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第427回 好きに「みる」絵画の楽しみ-「西洋絵画、どこから見るか?」
”この自信たっぷりのドヤ顔。目いっぱい着飾って「盛った」姿--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。活弁(活動写真)の大きな公演を前にして緊張してきた宮澤やすみです。昼は時代劇、夜はシュル・レアリスムの名作「アンダルシアの犬」を三味線で生伴奏します。シュル三味線です。
そんな中、先日は東京・国立西洋美術館で開幕した「西洋絵画、どこから見るか?」展を取材してきました。
通称「どこみる展」。
写真は、プレス内覧会で特別に許可を得て撮影したものです。

キリスト教の礼拝で用いられた彫像も、仏像と趣は異なるが目的は同じ
展示は、15世紀ルネサンスから時代を追って近代までたどる流れ。
しかし、小難しいことは抜きにして、徹底的に初心者さんを対象としているのが伝わります。

グッズ売り場にはカワイイ子羊さん。キリスト受難を象徴する《神の仔羊》がぬいぐるみに。頭には聖なる光輪が
展覧会アンバサダーのディーン・フジオカさんも、展示のヤマ場である修道僧の大きな肖像画を前にして、
「手でハートマークのポーズをしてるのがイイですね」
とライトな感想をおっしゃって、鑑賞のハードルをぐっと下げることに貢献していました。

等身大の大きな肖像画の展示空間。どう見るかはあなた次第
担当学芸員で絵画彫刻室長の川瀬佑介さんのお話では、静物画を前にしてなかなか深い話をいただきました。
しかし、ホント小難しい話はあとでいいので、まず入り口としては、第一印象でのとっかかりが大事という話になりました。
「この人素敵だな、カッコイイな。なんか変な顔してんな」
といった、素朴な感想から興味をもってもらう、そのきっかけが本展で掴めるかもしれません。
今回の展示は、「どこをどう見る」がテーマなので、各作品に「みる」ポイントが簡潔に示されています。「観賞」じゃなくて「みる」。まずはそこから。かるーい気持ちでどうぞ。
公式サイトにはさまざまな人の「私はここ見る」が語られているので、自分とくらべてみるのも楽しいです。

女性の肖像がならぶ一室。画面奥の左がマリー=ガブリエル・カペ《自画像》
そんな中で、やはり目を引くのは女性の肖像ですね。
ポスターなどメインヴィジュアルになっている、マリー=ガブリエル・カペ《自画像》ですが、このひと貴族でもなんでもなく、当時まだ無名の画家なんです。18世紀末、女性画家が認められるのは大変だったと思いますが、この自信たっぷりのドヤ顔。目いっぱい着飾って「盛った」姿。
今だったらインスタで見かける美女のスナップのようです。いいねがたくさん付きそうです。

展示風景より、マリー=ガブリエル・カペ《自画像》1783年頃 油彩/カンヴァス 国立西洋美術館
余談ですが、このマリー=ガブリエルの丸顔美人のお顔、最初にNHKの番組で僕を起用してくれたディレクターのT澤C子さんにそっくりで、久しぶりにC子さんに会ったような気分。いろんなロケを一緒にがんばりました。
さて、そのいっぽうで、好きな人は好きなマニア向け作品もしれっとあるのがいいです。
ヒエロニムス・ボス工房作《キリストの捕縛》は、ボスらしい妙な表情の男たちが邪悪さと不気味さを醸し出していました。
仏像ファンなら宗教と美術のかかわりも気になるところですが、ルネサンス期の祭壇画、受難のエピソードを描いた古い作品は、やはりワクワクしてしまいます。

展示冒頭、宗教美術好きにはたまらない教会の祭壇画も間近で。ヨース・ファン・クレーフェ《三連祭壇画:キリスト磔刑》1525年頃 油彩・板 国立西洋美術館
今回は静物画もメインヴィジュアルのひとつになっていますが、これも見どころが多い。
なぜ静物画を描くようになったのか? そこには宗教からの脱却が見えます。
中世はキリスト教関連の絵さえ描いていればよかったのが、ルネサンスを経て、宗教に関わらない人々のくらしや風景を題材に描いてもいいのだ、という風潮ができます。そこで生まれたのが風景画と静物画。
自分の目の前にあるモノの存在を追求して描き切る、画面にどうおさめるか、その構成にセンスが問われる。
キャベツをなぜ宙ぶらりんにしたのか? 謎を謎のままですが、実物の作品を前にすると、窓辺のメロンよりキャベツが前方にあるように見え、平面絵画なのに立体感を感じます。これは画像だとわからないんじゃないでしょうか。

展示風景より、フアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》1602頃、サンディエゴ美術館
歴史好きな人は、ヨーロッパの貴族社会の成熟と崩壊を辿るよい機会でもあります。

展示後半より、ヴェネツィアの風景画は先日取材したカナレットが有名。これはその甥にあたるベルナルド・ベロット作とされる。今も昔もヴェネツィアは絵になる街
教科書での美術の授業が苦手だった人こそ、自分なりに楽しめる展示なのではないでしょうか。

常設展もおすすめ。私の個人的お気に入り、カルロ・ドルチ《悲しみの聖母》1655年頃 油彩/カンヴァス 国立西洋美術館
それでは聴いてください。
インペリテリで「17TH CENTURY CHICKEN PICKIN'」。
西洋絵画、どこから見るか?
-ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 VS 国立西洋美術館
(東京展)
2025年3月11日(火)―2025年6月8日(日)
国立西洋美術館
(京都展)
どこ見る?どう見る?西洋絵画!
2025年6月25日(水)—2025年10月13日(月・祝)
京都市京セラ美術館 本館北回廊1F
詳細
https://art.nikkei.com/dokomiru/
■あわせて読む(関連記事)
”カメラ”では描けない旅の魅力ー「カナレットとヴェネツィアの輝き」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20241015-2/
仏像ファンの目線で見る「メトロポリタン美術館展」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220222-2/
「印象派-光の系譜」展へ-浮き出る立体感。モネの超絶画力に酔いしれる
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20211109-2/
「甘美なるフランス」の時代、祖父はパリにいた①
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20210921-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
【古民家カフェで、飲食付き三味線ライブ】
吉原遊郭を歌う、大河ドラマ「べらぼう」の世界
粋な江戸三味線「小唄」をゆるりと楽しんで
2025年4月12日(土)そよや江戸端 にて
詳細は↓
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集リリース
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyoru.html
※Youtube、Spotifyなどで誰でも聴けます
3.
無声映画鑑賞会800回記念特別公演
「百花繚乱 大活動写真大会」
宮澤やすみは三味線演奏で出演。
詳細:(映画ナタリー)
https://natalie.mu/eiga/news/608183
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。活弁(活動写真)の大きな公演を前にして緊張してきた宮澤やすみです。昼は時代劇、夜はシュル・レアリスムの名作「アンダルシアの犬」を三味線で生伴奏します。シュル三味線です。
そんな中、先日は東京・国立西洋美術館で開幕した「西洋絵画、どこから見るか?」展を取材してきました。
通称「どこみる展」。
写真は、プレス内覧会で特別に許可を得て撮影したものです。

キリスト教の礼拝で用いられた彫像も、仏像と趣は異なるが目的は同じ
展示は、15世紀ルネサンスから時代を追って近代までたどる流れ。
しかし、小難しいことは抜きにして、徹底的に初心者さんを対象としているのが伝わります。

グッズ売り場にはカワイイ子羊さん。キリスト受難を象徴する《神の仔羊》がぬいぐるみに。頭には聖なる光輪が
展覧会アンバサダーのディーン・フジオカさんも、展示のヤマ場である修道僧の大きな肖像画を前にして、
「手でハートマークのポーズをしてるのがイイですね」
とライトな感想をおっしゃって、鑑賞のハードルをぐっと下げることに貢献していました。

等身大の大きな肖像画の展示空間。どう見るかはあなた次第
担当学芸員で絵画彫刻室長の川瀬佑介さんのお話では、静物画を前にしてなかなか深い話をいただきました。
しかし、ホント小難しい話はあとでいいので、まず入り口としては、第一印象でのとっかかりが大事という話になりました。
「この人素敵だな、カッコイイな。なんか変な顔してんな」
といった、素朴な感想から興味をもってもらう、そのきっかけが本展で掴めるかもしれません。
今回の展示は、「どこをどう見る」がテーマなので、各作品に「みる」ポイントが簡潔に示されています。「観賞」じゃなくて「みる」。まずはそこから。かるーい気持ちでどうぞ。
公式サイトにはさまざまな人の「私はここ見る」が語られているので、自分とくらべてみるのも楽しいです。

女性の肖像がならぶ一室。画面奥の左がマリー=ガブリエル・カペ《自画像》
そんな中で、やはり目を引くのは女性の肖像ですね。
ポスターなどメインヴィジュアルになっている、マリー=ガブリエル・カペ《自画像》ですが、このひと貴族でもなんでもなく、当時まだ無名の画家なんです。18世紀末、女性画家が認められるのは大変だったと思いますが、この自信たっぷりのドヤ顔。目いっぱい着飾って「盛った」姿。
今だったらインスタで見かける美女のスナップのようです。いいねがたくさん付きそうです。

展示風景より、マリー=ガブリエル・カペ《自画像》1783年頃 油彩/カンヴァス 国立西洋美術館
余談ですが、このマリー=ガブリエルの丸顔美人のお顔、最初にNHKの番組で僕を起用してくれたディレクターのT澤C子さんにそっくりで、久しぶりにC子さんに会ったような気分。いろんなロケを一緒にがんばりました。
さて、そのいっぽうで、好きな人は好きなマニア向け作品もしれっとあるのがいいです。
ヒエロニムス・ボス工房作《キリストの捕縛》は、ボスらしい妙な表情の男たちが邪悪さと不気味さを醸し出していました。
仏像ファンなら宗教と美術のかかわりも気になるところですが、ルネサンス期の祭壇画、受難のエピソードを描いた古い作品は、やはりワクワクしてしまいます。

展示冒頭、宗教美術好きにはたまらない教会の祭壇画も間近で。ヨース・ファン・クレーフェ《三連祭壇画:キリスト磔刑》1525年頃 油彩・板 国立西洋美術館
今回は静物画もメインヴィジュアルのひとつになっていますが、これも見どころが多い。
なぜ静物画を描くようになったのか? そこには宗教からの脱却が見えます。
中世はキリスト教関連の絵さえ描いていればよかったのが、ルネサンスを経て、宗教に関わらない人々のくらしや風景を題材に描いてもいいのだ、という風潮ができます。そこで生まれたのが風景画と静物画。
自分の目の前にあるモノの存在を追求して描き切る、画面にどうおさめるか、その構成にセンスが問われる。
キャベツをなぜ宙ぶらりんにしたのか? 謎を謎のままですが、実物の作品を前にすると、窓辺のメロンよりキャベツが前方にあるように見え、平面絵画なのに立体感を感じます。これは画像だとわからないんじゃないでしょうか。

展示風景より、フアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》1602頃、サンディエゴ美術館
歴史好きな人は、ヨーロッパの貴族社会の成熟と崩壊を辿るよい機会でもあります。

展示後半より、ヴェネツィアの風景画は先日取材したカナレットが有名。これはその甥にあたるベルナルド・ベロット作とされる。今も昔もヴェネツィアは絵になる街
教科書での美術の授業が苦手だった人こそ、自分なりに楽しめる展示なのではないでしょうか。

常設展もおすすめ。私の個人的お気に入り、カルロ・ドルチ《悲しみの聖母》1655年頃 油彩/カンヴァス 国立西洋美術館
それでは聴いてください。
インペリテリで「17TH CENTURY CHICKEN PICKIN'」。
西洋絵画、どこから見るか?
-ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 VS 国立西洋美術館
(東京展)
2025年3月11日(火)―2025年6月8日(日)
国立西洋美術館
(京都展)
どこ見る?どう見る?西洋絵画!
2025年6月25日(水)—2025年10月13日(月・祝)
京都市京セラ美術館 本館北回廊1F
詳細
https://art.nikkei.com/dokomiru/
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”カメラ”では描けない旅の魅力ー「カナレットとヴェネツィアの輝き」展
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--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
【古民家カフェで、飲食付き三味線ライブ】
吉原遊郭を歌う、大河ドラマ「べらぼう」の世界
粋な江戸三味線「小唄」をゆるりと楽しんで
2025年4月12日(土)そよや江戸端 にて
詳細は↓
https://yasumimiyazawa.com/live.html
2.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集リリース
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyoru.html
※Youtube、Spotifyなどで誰でも聴けます
3.
無声映画鑑賞会800回記念特別公演
「百花繚乱 大活動写真大会」
宮澤やすみは三味線演奏で出演。
詳細:(映画ナタリー)
https://natalie.mu/eiga/news/608183
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com