お問い合せ

営業時間:10:00~17:00 定休日:土日祝日

  • x
  • facebook
  • instagram
公式オンラインストア
お問合わせ メニュー
公式オンラインストア

第432回 絵師の売れ方は作品力と出会い-「ビアズリー」展

”コネもない無名の若者が、作品の力だけでのし上がっていく--”

音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。ひさしぶりに風邪をひいた宮澤やすみです。これから忙しくなるというタイミングで困ったものです。

そんな中、三菱一号館美術館で開催中の「異端の奇才 ビアズリー展」に行ってきました。
西洋美術の話がつづきますが、そういう季節なのでおつきあいください(仏ネタも準備しています)。


イギリスにでも来たような気になる?美術館前の広場

前回ご紹介した、フランスの奇才・ルドンが世に出始めたときに生まれたビアズリー(1872生)。この人も特定の派閥に入らずひたすら独自の世界を表現していった人です。
しかも、幼少から結核を患っていたことで絵の世界に没頭した子供時代を過ごしたようです。


展示風景より。ビアズリーが手掛けたポスター

世に出るきっかけをつかんだのは、当時大家の画家をアポ無しで突然訪ねたことから。
「おもしろい若手がいるぞ」と出版関係者に名が知れて、みるみるうちに挿画家として人気を博すことになります。

最初の出会いって大事ですね。もちろんそのときに渡した作品のクオリティが、業界をノックアウトするほどものすごかったということが一番なのですが。

展示のハイライトのひとつが、オスカー・ワイルド著「サロメ」英語版の挿画。この展示室は一般撮影OKでした。


我々世代にはデビルマンの世界を彷彿させる。展示風景より。オーブリー・ビアズリー《オスカー・ワイルド著『サロメ』の題扉》ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 より

妖艶なサロメと、欲にまみれたヘロデ王、聖者ヨカナーン(洗礼者ヨハネ)などの人物が、生き生きとした線で描かれます。
ダークで淫靡な物語描写(これが行き過ぎて著者オスカーワイルドが怒ったそう)がありありと伝わってきます。この描写力は、今流行のマンガと言われても気づかないんじゃないでしょうか。


ヨカナーンの生首に口づけるサロメの図。オーブリー・ビアズリー《クライマックス》1893年(原画)、1907年(印刷)ライン・ブロック/ジャパニーズ・ヴェラム[厚地和紙]ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

興味深いのは、この「サロメ」の仕事をするきっかけになったのが、いわゆる”二次創作”であったこと。
当時すでに注目の若手として活躍し始めていたビアズリー。芸術雑誌『STUDIO』で作品を発表しますが、そこに、オスカーワイルド『サロメ』の最初のフランス語版からイメージした絵を勝手に描いて載せました。

それが出版社の目に止まり、英語版の制作で挿画を担当することになったそう。


これが目に止まり活躍が始まる。オーブリー・ビアズリー《おまえの口にくちづけしたよ、ヨカナーン》1893年 ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

小説を題材に絵や音楽を作る、という手法は今でもよくあることですが、その原作の仕事に携わることになるというのは珍しいと思います。ビアズリー本人も、張り切ったことでしょう。展示された作品からビアズリーの本気度が伝わってきます。


オーブリー・ビアズリー《踊り手の褒美》1893年(原画)、1907年(印刷)ライン・ブロック/ジャパニーズ・ヴェラム[厚地和紙]ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館

それにしても、まあよく何度も”出版社の目に”止まるものです笑
それだけ、ビアズリーの作品が突出していたということでしょうか。
今だったら、いろんなイラストレーターさんが必死にSNSに作品を上げていますが、どれだけのものが”目に止まる”ことか。


展示風景より。ビアズリーの時代に流行したアングロ・ジャパニーズの調度

時代がちがうせいなのか、ビアズリーの才能がとんでもなかったのか。

コネもない無名の若者が、作品の力だけでのし上がっていくイングリッシュ・ドリームを観ました。

その後は仲間を呼んで豪華なティーパーティーを開くなど陽キャになったりしたビアズリーですが、これからという時に結核が悪化して亡くなってしまいました。享年25歳。100年後の現在再評価されています。


それでは聴いてください。
フリーで「Mr. Big」(LIVE)。



異端の奇才 ビアズリー展
2025.2.15(土)- 2025.5.11(日)
三菱一号館美術館
詳細:
https://mimt.jp/ex/beardsley/


■あわせて読む(関連記事)
見えないものを描く遅咲きの花-「オディロン・ルドン」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20250415-2/
「芸術」が最も幸せだった時代 ルドン-ロートレック展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20201027-2/


--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線、解説)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyorubook.html
歌詞と解説をまとめたガイドブック発売中
※楽曲はYoutube、Spotifyなどで誰でも聴けますが、これがあればよりよくわかる!



宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html

宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com