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第438回 苦楽の人生からにじみ出る軽やかさ―「上村松園と麗しき女性たち」展より―

”その苦労を決して表に見せず軽さを表現するというスタイルは、上村松園の--”

音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。先日も活弁(無声映画の弁士と楽士つき上演)の出演をしてきた宮澤やすみです。会場は銭湯だった建物をリノベーションしたスペースで、和やかさがあってお客さんと楽しく打ち解けました。

そんな中、東京の山種美術館「上村松園と麗しき女性たち」展を取材してきました。
この日はいつものプレス内覧会じゃなく、インフルエンサー向け内覧会というものにお呼ばれしました。


展示室エントランス

会場は、艶やかな着物姿のインフルエンサーさんが集まってとても華やか。私だけいつものモフモフ頭でおじゃましてスミマセン。


集まったインフルエンサーを前に解説する、学芸課長の南雲有紀栄さん

上村松園は、明治から昭和前期に活躍した画家で、麗しい女性を描いた作品が有名。
描かれた女性は、どれも微かに笑みをたたえ、作品全体からゆったりした時間が流れるように感じます。


展示風景より。左《春のよそをひ》、右《春風》

ただ、松園自身は当時極めて珍しいシングルマザーで、生計を立てるために壮絶な苦労を強いられたそう。さらに、女性がプロの画家になること自体かなり周囲の反発があったようです。そういう時代ですね。


メインビジュアルになっている《蛍》。江戸時代の浮世絵に描かれたモチーフを洗練させて描いた

凡人には想像しえない苦労を、作品世界には持ち込まず、軽やかに人生を楽しむ女性たちを描き切って人々を癒した上村松園さん。
そうした表現を実現するための画力がまたすごかったです。御簾ごしに透けた着物の描き方があまりにも自然なのですが、近づいてよく見ると、緻密な計算のもとに色と線を描きわけているのが見て取れて、そのテクニックに驚きます。
一歩離れてみると女性が立体に見えてくるようです。


蚊帳を吊りながらホタルを見つけてほほ笑む。《蛍》部分


作品下部にホタルが飛んでいるので見落とさないで

大作品「砧(きぬた)」では、長く帰らない夫を待ちわびて遠くを見る視線が印象的。そこにいろいろな感情が読み取れます。

これまで印刷物や映像で見て「ふーん」程度の感触でいましたが、実物を見てやっと作品の魅力と凄みが伝わった次第です。恐れ入りました。
やっぱり、食わず嫌いせずなんでも見てみるのがいいですね。


大画面の名作《砧》について解説する南雲有紀栄さん

上村松園の展示のあとは、同時代からその後の画家の作品が続きます。
戦前から戦後にかけて、美しい女性画で人気を博した伊東深水の作品も展示されていました(写真はNGでした)。
伊東深水は、小唄の作詞も手掛けていて、私の音楽方面の仕事でよく唄っているものですから気になっていたのでした。
伊東先生、小唄でいつもお世話になっております!


展示室風景

ちなみに、短い三味線音楽である小唄も一見ちょっとしたかるーい唄に思えますが、そこに至るまでの苦労はなかなかのもの。その苦労を決して表に見せず軽さを表現するというスタイルは、小唄の流行と同時代に生きた上村松園の、昭和前期の女性の気概に通じるのかもしれません。

展示の終わりは、山種美術館名物の和菓子。
毎回、展示作品をモチーフにしたオリジナルの生菓子を提供しています。これがおいしい。


カフェでいただけるオリジナル和生菓子五種。どれも展示作品をイメージしたもの

私、以前はフリーライターとして和菓子の取材をしていた時代もありまして、この和菓子を制作する菊家さんも取材したことがありましたが、この店の生菓子は見た目だけでなく味わいも工夫があって、どれも楽しく且つおいしくいただけます。


《砧》をモチーフにした生菓子をいただきました。胡麻入りあんがアクセント

酸いも甘いも嚙み分けた上村松園の人生とその作品を堪能した後に、この甘いひとときがたまりません。

それでは聴いてください。
宮澤やすみ で「夜桜」
(アルバム『廓の夜』より)。



【特別展】生誕150年記念
上村松園と麗しき女性たち
山種美術館
2025年5月17日(土)~7月27日(日)
詳細
https://www.yamatane-museum.jp/exh/2025/uemurashoen.html



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--おしらせ---
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https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyorubook.html
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※楽曲はYoutube、Spotifyなどで誰でも聴けますが、これがあればよりよくわかる!



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宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com