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第407回 生き生きと古墳の時代が見えてくる―特別展「はにわ」
”ただかわいいだけでない戦と呪いの部分が見えてくる――”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。日光江戸村で三味線を弾いてきました宮澤やすみです。来週は小唄も唄う予定です。
そんな中、東京国立博物館で開幕している特別展「はにわ」を取材してきました。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものですが、一般撮影もOKのところが多いです。
入場すぐに会えるのが《埴輪 踊る人々》。ハニワの時代の最終期近くの作で、表現の省略が進んでいる。ともかくたのしい埴輪の世界へGO! 埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代 6世紀 東京国立博物館蔵
仏像ファンならはにわが好きな方も多いと思いんじゃないでしょうか。
なにしろ、かわいい。
圧倒的にかわいい。
ニッポンの「KAWAII」カルチャーの原点といえるでしょうか。
誰もがニンマリして、男性でも母性本能がくすぐられますね。
ただ、今回の展示で深い部分を知るにつれ、ただかわいいだけでない戦と呪いの部分が見えてくるのです。それは後ほど。
いちおう基本をおさらいすると、はにわ(埴輪)は、日本各地の首長や豪族を埋葬した古墳に置かれた物。
当初は円筒型のものがずらり並ぶだけ(周囲との結界を意味するとも)だったのが、家や人物などをかたどった「形象埴輪」も作られるようになった。
最大の円筒埴輪。《重要文化財 円筒埴輪》 奈良県桜井市 メスリ山古墳出土 古墳時代・4世紀 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館蔵
古墳時代後半では、動物や人物などの形象埴輪を並べて、群像で埋葬者とのかかわり等ある種の物語をを示すようになったらしいです。
今回の展示では、はにわの造形だけでなく、古墳とのつながりを丁寧に紹介していて、取材陣からも「古墳のこと知らなかったー」という声が漏れ聞こえていました。
展示風景より。古墳と埴輪のセットで写真を撮ることができる
こうした形象埴輪は、古墳の中枢部、つまり前方後円墳だったら被葬者が眠る後円部の墳頂に配置されていたそうで、特別な意味があることを示しています。
その意味は、学者の間でも諸説あるという状況なのですが、そのぶん想像を巡らせる楽しさがあります。
図録の解説でも、埋葬者の魂が呪いとなって人々に災いをもたらせないよう、封じているのではといった、興味深い推測がされていました。
仏像ファンなら、平安時代の怨霊封じと仏像の関係を想起する人もいるかもしれませんね。そうした災いを封じる意味での鎮魂も、はにわが担っていたんでしょうか。
家形埴輪は、被葬者の魂の住み家として古墳の中心に置かれた。《重要文化財 家形埴輪》大阪府八尾市 美園古墳出土 古墳時代・4世紀 文化庁(大阪府立近つ飛鳥博物館保管)
上の家形埴輪の内部。被葬者が眠るため?のベッドが作られている
人物埴輪の展示では、さまざまな身分、職業の人たちが登場します。
顔に入墨を入れた貴人の姿のほか、巫女や琴を奏でる宗教儀礼の姿、さらには魔物から守るためか武人の姿、相撲の原点となる力士、狩人など身分の低い人物もあり、古墳時代の人のくらしぶりを知るヒントになります。
生前の王の姿と推測される貴人。《重要文化財 埴輪 あぐらの男子》群馬県高崎市 綿貫観音山古墳出土 古墳時代・6世紀 文化庁(群馬県立歴史博物館保管)
個人的には、10年以上前から「推しハニワ」として紹介してきた”チャーリー”こと《鍬を担ぐ男子》がスポットライトを浴びていたのがうれしかったですね。
”チャーリー”というのは僕が勝手につけたあだ名で、顔つきがスヌーピーの飼い主・チャーリーブラウンみたいだからです。
筆者が勝手に”チャーリー”と呼んでいるこの子。東博常設展でも見ていたが今回は誇らしげな笑顔にみえる。人物としては農作業に関わる庶民の代表者とも。《埴輪 鍬を担ぐ男子》群馬県伊勢崎市 赤堀村104号墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館
そして最後は動物埴輪の大行進。これはもうずっと見ていられますね。
よく見ると、馬が一番格が高くてかっこいい、猪は獲物(矢が刺さっているものも)、鹿はフレンドリーなど、動物の表現にもちがいが見られます。
ちなみに鳥は死者のめざめを祈る象徴だそうです。なんだかエジプトと共通するものがありますね。
どうぶつ埴輪の大行進。先頭の《子馬形埴輪》がたまらなくかわいい
「呼んだ?」《重要文化財 鹿形埴輪》群馬県伊勢崎市 剛志(上武士)天神山古墳出土 古墳時代・6世紀 九州国立博物館
展示の目玉としては国宝《挂甲の武人》と、それにそっくりで「兄弟」といわれる埴輪が5体集結した展示。学芸員さんによると「この5体が揃う機会は、我々が生きている間は二度とないだろう」とのこと。
《挂甲の武人》を取材する取材陣。ご一緒した辛酸なめ子さんも熱心に撮影
顔つきはやっぱりかわいくて、ぬいぐるみになったり、NHK「おーい!はに丸」のモデルにもなっているキャラクターだから、すごく親しみを感じます。
しかし、この荘厳な展示で、《挂甲の武人》の本来の意味と力強さも感じるのでした。
円筒埴輪の上で、猿の親子と犬が追いかけっこ。《犬猿の円筒埴輪》群馬県前橋市 後二子古墳出土 古墳時代・6世紀 群馬・前橋市教育委員会
じつは今回は、コラムニストの辛酸なめ子さんとご一緒したのですが、なめ子さんにコメントを求めると、
「ハニワへの軽い恐怖がわいてきた展示でした」
その意味とは? 次回につづきます。コメント全文も次回!
それでは聴いてください。
まりこふんで「ハニワのブルース」。
(筆者・宮澤やすみ が三味線、ベース、コーラスで参加しています)
挂甲の武人 国宝指定50周年記念
特別展「はにわ」
(東京会場)
2024年10月16日(水)〜12月8日(日)
東京国立博物館 平成館
(福岡会場)
2025年1月21日(火)〜5月11日(日)
九州国立博物館 特別展示室
詳細:https://haniwa820.exhibit.jp/
■あわせて読む(関連記事)
夏休みは博物館で 考古展示室のかわいいハニワたち
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230725-2/
観音か、埴輪か…多摩川観音塚古墳のナゾ
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20201117-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ一門「小唄 in 神楽坂」
初めての人向けにわかりやすく、元芸者の舞踊も華やかに。
くつろぎ和のライブです。
https://www.sfm-shinjuku.jp/kouta2024/
くつろぎの和のライブです。気軽にどうぞ
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。日光江戸村で三味線を弾いてきました宮澤やすみです。来週は小唄も唄う予定です。
そんな中、東京国立博物館で開幕している特別展「はにわ」を取材してきました。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものですが、一般撮影もOKのところが多いです。
入場すぐに会えるのが《埴輪 踊る人々》。ハニワの時代の最終期近くの作で、表現の省略が進んでいる。ともかくたのしい埴輪の世界へGO! 埼玉県熊谷市 野原古墳出土 古墳時代 6世紀 東京国立博物館蔵
仏像ファンならはにわが好きな方も多いと思いんじゃないでしょうか。
なにしろ、かわいい。
圧倒的にかわいい。
ニッポンの「KAWAII」カルチャーの原点といえるでしょうか。
誰もがニンマリして、男性でも母性本能がくすぐられますね。
ただ、今回の展示で深い部分を知るにつれ、ただかわいいだけでない戦と呪いの部分が見えてくるのです。それは後ほど。
いちおう基本をおさらいすると、はにわ(埴輪)は、日本各地の首長や豪族を埋葬した古墳に置かれた物。
当初は円筒型のものがずらり並ぶだけ(周囲との結界を意味するとも)だったのが、家や人物などをかたどった「形象埴輪」も作られるようになった。
最大の円筒埴輪。《重要文化財 円筒埴輪》 奈良県桜井市 メスリ山古墳出土 古墳時代・4世紀 奈良県立橿原考古学研究所附属博物館蔵
古墳時代後半では、動物や人物などの形象埴輪を並べて、群像で埋葬者とのかかわり等ある種の物語をを示すようになったらしいです。
今回の展示では、はにわの造形だけでなく、古墳とのつながりを丁寧に紹介していて、取材陣からも「古墳のこと知らなかったー」という声が漏れ聞こえていました。
展示風景より。古墳と埴輪のセットで写真を撮ることができる
こうした形象埴輪は、古墳の中枢部、つまり前方後円墳だったら被葬者が眠る後円部の墳頂に配置されていたそうで、特別な意味があることを示しています。
その意味は、学者の間でも諸説あるという状況なのですが、そのぶん想像を巡らせる楽しさがあります。
図録の解説でも、埋葬者の魂が呪いとなって人々に災いをもたらせないよう、封じているのではといった、興味深い推測がされていました。
仏像ファンなら、平安時代の怨霊封じと仏像の関係を想起する人もいるかもしれませんね。そうした災いを封じる意味での鎮魂も、はにわが担っていたんでしょうか。
家形埴輪は、被葬者の魂の住み家として古墳の中心に置かれた。《重要文化財 家形埴輪》大阪府八尾市 美園古墳出土 古墳時代・4世紀 文化庁(大阪府立近つ飛鳥博物館保管)
上の家形埴輪の内部。被葬者が眠るため?のベッドが作られている
人物埴輪の展示では、さまざまな身分、職業の人たちが登場します。
顔に入墨を入れた貴人の姿のほか、巫女や琴を奏でる宗教儀礼の姿、さらには魔物から守るためか武人の姿、相撲の原点となる力士、狩人など身分の低い人物もあり、古墳時代の人のくらしぶりを知るヒントになります。
生前の王の姿と推測される貴人。《重要文化財 埴輪 あぐらの男子》群馬県高崎市 綿貫観音山古墳出土 古墳時代・6世紀 文化庁(群馬県立歴史博物館保管)
個人的には、10年以上前から「推しハニワ」として紹介してきた”チャーリー”こと《鍬を担ぐ男子》がスポットライトを浴びていたのがうれしかったですね。
”チャーリー”というのは僕が勝手につけたあだ名で、顔つきがスヌーピーの飼い主・チャーリーブラウンみたいだからです。
筆者が勝手に”チャーリー”と呼んでいるこの子。東博常設展でも見ていたが今回は誇らしげな笑顔にみえる。人物としては農作業に関わる庶民の代表者とも。《埴輪 鍬を担ぐ男子》群馬県伊勢崎市 赤堀村104号墳出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館
そして最後は動物埴輪の大行進。これはもうずっと見ていられますね。
よく見ると、馬が一番格が高くてかっこいい、猪は獲物(矢が刺さっているものも)、鹿はフレンドリーなど、動物の表現にもちがいが見られます。
ちなみに鳥は死者のめざめを祈る象徴だそうです。なんだかエジプトと共通するものがありますね。
どうぶつ埴輪の大行進。先頭の《子馬形埴輪》がたまらなくかわいい
「呼んだ?」《重要文化財 鹿形埴輪》群馬県伊勢崎市 剛志(上武士)天神山古墳出土 古墳時代・6世紀 九州国立博物館
展示の目玉としては国宝《挂甲の武人》と、それにそっくりで「兄弟」といわれる埴輪が5体集結した展示。学芸員さんによると「この5体が揃う機会は、我々が生きている間は二度とないだろう」とのこと。
《挂甲の武人》を取材する取材陣。ご一緒した辛酸なめ子さんも熱心に撮影
顔つきはやっぱりかわいくて、ぬいぐるみになったり、NHK「おーい!はに丸」のモデルにもなっているキャラクターだから、すごく親しみを感じます。
しかし、この荘厳な展示で、《挂甲の武人》の本来の意味と力強さも感じるのでした。
円筒埴輪の上で、猿の親子と犬が追いかけっこ。《犬猿の円筒埴輪》群馬県前橋市 後二子古墳出土 古墳時代・6世紀 群馬・前橋市教育委員会
じつは今回は、コラムニストの辛酸なめ子さんとご一緒したのですが、なめ子さんにコメントを求めると、
「ハニワへの軽い恐怖がわいてきた展示でした」
その意味とは? 次回につづきます。コメント全文も次回!
それでは聴いてください。
まりこふんで「ハニワのブルース」。
(筆者・宮澤やすみ が三味線、ベース、コーラスで参加しています)
挂甲の武人 国宝指定50周年記念
特別展「はにわ」
(東京会場)
2024年10月16日(水)〜12月8日(日)
東京国立博物館 平成館
(福岡会場)
2025年1月21日(火)〜5月11日(日)
九州国立博物館 特別展示室
詳細:https://haniwa820.exhibit.jp/
■あわせて読む(関連記事)
夏休みは博物館で 考古展示室のかわいいハニワたち
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230725-2/
観音か、埴輪か…多摩川観音塚古墳のナゾ
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20201117-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ一門「小唄 in 神楽坂」
初めての人向けにわかりやすく、元芸者の舞踊も華やかに。
くつろぎ和のライブです。
https://www.sfm-shinjuku.jp/kouta2024/
くつろぎの和のライブです。気軽にどうぞ
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m