太陽神》
その東の釈迦大仏の天井には、太陽神の絵が描かれていたそうで、その模写と復元図がありました。
太陽神とは、インド神話のスーリヤ、さらにはペルシャのゾロアスター教の主神であるミトラのこと。
展示風景より。過去の研究写真から苦心して描き上げた貴重な図。《バーミヤン東大仏天井壁画 描き起こし図》宮治昭 監修・正垣雅子 筆 龍谷ミュージアム蔵
いっぽう釈迦ですが、インドの伝承や仏像の意匠をみても、なにかと光明が輝いたとか、金色に輝いたとか、なにかと「光出しがち」。釈迦あるあるですよね。
この”光”ですが、昔の時代は火=光の源という存在でして、もちろん電気ではありません(雷も光るけど一瞬だけだし)。
たとえば、有名な法隆寺金堂の釈迦三尊は、背後に火焔後背がありますが、あの火焔は、地獄の業火とかではなくて、光を発している表現だといわれます。
釈迦は光を発する。光の源は火。ここに「拝火教」と呼ばれるゾロアスター教の影響がみられるわけですね。
中央にあるのが日輪。その下に両膝が出ている。釈迦を日輪で象徴的に表したもの。《日輪浮彫》片岩 ガンダーラ 2~3世紀 龍谷ミュージアム蔵
こうした仏教とゾロアスター教、インドとペルシャの混成が見られたのが、紀元1世紀ごろに成立したクシャーン王朝という国でのこと。
今のアフガニスタンがある中央アジアからパキスタンー北インドにかけてを支配しました。
このクシャーン朝は遊牧民による国家です。
遊牧民だからフットワークが軽い。
西のローマやペルシャ、東の中国の間に位置して、それぞれの伝統習俗や宗教を受け入れる寛容的な政策によって、人が集まり、交易し、国が発展したんだそうです。ガンダーラでの仏像造りが始まるのもこの時代。
展示風景より。貴重なガンダーラ仏も多数展示
僕はNHK教育で「3か月でマスターする世界史」をよく見ていますけど、紀元前後の世界は想像以上にユーラシア大陸上の交流が活発だったようで、古代国家の寛容政策によるゆるい雰囲気が、この後宗教でがんじがらめになる中世とはちがう点でしょうか。
そんな風土で、インドの仏教とペルシャのゾロアスター教が入り混じるのは自然なことでしょう。
その結果が、5-6世紀バーミヤンの石窟群と遺跡に結実することになります(そのころ国はグプタ朝に変わっています)。
バーミヤンの一番よい時期にここを訪れたのが玄奘三蔵で、うれしかったでしょうね。そのあとインドに入るけども「もうインド何もないじゃん」と嘆いたそうです(そのあと長旅でいろいろ得たけど)。
《風神像》砂岩 インド北部 グプタ朝5~7世紀 平山郁夫シルクロード美術館蔵
日ごろ、神社との神仏習合に注目してきたワタクシですが、何のことはない、仏教はインドですでに神仏習合していたのです。
ゾロアスター教、バラモン教といった神々をとりこんで仏教は変容し、中国や朝鮮半島でさらにアレンジされて、日本に渡ってきます。こうなると、もう原型をとどめてないといいますか…。仏教ってなんなんだろう、仏教という言葉があいまいすぎてもう大変です。詳しいことは宗教学の先生方におまかせしましょう。
展示風景より。弥勒信仰と半跏思惟像については次回!
その流れが、弥勒信仰の像を見ると伝わってくるので、この展示についてまた次回もご紹介しましょう。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで『No Fear! 施無畏印』。
バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰
―ガンダーラから日本へ―
2024年9月14日(土)~ 11月12日(火)
三井記念美術館
https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html
■あわせて読む(関連記事)
バーミヤン仏教遺跡への想い -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240528-2/
ガンダーラ仏 菩薩の見分け方を知る -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240521-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ ソロライブ「チルやすみ in 松濤」
渋谷の大人エリア・松濤のバーでちいさなライブ。
初めての人向けにわかりやすく、楽しく。誰でも遠慮なく。
https://yasumimiyazawa.com/live.html#chillyasumi
くつろげるバーでのライブ。終演後はゆっくりお話しましょう
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。9月30日で誕生日を迎えた宮澤やすみです。好きなものは赤ワインです。それに合う食べ物も好きです。
そんな中、東京・三井記念美術館での「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」を取材してきました。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものです。
展示第1章 展示風景
インドからシルクロードを経て日本まで 紀元2世紀から鎌倉13世紀まで網羅する幅広いスケールの展示です。
スケールが大きすぎて混乱しそうですが、展示順路に沿ってじっくりみていくとスムーズに理解できますよ。
ざっくり俯瞰すると、まず釈迦と太陽神の関連性、つぎに弥勒信仰、という流れで展示が展開します。もちろんみんな大好き半跏思惟像も登場。
報道説明会ではバーミヤン遺跡の全景写真が提示された
この両者をつなぐのがバーミヤン遺跡でして、
2001年に破壊された二つの大仏は、東側の像が釈迦、西側のが弥勒だったんですね。
展示パネルより。《バーミヤン遺跡と東大仏の太陽神》
その東の釈迦大仏の天井には、太陽神の絵が描かれていたそうで、その模写と復元図がありました。
太陽神とは、インド神話のスーリヤ、さらにはペルシャのゾロアスター教の主神であるミトラのこと。
展示風景より。過去の研究写真から苦心して描き上げた貴重な図。《バーミヤン東大仏天井壁画 描き起こし図》宮治昭 監修・正垣雅子 筆 龍谷ミュージアム蔵
いっぽう釈迦ですが、インドの伝承や仏像の意匠をみても、なにかと光明が輝いたとか、金色に輝いたとか、なにかと「光出しがち」。釈迦あるあるですよね。
この”光”ですが、昔の時代は火=光の源という存在でして、もちろん電気ではありません(雷も光るけど一瞬だけだし)。
たとえば、有名な法隆寺金堂の釈迦三尊は、背後に火焔後背がありますが、あの火焔は、地獄の業火とかではなくて、光を発している表現だといわれます。
釈迦は光を発する。光の源は火。ここに「拝火教」と呼ばれるゾロアスター教の影響がみられるわけですね。
中央にあるのが日輪。その下に両膝が出ている。釈迦を日輪で象徴的に表したもの。《日輪浮彫》片岩 ガンダーラ 2~3世紀 龍谷ミュージアム蔵
こうした仏教とゾロアスター教、インドとペルシャの混成が見られたのが、紀元1世紀ごろに成立したクシャーン王朝という国でのこと。
今のアフガニスタンがある中央アジアからパキスタンー北インドにかけてを支配しました。
このクシャーン朝は遊牧民による国家です。
遊牧民だからフットワークが軽い。
西のローマやペルシャ、東の中国の間に位置して、それぞれの伝統習俗や宗教を受け入れる寛容的な政策によって、人が集まり、交易し、国が発展したんだそうです。ガンダーラでの仏像造りが始まるのもこの時代。
展示風景より。貴重なガンダーラ仏も多数展示
僕はNHK教育で「3か月でマスターする世界史」をよく見ていますけど、紀元前後の世界は想像以上にユーラシア大陸上の交流が活発だったようで、古代国家の寛容政策によるゆるい雰囲気が、この後宗教でがんじがらめになる中世とはちがう点でしょうか。
そんな風土で、インドの仏教とペルシャのゾロアスター教が入り混じるのは自然なことでしょう。
その結果が、5-6世紀バーミヤンの石窟群と遺跡に結実することになります(そのころ国はグプタ朝に変わっています)。
バーミヤンの一番よい時期にここを訪れたのが玄奘三蔵で、うれしかったでしょうね。そのあとインドに入るけども「もうインド何もないじゃん」と嘆いたそうです(そのあと長旅でいろいろ得たけど)。
《風神像》砂岩 インド北部 グプタ朝5~7世紀 平山郁夫シルクロード美術館蔵
日ごろ、神社との神仏習合に注目してきたワタクシですが、何のことはない、仏教はインドですでに神仏習合していたのです。
ゾロアスター教、バラモン教といった神々をとりこんで仏教は変容し、中国や朝鮮半島でさらにアレンジされて、日本に渡ってきます。こうなると、もう原型をとどめてないといいますか…。仏教ってなんなんだろう、仏教という言葉があいまいすぎてもう大変です。詳しいことは宗教学の先生方におまかせしましょう。
展示風景より。弥勒信仰と半跏思惟像については次回!
その流れが、弥勒信仰の像を見ると伝わってくるので、この展示についてまた次回もご紹介しましょう。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで『No Fear! 施無畏印』。
バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰
―ガンダーラから日本へ―
2024年9月14日(土)~ 11月12日(火)
三井記念美術館
https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html
■あわせて読む(関連記事)
バーミヤン仏教遺跡への想い -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240528-2/
ガンダーラ仏 菩薩の見分け方を知る -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240521-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ ソロライブ「チルやすみ in 松濤」
渋谷の大人エリア・松濤のバーでちいさなライブ。
初めての人向けにわかりやすく、楽しく。誰でも遠慮なく。
https://yasumimiyazawa.com/live.html#chillyasumi
くつろげるバーでのライブ。終演後はゆっくりお話しましょう
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m