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第405回 大きな誤解? 弥勒仏と半跏思惟のナゾ「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」
”わたくし、弥勒菩薩について大きな勘違いをしていたのかもしれません--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ソロライブ「チルやすみ」が想定外の超大入満員で、バースデー祝いも盛大にしてくれて、人のやさしさに触れた宮澤やすみです。生きててよかった。
そんな中、東京・三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」取材のつづきです。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものです。
展示は太陽神と釈迦の関係から、弥勒信仰へと移ります。
日本では、手の指を頬にあてた「思惟」の姿が人気ですが、その実態は?

展示風景。野中寺の半跏思惟像が展示室を見守る
人気が高い弥勒菩薩。ここで弥勒の基本的な知識をおさらいしましょう。
【弥勒の基礎知識】
●釈迦の次にブッダとなる予定の人(菩薩)
●今は仏教世界の「兜率天(とそつてん)」というところにいる
●この世に降りて人々を救うのは、56億7000万年後(弥勒下生:みろくげしょう)
こういった弥勒への信仰はインドでも早くからあって、ガンダーラの初期仏像でも弥勒菩薩の像は多く見られます。
以前ここで書きましたが、ガンダーラでの弥勒の姿は宗教者として表現され、王子(太子ともいう)の姿とは区別されるのでわかりやすい。
さらに、足を交差して(交脚)座るポーズとか、水瓶を持っているという特徴があります。

《弥勒菩薩交脚像》片岩 ガンダーラ 2~3世紀 平山郁夫シルクロード美術館
で、「基礎知識」の二番目にあるとおり、兜率天で過ごしている弥勒さん。どんな状況なんでしょうか?
中継がつながっています。弥勒さーん!

《兜率天上の弥勒菩薩像》片岩 ガンダーラ 2~3世紀 大阪 四天王寺
あれ、、、
立派なお屋敷に、美人の付き人が侍って、けっこう、豪勢なくらしをされているんですね。。。
わたしはてっきり、あの「半跏思惟」の姿で一生懸命考えているのかと思っていましたが。
どうやらわたくし、弥勒菩薩について大きな勘違いをしていたのかもしれません。
展示を進んでいくと、我々にはお馴染みの半跏思惟の弥勒像がたくさん登場します。
インドから、中国、朝鮮半島、そして日本へと、弥勒信仰が伝播していく様を展示で見ていくことができます。

《重要文化財 弥勒菩薩半跏像》銅像鍍金 天智5年(666)大阪 野中寺
とくに朝鮮半島では半跏思惟像が流行したそうですが、なぜそうなったのかはっきりしたことは分かりません。
よく言われるのは、古代の朝鮮半島で活躍した花郎(ふぁらん)という青年貴族集団が、将来に世界を救う弥勒信仰と重なり美しい姿で表現されたとか。

展示風景より。半跏思惟像は必ずしも弥勒菩薩とは断定できないようだが弥勒信仰の流行とともに造られた
で、この手指を頬に当てる「思惟」のポーズは、わたくしてっきり、兜率天で衆生の救済について考えている姿だと解釈していました。
しかし、さっきのガンダーラ像ですよ。兜率天ではもう王様の風格で説法をしており、あれこれ思惟する風ではない。
ここで論文を検索すると、
弥勒がこの世に下生した後の様子についてこんな文言を見つけました。
「悟りを開く前は 下生した世界の衆生の苦しみを思い、それを取り除こうと思惟していたことが説かれている。
このことからも半跏思惟像として表された弥勒は、下生してきた弥勒の成道前の姿と考えることが可能である。」
(清水真澄「新羅の弥勒下生信仰と見仏─断石山神仙寺石窟を中心に─」佛教大学 歴史学部論集 第一四号)
ようするに、弥勒がこの世に「下生」するのは「成道前」つまりブッダになる前の姿であると。
つまり、あの有名な半跏思惟の姿は、兜率天ではなく、我々の世界に降りてきた後の姿だというんですね。
ターミネーターが現代に到着したときのシーンが思い起こされます。
そのあと、この世でしばらく修行をして「成道」=悟りを開いて、ブッダになる、ということだそうで・・・
ですから、弥勒が56億7000万年後にこの世に来てから、(悟りを開いて)人々を救うまでさらに時間がかかる
ということになります。むむむ、知りませんでした。

平安時代以降の弥勒菩薩は半跏思惟ではない形で表現される。《弥勒菩薩立像》木造 鎌倉時代13世紀
まだ「諸説あり」の段階でしょうが、認識を改めさせられる話でした。
展示では、こうした半跏思惟の菩薩像と、悟りを開いたあとの「弥勒仏」像もあります。

《弥勒如来像》木造 秀弁・長弁作 南北朝・暦応3年(1340)滋賀 櫟野寺
そしてバーミヤンなのですが、東と西のバーミヤン大仏のうち、西大仏は弥勒仏。その高さは55メートルと超巨大。
これにもワケがあって、仏の大きさを示したお経『観仏三昧海経』によると、弥勒仏は”十六丈”=約48メートルあるのだとか。ちょうど釈迦如来(丈六)の十倍です。
バーミヤン弥勒大仏は、まさにこの大きさを本気で表現したものといえますね。

展示パネルより。《西大仏と弥勒信仰》
日本の国宝弥勒菩薩が、仏像ファンの間ではよく「ウルトラマン」に似てるとか言われますが、
身長もウルトラマンは40メートル。やっぱりウルトラマン制作陣は仏像に詳しかったんでしょうか?
それにしても、昔覚えた知識は最新の研究で変わるのだ、そしてガンダーラという仏像の原点を見て初めて分かることがあるということを知らされた良展示でした。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで『欣喜雀躍』。
バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰
―ガンダーラから日本へ―
2024年9月14日(土)~ 11月12日(火)
三井記念美術館
https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html
■あわせて読む(関連記事)
シルクロードの神仏習合「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20241001-2/
バーミヤン仏教遺跡への想い -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240528-2/
ガンダーラ仏 菩薩の見分け方を知る -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240521-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ一門「小唄 in 神楽坂」
初めての人向けにわかりやすく、元芸者の舞踊も華やかに。
くつろぎ和のライブです。
https://www.sfm-shinjuku.jp/kouta2024/

くつろぎの和のライブです。気軽にどうぞ
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html

雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ソロライブ「チルやすみ」が想定外の超大入満員で、バースデー祝いも盛大にしてくれて、人のやさしさに触れた宮澤やすみです。生きててよかった。
そんな中、東京・三井記念美術館「バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰」取材のつづきです。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものです。
展示は太陽神と釈迦の関係から、弥勒信仰へと移ります。
日本では、手の指を頬にあてた「思惟」の姿が人気ですが、その実態は?

展示風景。野中寺の半跏思惟像が展示室を見守る
人気が高い弥勒菩薩。ここで弥勒の基本的な知識をおさらいしましょう。
【弥勒の基礎知識】
●釈迦の次にブッダとなる予定の人(菩薩)
●今は仏教世界の「兜率天(とそつてん)」というところにいる
●この世に降りて人々を救うのは、56億7000万年後(弥勒下生:みろくげしょう)
こういった弥勒への信仰はインドでも早くからあって、ガンダーラの初期仏像でも弥勒菩薩の像は多く見られます。
以前ここで書きましたが、ガンダーラでの弥勒の姿は宗教者として表現され、王子(太子ともいう)の姿とは区別されるのでわかりやすい。
さらに、足を交差して(交脚)座るポーズとか、水瓶を持っているという特徴があります。

《弥勒菩薩交脚像》片岩 ガンダーラ 2~3世紀 平山郁夫シルクロード美術館
で、「基礎知識」の二番目にあるとおり、兜率天で過ごしている弥勒さん。どんな状況なんでしょうか?
中継がつながっています。弥勒さーん!

《兜率天上の弥勒菩薩像》片岩 ガンダーラ 2~3世紀 大阪 四天王寺
あれ、、、
立派なお屋敷に、美人の付き人が侍って、けっこう、豪勢なくらしをされているんですね。。。
わたしはてっきり、あの「半跏思惟」の姿で一生懸命考えているのかと思っていましたが。
どうやらわたくし、弥勒菩薩について大きな勘違いをしていたのかもしれません。
展示を進んでいくと、我々にはお馴染みの半跏思惟の弥勒像がたくさん登場します。
インドから、中国、朝鮮半島、そして日本へと、弥勒信仰が伝播していく様を展示で見ていくことができます。

《重要文化財 弥勒菩薩半跏像》銅像鍍金 天智5年(666)大阪 野中寺
とくに朝鮮半島では半跏思惟像が流行したそうですが、なぜそうなったのかはっきりしたことは分かりません。
よく言われるのは、古代の朝鮮半島で活躍した花郎(ふぁらん)という青年貴族集団が、将来に世界を救う弥勒信仰と重なり美しい姿で表現されたとか。

展示風景より。半跏思惟像は必ずしも弥勒菩薩とは断定できないようだが弥勒信仰の流行とともに造られた
で、この手指を頬に当てる「思惟」のポーズは、わたくしてっきり、兜率天で衆生の救済について考えている姿だと解釈していました。
しかし、さっきのガンダーラ像ですよ。兜率天ではもう王様の風格で説法をしており、あれこれ思惟する風ではない。
ここで論文を検索すると、
弥勒がこの世に下生した後の様子についてこんな文言を見つけました。
「悟りを開く前は 下生した世界の衆生の苦しみを思い、それを取り除こうと思惟していたことが説かれている。
このことからも半跏思惟像として表された弥勒は、下生してきた弥勒の成道前の姿と考えることが可能である。」
(清水真澄「新羅の弥勒下生信仰と見仏─断石山神仙寺石窟を中心に─」佛教大学 歴史学部論集 第一四号)
ようするに、弥勒がこの世に「下生」するのは「成道前」つまりブッダになる前の姿であると。
つまり、あの有名な半跏思惟の姿は、兜率天ではなく、我々の世界に降りてきた後の姿だというんですね。
ターミネーターが現代に到着したときのシーンが思い起こされます。
そのあと、この世でしばらく修行をして「成道」=悟りを開いて、ブッダになる、ということだそうで・・・
ですから、弥勒が56億7000万年後にこの世に来てから、(悟りを開いて)人々を救うまでさらに時間がかかる
ということになります。むむむ、知りませんでした。

平安時代以降の弥勒菩薩は半跏思惟ではない形で表現される。《弥勒菩薩立像》木造 鎌倉時代13世紀
まだ「諸説あり」の段階でしょうが、認識を改めさせられる話でした。
展示では、こうした半跏思惟の菩薩像と、悟りを開いたあとの「弥勒仏」像もあります。

《弥勒如来像》木造 秀弁・長弁作 南北朝・暦応3年(1340)滋賀 櫟野寺
そしてバーミヤンなのですが、東と西のバーミヤン大仏のうち、西大仏は弥勒仏。その高さは55メートルと超巨大。
これにもワケがあって、仏の大きさを示したお経『観仏三昧海経』によると、弥勒仏は”十六丈”=約48メートルあるのだとか。ちょうど釈迦如来(丈六)の十倍です。
バーミヤン弥勒大仏は、まさにこの大きさを本気で表現したものといえますね。

展示パネルより。《西大仏と弥勒信仰》
日本の国宝弥勒菩薩が、仏像ファンの間ではよく「ウルトラマン」に似てるとか言われますが、
身長もウルトラマンは40メートル。やっぱりウルトラマン制作陣は仏像に詳しかったんでしょうか?
それにしても、昔覚えた知識は最新の研究で変わるのだ、そしてガンダーラという仏像の原点を見て初めて分かることがあるということを知らされた良展示でした。
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで『欣喜雀躍』。
バーミヤン大仏の太陽神と弥勒信仰
―ガンダーラから日本へ―
2024年9月14日(土)~ 11月12日(火)
三井記念美術館
https://www.mitsui-museum.jp/exhibition/index.html
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バーミヤン仏教遺跡への想い -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240528-2/
ガンダーラ仏 菩薩の見分け方を知る -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240521-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ一門「小唄 in 神楽坂」
初めての人向けにわかりやすく、元芸者の舞踊も華やかに。
くつろぎ和のライブです。
https://www.sfm-shinjuku.jp/kouta2024/

くつろぎの和のライブです。気軽にどうぞ
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html

雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m