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第410回 古墳時代の銅鏡に仏像「三角縁仏獣鏡」-後編
”「三角縁神獣鏡」ではなく、「ブツ」獣鏡なんです--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。わたくしの一門演奏会「小唄 in 神楽坂」を無事終えた宮澤やすみです。21年目の今回も大盛況、誠にありがとうございました。見逃した方は録画配信が見られます(下記おしらせ参照)。
そんな中、前回ご紹介した「三角縁仏獣鏡」のつづきです。
「三角縁神獣鏡」ではなく、「ブツ」獣鏡なんです。三角縁仏獣鏡。
古墳や古代史界隈でよく知られた三角縁神獣鏡の一種で、中国の神仙(伝説の王や道教の神)の代わりに仏像があしらわれているもの。
専門家の間ではよく知られていたそうですが、わたくし知りませんでした。
前回ご紹介したのは、宮内庁書陵部所蔵の《三角縁三仏三獣鏡》でした。
《三角縁三仏三獣鏡》奈良県 大塚陵墓参考地 出土 古墳時代 宮内庁書陵部所蔵。『書陵部所蔵資料目録・画像公開システム』より引用
このほかに、国内で三角縁仏獣鏡は今のところ4種ある(枚数は不明)のだそうですが、まだ見つかっていないものもあるかもしれませんね。
その中で、江戸時代から存在が知られていたのが、赤城塚古墳(群馬県板倉町)のもの。
戦後まで神社の秘宝として管理されていたというエピソードが、神仏習合・分離を追っている筆者としては惹かれます。
こちらに解説と写真が載っています。
https://www.town.itakura.gunma.jp/cont/s026000/d026010/259bunka_03.html
つぎに、こちらは寺戸大塚古墳(京都府向日市)で発掘されたもの。
仏像とみられる姿が三体。結跏趺坐して、胸が見えている表現が、ほかの神獣鏡に見られる神像表現と異なるものだそう。
膝からは火焔が噴き出す表現も見えます。
火焔は仏像の光背によく見られるもので、光を発する様子を表しているといわれます。この連載では以前ゾロアスター教との関連を含めてご紹介しました。
《三角縁櫛歯文帯三仏三獣鏡》寺戸大塚古墳 後円部竪穴式石槨出土
さらには神戸市の塩田北山東古墳で発掘された《三角縁三神一仏四獣鏡》。
四体あるうちの一体だけが結跏趺坐して頭部に髻、そして肩の上から火焔があり(火焔後背)、仏像とされます。
こちらで解説と鮮明な拡大画像が見られます。
【神戸市埋蔵文化財センター:収蔵資料紹介】
https://www.city.kobe.lg.jp/culture/culture/institution/center/relics/art/details/67.html
このほか、岡山県の宮天神山1号墳で発掘された鏡も三角縁仏獣鏡とされます。
以上が現在”仏”獣鏡として知られているものなのですが、福岡県の香椎宮所蔵の鏡(平成18年指定文化財)も気になりました。
これは三角縁”神”獣鏡と表記されていますが、その像容は先ほどの仏獣鏡と共通するらしいです。研究が進めばいつの日か仏獣鏡の仲間入りをするんでしょうか。それとも神社所蔵だからこのままなんですかね。
東京国立博物館では、特別展「はにわ」開催中(2024年10月16日〜12月8日)。謎多き古墳時代、埴輪のほかさまざまな埋納物が当時の歴史を物語る
一般的に、三角縁"神"獣鏡も、”仏”獣鏡も、古墳時代前期、3~4世紀という古い時代の古墳で見つかるもの。
論文(下記参照)を読むと、この鏡がたくさん造られるなかで、デザインのマイナーチェンジや試行錯誤があり、その過渡期に仏像もあしらわれたという話があります。
現状はまだ諸説ある段階なので断定はできませんが、なにしろこの時代の中国では、国内の道教や中国伝説の王などといったさまざまな神々の一種として、仏も捉えられていたのかなと私は推測しています。
この連載では、インドでの神々と仏、日本での神々と仏、という関係をよく書いていますけど、三角縁仏獣鏡も当時の神々と仏の関係が見えてくるようでおもしろいですね。
それでは聴いてください。
ラウドネス で「In The Mirror」。
(参考リンク)
三角縁三仏三獣鏡
書陵部所蔵資料目録・画像公開システム
https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Ryobo/Detail/7001000050000
参考論文
雨宮健祥「新例が示す三角縁仏獣鏡の新たな意義」東京大学リポジトリ
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/2007602/files/kouko3603.pdf
■あわせて読む(関連記事)
古墳時代の銅鏡に仏像「三角縁仏獣鏡」-前編
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20241105-2/
ガンダーラ仏 菩薩の見分け方を知る -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240521-2/
生き生きと古墳の時代が見えてくる―特別展「はにわ」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20241022-2/
夏休みは博物館で 考古展示室のかわいいハニワたち
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230725-2/
観音か、埴輪か…多摩川観音塚古墳のナゾ
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20201117-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ一門「小唄 in 神楽坂」
初めての人向けにわかりやすく、元芸者の舞踊も華やかに。
くつろぎ和のライブ。ネット配信でご覧いただけます。
https://www.sfm-shinjuku.jp/kouta2024/
リンクから「録画配信視聴」を開いてください
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。わたくしの一門演奏会「小唄 in 神楽坂」を無事終えた宮澤やすみです。21年目の今回も大盛況、誠にありがとうございました。見逃した方は録画配信が見られます(下記おしらせ参照)。
そんな中、前回ご紹介した「三角縁仏獣鏡」のつづきです。
「三角縁神獣鏡」ではなく、「ブツ」獣鏡なんです。三角縁仏獣鏡。
古墳や古代史界隈でよく知られた三角縁神獣鏡の一種で、中国の神仙(伝説の王や道教の神)の代わりに仏像があしらわれているもの。
専門家の間ではよく知られていたそうですが、わたくし知りませんでした。
前回ご紹介したのは、宮内庁書陵部所蔵の《三角縁三仏三獣鏡》でした。
《三角縁三仏三獣鏡》奈良県 大塚陵墓参考地 出土 古墳時代 宮内庁書陵部所蔵。『書陵部所蔵資料目録・画像公開システム』より引用
このほかに、国内で三角縁仏獣鏡は今のところ4種ある(枚数は不明)のだそうですが、まだ見つかっていないものもあるかもしれませんね。
その中で、江戸時代から存在が知られていたのが、赤城塚古墳(群馬県板倉町)のもの。
戦後まで神社の秘宝として管理されていたというエピソードが、神仏習合・分離を追っている筆者としては惹かれます。
こちらに解説と写真が載っています。
https://www.town.itakura.gunma.jp/cont/s026000/d026010/259bunka_03.html
つぎに、こちらは寺戸大塚古墳(京都府向日市)で発掘されたもの。
仏像とみられる姿が三体。結跏趺坐して、胸が見えている表現が、ほかの神獣鏡に見られる神像表現と異なるものだそう。
膝からは火焔が噴き出す表現も見えます。
火焔は仏像の光背によく見られるもので、光を発する様子を表しているといわれます。この連載では以前ゾロアスター教との関連を含めてご紹介しました。
《三角縁櫛歯文帯三仏三獣鏡》寺戸大塚古墳 後円部竪穴式石槨出土
さらには神戸市の塩田北山東古墳で発掘された《三角縁三神一仏四獣鏡》。
四体あるうちの一体だけが結跏趺坐して頭部に髻、そして肩の上から火焔があり(火焔後背)、仏像とされます。
こちらで解説と鮮明な拡大画像が見られます。
【神戸市埋蔵文化財センター:収蔵資料紹介】
https://www.city.kobe.lg.jp/culture/culture/institution/center/relics/art/details/67.html
このほか、岡山県の宮天神山1号墳で発掘された鏡も三角縁仏獣鏡とされます。
以上が現在”仏”獣鏡として知られているものなのですが、福岡県の香椎宮所蔵の鏡(平成18年指定文化財)も気になりました。
これは三角縁”神”獣鏡と表記されていますが、その像容は先ほどの仏獣鏡と共通するらしいです。研究が進めばいつの日か仏獣鏡の仲間入りをするんでしょうか。それとも神社所蔵だからこのままなんですかね。
東京国立博物館では、特別展「はにわ」開催中(2024年10月16日〜12月8日)。謎多き古墳時代、埴輪のほかさまざまな埋納物が当時の歴史を物語る
一般的に、三角縁"神"獣鏡も、”仏”獣鏡も、古墳時代前期、3~4世紀という古い時代の古墳で見つかるもの。
論文(下記参照)を読むと、この鏡がたくさん造られるなかで、デザインのマイナーチェンジや試行錯誤があり、その過渡期に仏像もあしらわれたという話があります。
現状はまだ諸説ある段階なので断定はできませんが、なにしろこの時代の中国では、国内の道教や中国伝説の王などといったさまざまな神々の一種として、仏も捉えられていたのかなと私は推測しています。
この連載では、インドでの神々と仏、日本での神々と仏、という関係をよく書いていますけど、三角縁仏獣鏡も当時の神々と仏の関係が見えてくるようでおもしろいですね。
それでは聴いてください。
ラウドネス で「In The Mirror」。
(参考リンク)
三角縁三仏三獣鏡
書陵部所蔵資料目録・画像公開システム
https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Ryobo/Detail/7001000050000
参考論文
雨宮健祥「新例が示す三角縁仏獣鏡の新たな意義」東京大学リポジトリ
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/2007602/files/kouko3603.pdf
■あわせて読む(関連記事)
古墳時代の銅鏡に仏像「三角縁仏獣鏡」-前編
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ガンダーラ仏 菩薩の見分け方を知る -平山郁夫シルクロード美術館-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240521-2/
生き生きと古墳の時代が見えてくる―特別展「はにわ」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20241022-2/
夏休みは博物館で 考古展示室のかわいいハニワたち
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230725-2/
観音か、埴輪か…多摩川観音塚古墳のナゾ
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20201117-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみ一門「小唄 in 神楽坂」
初めての人向けにわかりやすく、元芸者の舞踊も華やかに。
くつろぎ和のライブ。ネット配信でご覧いただけます。
https://www.sfm-shinjuku.jp/kouta2024/
リンクから「録画配信視聴」を開いてください
そのほか今後の出演情報まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m