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第430回 自然の生命力を生かす造形「タピオ・ヴィルカラ 世界の果て」

”タピオの渦巻は、無為自然の禅の境地とでもいえそうな軽やかさを感じ--”

音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。先日の活動写真大会以降、活弁楽士(音楽担当)としての出演依頼をいくつもいただいている宮澤やすみです。仕事が少し認めていただけてありがたく、これからも気を緩めずにまいります。

そんな中、東京ステーションギャラリーで開幕した「タピオ・ヴィルカラ 世界の果て」のプレス内覧会に行ってきました。


東京駅駅舎(重要文化財)内にギャラリーがある

その名前を知らなくても、もしかしたら彼の作品を手にしているかもしれません。
フィンランドを代表する巨匠デザイナーであり彫刻家でもあるタピオ・ヴィルカラは、フィンランドの企業「イッタラ」の食器などのデザインを手がけてキャリアを深めていきました。


展示風景。これまでに手がけたデザイン作品が並ぶ

フィンランドでは、紙袋や切手など、くらしに欠かせない日用品にタピオ・ヴィルカラのデザインが関わっているそうです。
本人のポートレート写真がまたインパクトあります。往年の勝新太郎みたいです笑。
 

タピオ・ヴィルカラ、1980年代 © Maaria Wirkkala. Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780


この連載の前回で、仏像はたんなる美術品でなく「用途」があったという話をしました。

タピオ・ヴィルカラの製品も、花瓶や酒器といった用途がまずあって、それを技術の粋を集めてできる限り美しいかたちで実現しています。
くらしの役に立つ美、という点において、仏像ファンの琴線にも触れるものがあるんじゃないでしょうか。


展示風景より。花瓶として造られた《カンタレッリ/アンズタケ》1946年 クリスタル コレクション・カッコネン蔵

思えば、役に立つかどうかを排した「純粋芸術」を追求したのは二十世紀前半のモダンアートと言われる時代くらいであって、あの時代が特殊だったんでしょうかね。芸術家にとってはうらやましい時代です。
モダンアート時代以前と以後においては、用途に即した「デザイン」とゲージュツつまり「アート」がより密接な関連をもっているように思います。

それはともかく、デザインの完成に至るまでの試行錯誤のひみつが、本展の前半のテーマかと思いました。デザインの着想はフィンランドの水や樹木や鳥などの自然から得ています。それを実現するための素材との対話も重要です。


展示風景より。木の切り株のフォルムから生まれた作品《カルヴォラカント/カルヴォラの切り株》1948年 クリスタル コレクション・カッコネン蔵


展示風景より。《スオクルッパ》1975年 木

現代美術では、私のような凡人ではキャプションを読まないと理解できないような、難解なものもあります。そういうのも楽しいのですが。

今回のタピオ・ヴィルカラの展示をみると、説明を抜きにして、作品そのものが美を訴えかけ、その背後にある水流や大木の生命力を、ごく自然に感じ取ることができます。
なにか、哲学的な小難しいことを考えずとも、すっと心に入ってくる感じがいいですね。
私は、これまでタピオ作品のことは知らずにいて、取材に行ってだいじょうぶかなと思いましたが、心配無用でした。

こうして、デザイナーとしてのタピオ作品を見た後に、第二展示室に現れるのは、合板から削りだした彫刻の数々。
この《渦巻》は風のイメージでしょうか。つるんと磨き込まれた表面はなめらかで、ふわりと飛んでいきそうです。


展示風景より。《ピュッレ/渦巻》1954年 合板

このバウムクーヘン状の紋様は、合板による木目の現れ方を綿密に計算したうえで造ったそう。

こうした抽象的な作品を見ると、以前この連載で紹介したブランクーシの《鳥》を思い出します。ブランクーシの《鳥》は、快慶の阿弥陀如来のような神秘性をたたえていましたが、タピオ氏の《渦巻》は、フィンランドの港や北の荒れ地に吹く風、またはその風に乗って自在に飛ぶ鳥(のような生命体)といいますか、無為自然の禅の境地とでもいえそうな軽やかさを感じました。

このほか、鳥や貝をモチーフにした合板作品も見ごたえありました。


展示風景より。《孔雀の羽》1970年代末 合板

この連載では、茶道具もたびたび紹介していますが、やはり「用の美」という考え方が軸にあり、茶碗などは表面から自然の風景を「景色」として見出します。
私のような「タピオ初心者」からすると、タピオ作品に流れる美意識を、茶の湯の美を通して汲み取ることができたように思います。

タピオの代表作であるグラス「ウルティマ・ツーレ(最果ての地、極北といった意味)」は、大木から水滴が滴るようなイメージ。まさに茶碗でいう「景色」が見えます。


《ウルティマ・ツーレ(ドリンキング・グラスのセット)》1968年 Tapio Wirkkala Rut Bryk Foundation Collection / EMMA – Espoo Museum of Modern Art. © Ari Karttunen / EMMA
© KUVASTO, Helsinki & JASPAR, Tokyo, 2024 C4780


北欧デザインが日本人に人気なのは、こうした美意識の近似性があるのかもしれないですね。


展示のラストは《ウルティマ・ツーレ》シリーズのオブジェ

それでは聴いてください。
宮澤やすみで「酒と女」(小唄アルバム『廓の夜』より)。



タピオ・ヴィルカラ 世界の果て
2025年4月5日(土) - 6月15日(日)
東京ステーションギャラリー
詳細:
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202504_tapio.html


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--おしらせ---
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詳細:(映画ナタリー)
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宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
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宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com