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第406回 ”カメラ”では描けない旅の魅力ー「カナレットとヴェネツィアの輝き」展

”上手にフィクションを織り交ぜたカナレット作品は、”写真前夜”の絵画の価値観を考えさせられ--”

音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。東京・新宿区のイベントで着物パレードに参加してきた宮澤やすみです。三味線をもって小唄を流して歩いてきました。

そんな中、東京・新宿のSOMPO美術館へ「カナレットとヴェネツィア景観画」を取材してきました。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものですが、一般撮影もOKのところが多いみたいです。


パティシェのケーキでも出てきそうな、おしゃれなロゴが目を引く

みどころはヴェネツィアの優美な風景。


展示風景。カナレット本人の肖像画が会場を見守る

昔も今も、旅先の思い出はしっかり持ち帰りたいたいもの。現代ならスマホで写真をたくさん撮るし、昭和のころなら絵葉書が売れた。
カナレットが活躍した18世紀はまだ写真がありませんから、旅に来た貴族は「景観画(veduta:ヴェドゥータ)」を買ったんだそうです。


景観画(左)と、筆者が撮った写真(右)2015年撮影。絵を見ることで旅の思い出が鮮明によみがえる。絵画のほうでは画面右下に人物が描かれることで物語性が演出されている。ウィリアム・エティ《溜息橋》1833-35年頃 油彩、カンヴァス ヨーク・ミュージアム・トラスト(ヨーク美術館)

手書きの油絵画ですよ。それを旅先でポンと買う、それが本当の貴族。
イギリス貴族の子息が研修旅行みたいな名目でイタリアを訪れるのが流行ったんだそうです。
私もイギリス貴族に生まれたかった。ダウントン・アビーの世界。

現代日本の我々にはうらやましい話ですが、この展覧会ではそうした貴族が買っていた絵(おかげで今はイギリスの美術館に所蔵されている)を目の当たりにして、
「これ、いただこうかしら」
なんて貴族ごっこができてしまうわけです(展覧会場ではお静かに)。

そうした景観画(ヴェドゥータ)の大家がカナレット。
ヨーロッパではよく知られた画家ですが、日本でのまとまった展示は初めてとのこと。

このヴェドゥータが面白いのは、一見写真のような写実に見えて、じつは写真では撮れない構図で描かれていること。


カメラでは撮り切れないほど広い画角かつ低い構図で描き、大聖堂ほか名所建築を一枚に収めている。カナレット《サン・マルコ広場》1732-1733年頃 油彩、カンヴァス 東京富士美術館

カメラを構えただけでは一つの構図に収まることがないはずの名所や建築を、一枚の絵に自然な形でうまいこと収めて描いているのです。
これはカメラにはできない芸当ですね。
実際の風景とは異なるけれど、そんな野暮なことは気にしない。あくまでも「イメージ図」。このほうが旅の思い出として鑑賞するのに好都合でしょう。

そのぶん、鑑賞者は大きな絵を前にしてヴェネツィアの美しい街並みに没入、バーチャルなヴェネツィア散策を楽しむことができます。


大画面に引き込まれる。カナレット《カナル・グランデのレガッタ》1730-39年頃 油彩、カンヴァス ボウズ美術館 ダラム


近くで見てみると、ボート競走祭のようすを歓声が聞こえてきそう。カナレット《カナル・グランデのレガッタ》部分


同じ作品の左側。仮面を被った貴族たちが上から眺めている。カナレット《カナル・グランデのレガッタ》部分

さらに興味深いのは、当時存在した写真機の前身である「カメラ・オブスキュラ」です。
レンズを通して目の前の光景を投影し、それを手書きで紙に写し取りました。
フェルメールなど当時の画家がこれを利用していたそうですが、カナレットも使用していたそう。


展示会場では、実際にカメラ・オブスキュラを覗いてみることができる


カメラ・オブスキュラを覗くとこんな感じ。暗い図なので会場で実際にご覧あれ

つまり、まずカメラ・オブスキュラで正確に景観や建物を捉えて、それをカンヴァス上に再構成するというやり方。
今なら、パソコンのフォトショップやスマホのGoogle Pixelでオブジェクトをぐりぐり動かして構図を変えられますが、それと同じことを頭の中でやっていた。

対象物は非常に精巧に写実として描きながら、顧客が求めるであろう「おいしい部分」を全部まとめて、ある意味虚構の風景を作る。カナレットは顧客満足度を第一に考えていたんでしょうか。

カナレットからおよそ100年くらい後で写真が発達してくると、いよいよ絵画の存在意義が問われて、印象派やキュビズムなど絵画にしかできない表現が出てくるのですが、
まるで写真のような、でも上手にフィクションを織り交ぜたカナレット作品は、”写真前夜”の絵画の価値観を考えさせられます。

ところでヴェネツィアは、697年の共和国成立からナポレオンの侵攻で1797年滅ぶまで約1000年間の共和制を保持した、ヨーロッパでも随一の国家でした。

ナポレオン以降失われてしまった建物や、元首の儀礼で使われた豪華な舟などが精密に描かれていて、ヴェネツィアの栄光を語る歴史の記録としても大変貴重な存在となっています。


カナレット《昇天祭、モーロ河岸に戻るブチントーロ》1738-42年頃 油彩、カンヴァス レスター伯爵およびホウカム・エステート管理委員会 ノーフォーク


上の写真と同じ構図で筆者が撮った写真。2015年撮影。建物は現存するがカナレットが描いたブチントーロ(元首が儀式で乗船した金張りの御座船)は現存せず。エンジン付きのボートが行き交う


展示後半には、カナレット以降の景観画の動向、クロード・モネが描いたヴェネツィアはやっぱりこうなるといった作品もあります。


それでは聴いてください。
坂本龍一で「Venezia」。



カナレットとヴェネツィアの輝き
2024.10.12(土)- 12.28(土)
東京・SOMPO美術館
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2023/canaletto/


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--おしらせ---

本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

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 2.一木造
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 4.川のほとりで
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 6.Black Etenraku
 7.北斗星
 8.いけるとこまで
 ほか、付録CDにボーナストラック




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