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第426回 古代寺院「多磨寺」と武蔵国の仏教文化をたどる「たまの寺とみほとけ」展
”そもそも府中は武蔵国の国衙があったところで知られますが、多磨寺はそれよりも古い--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。春以降続々と三味線での出演オファーをいただいている宮澤やすみです。ありがたいことですが突然どうしたんでしょうか。
そんな中、先日は東京・府中市郷土の森博物館に行ってきました。梅園がきれいでした。
そこでやっていたのが「たまの寺とみほとけ」展。

武蔵国分寺の僧寺と尼寺の間で発掘された白鳳時代の観音像(複製)

府中市郷土の森は梅が自慢。紅白きれいに咲いていました
また仏友の芸人みほとけ さんが、梅まつりで何かやるのかと一瞬思いましたが、そんなことはない。
多摩の古代-中世の仏教文化の広がりを感じる良展示でした。
ここで最大の注目は、関東最古の寺院「多磨寺」の遺構。
奈良の平城京ができるより前、7世紀末に遡る(仏像ファン向けには白鳳時代といえばなじみ深いでしょうか)、古い寺院です。
この地域に武蔵国分寺や深大寺(いずれも奈良時代)よりも古い寺があったとは、歴史ロマンにワクワクします。もしかしたら浅草寺より古いかもしれない。

丸みのある花弁と周縁の珠文。新羅の系統をひくという古代のデザインが美しい。多磨寺の軒丸瓦。7世紀末~8世紀初頭 府中市宮町 府中市郷土の森博物館
これまでの発掘作業で、「多寺」という刻印がある瓦や、「磨寺」とある瓦も見つかり、多磨寺の存在がはっきりしてきました。
そもそも東京都の府中は武蔵国の中心であり、国衙(こくが:国の政庁街)があったところで知られますが、多磨寺はそれよりも古い。
その位置関係は、現在の府中駅の南側一帯に集中します。
多磨寺の西隣に国衙が建設され、さらに東隣には武蔵国の神々を集めた六所宮(現在の大國魂神社)がありました。

常設展示室の巨大ジオラマがわかりやすい。中央の四角が国衙、その右が多磨寺。左の四角は大國魂神社の原形・六所宮
時は飛鳥時代後期、壬申の乱で勝利し即位した天武天皇が、全国に仏教を広めようとしました。その時代に、武蔵国の多磨郡の長(郡司)の私的な寺院として建てられたようです。
ただ、展示の解説ブックレットによると、国衙が完成するまでは「それ以前の公的仏事は多磨寺で行われていた可能性があります」とのこと。

多磨寺の瓦デザインは、国衙の瓦葺きに合わせて変化する。こちらはその時期(多磨寺整備期)の軒丸瓦。8世紀半ば以降 府中市郷土の森博物館
この数十年後に近隣の名刹・深大寺ができ(733年または762年)、すぐあとに聖武天皇が「国分寺建立の詔」を出して(742年)、武蔵国分寺が建立されます(757年)。

武蔵国分寺(僧寺)の鬼瓦 武蔵国分寺跡出土 国分寺市教育委員会・日本考古学協会
そういう順番で、多摩地域は仏教都市として発展。その後も各所にお堂が出来て仏教信仰が根付きました。
という、古代から中世の多摩地域信仰の流れがよくわかりました。
さらに、府中・多摩地域は古墳もたくさん。有名な古墳、武蔵府中熊野神社古墳(めずらしい上円下方墳)は飛鳥時代の築造で、上円部が八角形をしているのは仏教の影響と思われ、古墳文化から仏教文化へゆるやかに移行する例として非常に興味深いものです。
多摩の古代史、自分ももっと勉強したいと思いました。

武蔵国分寺創建時の軒丸瓦。多磨寺創建時のエッジの立った造りと比べて少しぼんやりした出来。武蔵国分寺跡出土 国分寺市教育委員会・日本考古学協会
また、こうした地方系の博物館は各地で郷土に根ざした考古、歴史展示をなさっていてとても興味深いものです。もし事前に情報をいただけたらここでご紹介させていただきます。ご連絡お待ちしてます。

残念ながらすでに閉幕。もし開幕前に情報いただけたら取材にいきますので、よろしくお願いいたします
それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「Soul Kannon」。
府中市郷土の森博物館
https://www.fuchu-cpf.or.jp/museum/
■あわせて読む(関連記事)
仏像に宿る坂東武者の気概-八王子の横山党
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20210323-2/
地形の記憶。古代人の気分になる風景「時の水辺」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20221108-2/
教会の聖母子像に白鳳の仏像を見たーイタリア守護聖人の旅その2
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20191023-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
【古民家カフェで、飲食付き三味線ライブ】
吉原遊郭を歌う、大河ドラマ「べらぼう」の世界
粋な江戸三味線「小唄」をゆるりと楽しんで
2025年4月12日(土)そよや江戸端 にて
詳細は↓
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集リリース
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyoru.html
※Youtube、Spotifyなどで誰でも聴けます
3.
無声映画鑑賞会800回記念特別公演
「百花繚乱 大活動写真大会」
宮澤やすみは三味線演奏で出演。
詳細:(映画ナタリー)
https://natalie.mu/eiga/news/608183
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。春以降続々と三味線での出演オファーをいただいている宮澤やすみです。ありがたいことですが突然どうしたんでしょうか。
そんな中、先日は東京・府中市郷土の森博物館に行ってきました。梅園がきれいでした。
そこでやっていたのが「たまの寺とみほとけ」展。

武蔵国分寺の僧寺と尼寺の間で発掘された白鳳時代の観音像(複製)

府中市郷土の森は梅が自慢。紅白きれいに咲いていました
また仏友の芸人みほとけ さんが、梅まつりで何かやるのかと一瞬思いましたが、そんなことはない。
多摩の古代-中世の仏教文化の広がりを感じる良展示でした。
ここで最大の注目は、関東最古の寺院「多磨寺」の遺構。
奈良の平城京ができるより前、7世紀末に遡る(仏像ファン向けには白鳳時代といえばなじみ深いでしょうか)、古い寺院です。
この地域に武蔵国分寺や深大寺(いずれも奈良時代)よりも古い寺があったとは、歴史ロマンにワクワクします。もしかしたら浅草寺より古いかもしれない。

丸みのある花弁と周縁の珠文。新羅の系統をひくという古代のデザインが美しい。多磨寺の軒丸瓦。7世紀末~8世紀初頭 府中市宮町 府中市郷土の森博物館
これまでの発掘作業で、「多寺」という刻印がある瓦や、「磨寺」とある瓦も見つかり、多磨寺の存在がはっきりしてきました。
そもそも東京都の府中は武蔵国の中心であり、国衙(こくが:国の政庁街)があったところで知られますが、多磨寺はそれよりも古い。
その位置関係は、現在の府中駅の南側一帯に集中します。
多磨寺の西隣に国衙が建設され、さらに東隣には武蔵国の神々を集めた六所宮(現在の大國魂神社)がありました。

常設展示室の巨大ジオラマがわかりやすい。中央の四角が国衙、その右が多磨寺。左の四角は大國魂神社の原形・六所宮
時は飛鳥時代後期、壬申の乱で勝利し即位した天武天皇が、全国に仏教を広めようとしました。その時代に、武蔵国の多磨郡の長(郡司)の私的な寺院として建てられたようです。
ただ、展示の解説ブックレットによると、国衙が完成するまでは「それ以前の公的仏事は多磨寺で行われていた可能性があります」とのこと。

多磨寺の瓦デザインは、国衙の瓦葺きに合わせて変化する。こちらはその時期(多磨寺整備期)の軒丸瓦。8世紀半ば以降 府中市郷土の森博物館
この数十年後に近隣の名刹・深大寺ができ(733年または762年)、すぐあとに聖武天皇が「国分寺建立の詔」を出して(742年)、武蔵国分寺が建立されます(757年)。

武蔵国分寺(僧寺)の鬼瓦 武蔵国分寺跡出土 国分寺市教育委員会・日本考古学協会
そういう順番で、多摩地域は仏教都市として発展。その後も各所にお堂が出来て仏教信仰が根付きました。
という、古代から中世の多摩地域信仰の流れがよくわかりました。
さらに、府中・多摩地域は古墳もたくさん。有名な古墳、武蔵府中熊野神社古墳(めずらしい上円下方墳)は飛鳥時代の築造で、上円部が八角形をしているのは仏教の影響と思われ、古墳文化から仏教文化へゆるやかに移行する例として非常に興味深いものです。
多摩の古代史、自分ももっと勉強したいと思いました。

武蔵国分寺創建時の軒丸瓦。多磨寺創建時のエッジの立った造りと比べて少しぼんやりした出来。武蔵国分寺跡出土 国分寺市教育委員会・日本考古学協会
また、こうした地方系の博物館は各地で郷土に根ざした考古、歴史展示をなさっていてとても興味深いものです。もし事前に情報をいただけたらここでご紹介させていただきます。ご連絡お待ちしてます。

残念ながらすでに閉幕。もし開幕前に情報いただけたら取材にいきますので、よろしくお願いいたします
それでは聴いてください。
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府中市郷土の森博物館
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※Youtube、Spotifyなどで誰でも聴けます
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「百花繚乱 大活動写真大会」
宮澤やすみは三味線演奏で出演。
詳細:(映画ナタリー)
https://natalie.mu/eiga/news/608183
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com