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第414回 二十三夜の月待講 その2 -渋谷に残る勢至菩薩(写真あり)-
”東京の渋谷区は、村の境界に置かれた石仏が今も見られ--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。小唄のレコーディングを進めている宮澤やすみです。発表時期は未定ですが、いつか形にしたいと思います。
そんな中、昔の人は月を信仰の対象としてみていたもので、よく知られるのが庚申待ち(旧暦で庚申:こうしん の日の夜の月を拝む)行事。
それと似たもので「二十三夜待ち」もあって、月の満ち欠けでちょうど半円形になる二十三夜の晩に月の出を待つ行事です。
前回記事より、妙法寺の二十三夜堂
この二十三夜信仰の本尊として、前回は妙法寺の月天尊を紹介しました。
前回記事より、妙法寺の二十三夜尊大月天王の絵馬
ところが、江戸時代の二十三夜塔という石造物では、勢至菩薩がよく彫刻されているんですよね。
手前右から庚申塔、二十三夜塔、庚申塔、地蔵が彫られた道しるべ。渋谷区・猿楽古代住居跡公園にて
東京の渋谷区は、古い庚申塔や馬頭観音など、村の境界に置かれた石仏が今も見られます。
そのなかで、代官山のおしゃれエリアの中にも石仏が並んでいるんですよね。
そこには、地蔵、庚申塔にまじって、「廿三夜待」と彫られた石像がありました。そこに彫られている本尊は勢至菩薩です。
二十三夜塔。右側に「廿三夜待一結衆」左側に「延宝三年十一月廿三日」とある。合掌するポーズは勢至菩薩の特徴
二十三夜の月待信仰の本尊として、勢至菩薩もあてがわれることが多いようですね。
月天であれば、月つながりで納得しやすいのですが、なぜ勢至菩薩なんでしょうか。
はっきりとした理由はわかりませんが、おそらく勢至菩薩ならではの特徴からきているのではないでしょうか。
勢至菩薩は、阿弥陀信仰の世界で登場する尊格で、お寺ではよく本尊の阿弥陀如来の脇侍として、観音菩薩とともに三尊像を構成します。
阿弥陀如来を中心に、むかって右が観音菩薩、左が勢至菩薩ですね。
阿弥陀三尊像の例。勢至菩薩が一段低いところに立つ新潟・北方文化博物館にて
観音菩薩が慈悲の菩薩であるのに対して、勢至菩薩は智慧の菩薩とされます。
そして、智慧の光で人々を導くのだとか。
なにかと仏さまは光を出しがちとは、この記事で何度か書いてきましたが、勢至さんも光を出す。
阿弥陀さんも「無量光」といって絶大な光を発するとされますが、勢至さんの場合は月のような一点の光を灯して、正しい方へと導くのでしょうか。
そんな性格から、月の信仰と合わさったように思います(確証はありませんが)。
勢至菩薩のシンボル・水瓶が冠についている
そして、おそらくですが、密教系のお寺では空海請来の月天、浄土系のお寺では阿弥陀グループの一員である勢至菩薩が、しっくりきたのではないでしょうか。
それにしても勢至菩薩さま、相方の観音さんがあまりの人気ゆえ、阿弥陀三尊のうち「観音じゃないほう」という位置に甘んじてしまいがち。
そんなイメージから、拙著『仏像にインタビュー』では、「じゃないほう芸人」ならぬ「じゃないほう仏」として、居酒屋でひとりごちる姿を描きました。
宮澤やすみ流・勢至菩薩の妄想イラスト。『仏像にインタビュー』(宮澤やすみ文・絵 ディスカヴァー21)より
なぜ居酒屋かというと、勢至菩薩のシンボルが水瓶なので(冠に付くことが多い)。水瓶をお酒の徳利に見立てたわけです。
『仏像にインタビュー』2009年末出版の古い本ですが、わたくし宮澤やすみの代表名著(迷著)なので、よかったら読んでみてください。現在は電子版のみ販売中です。
それでは聴いてください。
宮澤やすみで「守ってあげたい(松任谷由実カバー)」。
(参考)
『仏像にインタビュー』
https://amzn.to/3Bt0BpB
■あわせて読む(関連記事)
二十三夜の月待講 その1 -江戸の名刹・妙法寺と月天-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20241203-2/
庚申信仰は江戸のハロウィン?
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20170311-2/
下北沢で見つけた”地蔵のような”ナゾの庚申塔
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230912-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ 冬講座(全3回)
早稲田大学エクステンションセンター中野校にて2025年2月から
【神と仏 1300年の愛憎関係】
-神仏習合から廃仏へ-
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/63518/
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。小唄のレコーディングを進めている宮澤やすみです。発表時期は未定ですが、いつか形にしたいと思います。
そんな中、昔の人は月を信仰の対象としてみていたもので、よく知られるのが庚申待ち(旧暦で庚申:こうしん の日の夜の月を拝む)行事。
それと似たもので「二十三夜待ち」もあって、月の満ち欠けでちょうど半円形になる二十三夜の晩に月の出を待つ行事です。
前回記事より、妙法寺の二十三夜堂
この二十三夜信仰の本尊として、前回は妙法寺の月天尊を紹介しました。
前回記事より、妙法寺の二十三夜尊大月天王の絵馬
ところが、江戸時代の二十三夜塔という石造物では、勢至菩薩がよく彫刻されているんですよね。
手前右から庚申塔、二十三夜塔、庚申塔、地蔵が彫られた道しるべ。渋谷区・猿楽古代住居跡公園にて
東京の渋谷区は、古い庚申塔や馬頭観音など、村の境界に置かれた石仏が今も見られます。
そのなかで、代官山のおしゃれエリアの中にも石仏が並んでいるんですよね。
そこには、地蔵、庚申塔にまじって、「廿三夜待」と彫られた石像がありました。そこに彫られている本尊は勢至菩薩です。
二十三夜塔。右側に「廿三夜待一結衆」左側に「延宝三年十一月廿三日」とある。合掌するポーズは勢至菩薩の特徴
二十三夜の月待信仰の本尊として、勢至菩薩もあてがわれることが多いようですね。
月天であれば、月つながりで納得しやすいのですが、なぜ勢至菩薩なんでしょうか。
はっきりとした理由はわかりませんが、おそらく勢至菩薩ならではの特徴からきているのではないでしょうか。
勢至菩薩は、阿弥陀信仰の世界で登場する尊格で、お寺ではよく本尊の阿弥陀如来の脇侍として、観音菩薩とともに三尊像を構成します。
阿弥陀如来を中心に、むかって右が観音菩薩、左が勢至菩薩ですね。
阿弥陀三尊像の例。勢至菩薩が一段低いところに立つ新潟・北方文化博物館にて
観音菩薩が慈悲の菩薩であるのに対して、勢至菩薩は智慧の菩薩とされます。
そして、智慧の光で人々を導くのだとか。
なにかと仏さまは光を出しがちとは、この記事で何度か書いてきましたが、勢至さんも光を出す。
阿弥陀さんも「無量光」といって絶大な光を発するとされますが、勢至さんの場合は月のような一点の光を灯して、正しい方へと導くのでしょうか。
そんな性格から、月の信仰と合わさったように思います(確証はありませんが)。
勢至菩薩のシンボル・水瓶が冠についている
そして、おそらくですが、密教系のお寺では空海請来の月天、浄土系のお寺では阿弥陀グループの一員である勢至菩薩が、しっくりきたのではないでしょうか。
それにしても勢至菩薩さま、相方の観音さんがあまりの人気ゆえ、阿弥陀三尊のうち「観音じゃないほう」という位置に甘んじてしまいがち。
そんなイメージから、拙著『仏像にインタビュー』では、「じゃないほう芸人」ならぬ「じゃないほう仏」として、居酒屋でひとりごちる姿を描きました。
宮澤やすみ流・勢至菩薩の妄想イラスト。『仏像にインタビュー』(宮澤やすみ文・絵 ディスカヴァー21)より
なぜ居酒屋かというと、勢至菩薩のシンボルが水瓶なので(冠に付くことが多い)。水瓶をお酒の徳利に見立てたわけです。
『仏像にインタビュー』2009年末出版の古い本ですが、わたくし宮澤やすみの代表名著(迷著)なので、よかったら読んでみてください。現在は電子版のみ販売中です。
それでは聴いてください。
宮澤やすみで「守ってあげたい(松任谷由実カバー)」。
(参考)
『仏像にインタビュー』
https://amzn.to/3Bt0BpB
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二十三夜の月待講 その1 -江戸の名刹・妙法寺と月天-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20241203-2/
庚申信仰は江戸のハロウィン?
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20170311-2/
下北沢で見つけた”地蔵のような”ナゾの庚申塔
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230912-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ 冬講座(全3回)
早稲田大学エクステンションセンター中野校にて2025年2月から
【神と仏 1300年の愛憎関係】
-神仏習合から廃仏へ-
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/63518/
2.
仏像や古代史を歌ったザ・ブッツの新作アルバム『時の水辺』。
ご購入いただけると活動存続の助けになります。応援よろしくお願いいたします。
プレーヤー不要。スマホですぐ聴けるQRコード付きブックレットです(CDも付いてます)。
詳細のご紹介は
↓↓↓
http://yasumimiyazawa.com/buttz/tokinomizube.html
雅楽の笙や篳篥も入った独特のサウンドで、「聴いたことないけど、どこか懐かしい」大人むけのロックです
収録曲:
1.Fantastic Dystopia
2.一木造
3.Shami on The Water
4.川のほとりで
5.Benzai-Tennyo
6.Black Etenraku
7.北斗星
8.いけるとこまで
ほか、付録CDにボーナストラック
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com