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第419回 教授が悟りを開くまで「坂本龍一│音を視る、時を聴く」
”自然の風や湖の波のような音--禅でいう「無為自然」の境地を感じ--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ソロアルバムのレコーディング、音作りをだいたい終え、あとはリリース申請までこぎつけた宮澤やすみです。
そんな中、昨年末はいくつか美術展の取材をしてきました。
なかでも注目したのは、「坂本龍一│音を視る、時を聴く」というもの。東京都現代美術館で開幕中です。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものです(一部一般撮影可)。
--「生前坂本が東京都現代美術館のために遺した展覧会構想を軸に、未発表の新作とこれまでの代表作から成る没入型・体感型サウンド・インスタレーション作品--(公式HPより)
というもので、各展示室ごとに国内外さまざまなアーティストが、坂本の音をもとにしてインスタレーション作品を展示しています。

展示室エントランスにあるメインヴィジュアル
といっても、坂本龍一の紡ぎだす音は、きれいなメロディと和音が鳴るような従来の音楽ではなく、自然の風や湖の波のような、とてもアンビエントな音。
坂本のアルバム「async」という晩年の実験的作品がベースになっているものがいくつもありました。
そこに各アーティストの映像やオブジェが組み合わさり、鑑賞者は目と耳で特別な体験をすることになります。
これはもう、写真や動画では伝えきれないので、ぜひ会場で体験してほしいです。

坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》2024
ご存知のとおり、坂本龍一氏はYMOで人気爆発。その後もテクノミュージック界隈を中心に、その時代に最新のメディアを駆使して、先鋭的な音楽を提供してくれました。
そんな坂本氏が、21世紀にたどり着いた境地は、
--21世紀に入り、坂本は「自然には叶わない」とつぶやくことになる--展示パネルより
9.11テロを間近に見た坂本氏。それまでの先鋭的なパフォーマンスから、禅の境地のような音作りをしていきます。
今回流れていた音楽のなかでも、屋外でのインスタレーション作品(撮影不可でした)は、霧と光と音が入り混じる興味深いものなのですが、その音楽は、その時々の太陽光の反射を受けて、それに連携して音が鳴る仕組みになっていて、つまり坂本自身の音符は一切なく、自然の働きにゆだねるものになっています。

吊るされた水槽に霧が立ち込め、その中に音と映像がランダムにうごめく。その組み合わせは常に変化し一期一会の体験をする。坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》2007
従来の作曲の概念を超えた音楽制作で、こうなると「作曲」という行為はなんなのかという、哲学的な話になってしまいます。
ともかく、一個人の思惑を飛び越えて、作為の無いものを提供する姿勢に、禅でいう「無為自然」の境地を感じました。
坂本先生、悟りを開いていたんでしょうか。

坂本氏が遺したメモも展示。彼が80年代に考えていたことの断片が共有できる。詳細は会場で
茶碗など茶道具の世界も、人の手で造るものでありながら、作為の無い自然なつくり(に見えるもの)が一番とされます。
仏像はどうでしょうか。
仏像の造り手である仏師の、思惑だとか個性がノイズにならない、祈りのかたちが純粋に現れた仏像のほうが心を打つのかもしれません。
さて今回の展示では、坂本氏が1996-97年に、当時黎明期のインターネットを使用して、生演奏を全世界同時した時のデータが奇跡的に発見されたそうで、それを元にした特別展示もありました。
そのピアノのタッチは坂本さんそのもの。本人が生きて目の前で演奏しているようでした。

1996-96年のパフォーマンスの映像とその時のライブ演奏がMIDIデータで残っていた。それを元に制作された特別展示。目の前で坂本氏が生きて演奏しているよう。坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》1996–1997/2024(初公開)
演奏はMIDIという規格のデータで保存できる。だから本人がいなくても再現ができる。新しいメディアを積極的に取り入れた坂本氏だからこそ、こういう展示もできるというもの。
無為自然の境地は、テクノロジーの行き着く先。
世紀をまたぐ”修行”ののちに達した、坂本龍一氏の前人未踏のアートに触れることができました。
それでは聴いてください。
坂本龍一で「async」。
坂本龍一 | 音を視る 時を聴く
2024年12月21日(土)- 2025年3月30日(日)
東京都現代美術館
詳細:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/RS/
■あわせて読む(関連記事)
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
早稲田大学オープンカレッジ 冬講座(全3回)
早稲田大学エクステンションセンター中野校にて2025年2月から
【神と仏 1300年の愛憎関係】
-神仏習合から廃仏へ-
https://www.wuext.waseda.jp/course/detail/63518/
2.
東京長浜観音堂フィナーレイベント
「びわ湖・長浜の観音文化~これからもまもりつづけるために~」
令和7年2月22日(土)13時00分~16時00分(開場12時30分)
東京国立博物館 平成館大講堂(東京都台東区上野公園13-9)
前半は山本勉先生の講演、後半は宮澤やすみ含む仏像仲間で座談会
入場無料、事前申込制
詳細、申込は↓
https://www.city.nagahama.lg.jp/0000015119.html
Facebook:
https://www.facebook.com/photo/?fbid=1017417643754835&set=a.477011294462142
X(旧Twitter):
https://x.com/nagahama_kannon/status/1870662612054417508
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ソロアルバムのレコーディング、音作りをだいたい終え、あとはリリース申請までこぎつけた宮澤やすみです。
そんな中、昨年末はいくつか美術展の取材をしてきました。
なかでも注目したのは、「坂本龍一│音を視る、時を聴く」というもの。東京都現代美術館で開幕中です。
写真は報道内覧会で特別に許可を得て撮影したものです(一部一般撮影可)。
--「生前坂本が東京都現代美術館のために遺した展覧会構想を軸に、未発表の新作とこれまでの代表作から成る没入型・体感型サウンド・インスタレーション作品--(公式HPより)
というもので、各展示室ごとに国内外さまざまなアーティストが、坂本の音をもとにしてインスタレーション作品を展示しています。

展示室エントランスにあるメインヴィジュアル
といっても、坂本龍一の紡ぎだす音は、きれいなメロディと和音が鳴るような従来の音楽ではなく、自然の風や湖の波のような、とてもアンビエントな音。
坂本のアルバム「async」という晩年の実験的作品がベースになっているものがいくつもありました。
そこに各アーティストの映像やオブジェが組み合わさり、鑑賞者は目と耳で特別な体験をすることになります。
これはもう、写真や動画では伝えきれないので、ぜひ会場で体験してほしいです。

坂本龍一+高谷史郎《async–immersion tokyo》2024
ご存知のとおり、坂本龍一氏はYMOで人気爆発。その後もテクノミュージック界隈を中心に、その時代に最新のメディアを駆使して、先鋭的な音楽を提供してくれました。
そんな坂本氏が、21世紀にたどり着いた境地は、
--21世紀に入り、坂本は「自然には叶わない」とつぶやくことになる--展示パネルより
9.11テロを間近に見た坂本氏。それまでの先鋭的なパフォーマンスから、禅の境地のような音作りをしていきます。
今回流れていた音楽のなかでも、屋外でのインスタレーション作品(撮影不可でした)は、霧と光と音が入り混じる興味深いものなのですが、その音楽は、その時々の太陽光の反射を受けて、それに連携して音が鳴る仕組みになっていて、つまり坂本自身の音符は一切なく、自然の働きにゆだねるものになっています。

吊るされた水槽に霧が立ち込め、その中に音と映像がランダムにうごめく。その組み合わせは常に変化し一期一会の体験をする。坂本龍一+高谷史郎《LIFE–fluid, invisible, inaudible…》2007
従来の作曲の概念を超えた音楽制作で、こうなると「作曲」という行為はなんなのかという、哲学的な話になってしまいます。
ともかく、一個人の思惑を飛び越えて、作為の無いものを提供する姿勢に、禅でいう「無為自然」の境地を感じました。
坂本先生、悟りを開いていたんでしょうか。

坂本氏が遺したメモも展示。彼が80年代に考えていたことの断片が共有できる。詳細は会場で
茶碗など茶道具の世界も、人の手で造るものでありながら、作為の無い自然なつくり(に見えるもの)が一番とされます。
仏像はどうでしょうか。
仏像の造り手である仏師の、思惑だとか個性がノイズにならない、祈りのかたちが純粋に現れた仏像のほうが心を打つのかもしれません。
さて今回の展示では、坂本氏が1996-97年に、当時黎明期のインターネットを使用して、生演奏を全世界同時した時のデータが奇跡的に発見されたそうで、それを元にした特別展示もありました。
そのピアノのタッチは坂本さんそのもの。本人が生きて目の前で演奏しているようでした。

1996-96年のパフォーマンスの映像とその時のライブ演奏がMIDIデータで残っていた。それを元に制作された特別展示。目の前で坂本氏が生きて演奏しているよう。坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》1996–1997/2024(初公開)
演奏はMIDIという規格のデータで保存できる。だから本人がいなくても再現ができる。新しいメディアを積極的に取り入れた坂本氏だからこそ、こういう展示もできるというもの。
無為自然の境地は、テクノロジーの行き着く先。
世紀をまたぐ”修行”ののちに達した、坂本龍一氏の前人未踏のアートに触れることができました。
それでは聴いてください。
坂本龍一で「async」。
坂本龍一 | 音を視る 時を聴く
2024年12月21日(土)- 2025年3月30日(日)
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詳細:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/RS/
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「びわ湖・長浜の観音文化~これからもまもりつづけるために~」
令和7年2月22日(土)13時00分~16時00分(開場12時30分)
東京国立博物館 平成館大講堂(東京都台東区上野公園13-9)
前半は山本勉先生の講演、後半は宮澤やすみ含む仏像仲間で座談会
入場無料、事前申込制
詳細、申込は↓
https://www.city.nagahama.lg.jp/0000015119.html
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宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
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宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com