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第443回 芸術の価値観が変わっていく時代 ―「大正イマジュリィの世界」展―
”この先音楽を含めた芸術活動に人々はどんな価値が見いだしていくのか--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。こんど上演する『狂った一頁』という無声映画を何度も見て、頭に叩き込んでいる宮澤やすみです。大正15年の前衛映画の名作で、三味線でアバンギャルドな音楽を付けるのです。
そんな中、先日はSOMPO美術館での「大正イマジュリィの世界」展を取材してきました。
まさに無声映画の時代と重なる、今の私にぴったりの展示。仏像にも思いを馳せます。

美術館エントランスのメインヴィジュアル拡大。耽美と妖艶の世界に期待
写真はプレス内覧会で許可を得て撮影したものです(一部一般撮影OKのものもあります)。

全国各地の美術館を巡回してきた人気の展示。大正モダンの世界が満載
イマジュリィとは、イラストという言葉がなかったころの挿画とかグラフィックデザインのことだそうです。
明治大正のころはまだ使い捨ての消費材であった印刷デザイン。しかし今ではアートの一環として再認識されています。

竹久夢二が表紙絵を手掛けた『婦人グラフ』
一瞬で目をひくために工夫が凝らされ、作家独自の世界観も如実に感じ取ることができるイマジュリィは、その時代の気分を色濃く表していて、大正ロマンやレトロ世界が好きなファンが集まります。

三越百貨店パンフのモダンなデザインなどを手掛けた杉浦非水の図案集より。このカッコよさは現代でも通用するのでは
こうした作品の源流は浮世絵なのだそう。その場のなぐさみであった浮世絵が、海を渡ったヨーロッパで人気となり日本でも見直されました。その流れも展示されています。

浮世絵の技法と美学を大正時代なりに進化させた小村雪岱の装丁『大衆文芸評判記』
浮世絵の木版技法で作られたイマジュリィもあれば、当時の技術をうまく使って人の想像力を掻き立てるものもあり、
装丁や挿画といったイマジュリィがたくさん世に出たのが大正時代。
世はアバンギャルド、モダンアート華やかなりし時代で、一風変わった構成や色遣いが現代の人の目もひきつけます。
これらは、油絵や水墨画などの芸術作品とは異なる世界の、商業デザインだったのですが、今ではその境界は気に留める必要もなく、時代をストレートに感じさせるイマジュリィの価値が見直されているようです。

マッチ箱のデザインコレクションも秀逸。いつまでも見ていたい
以前この連載で「「芸術」が、「芸術」として成立していた19世紀末がうらやましい」と書きました。
その頃はゲージュツが幅を利かせていましたが、20世紀になるとすぐゲージュツの価値感が見直され、ダダ、シュルレアリスムと来て、芸術以外の商品がゲージュツ化していった時代かと思います。21世紀になると一周回って多様な価値観が出てきますが。
私がやってる音楽はというとですね、レコード芸術としてしばらく価値があったんですがね、
ここ10年くらいで急速に、蛇口からでる水道の水みたいになっていまして・・・もうどうしたらよいやら困ったものです。
そんな中で、この先音楽を含めた芸術活動に人々はどんな価値が見いだしていくのか、見極めつつ活動を進めていきたいと思います。
さて仏像はというと、読者のみなさまご存じのとおりで、宗教の礼拝対象であったものが、岡倉天心&フェノロサの活動によって「文化財」「宗教美術」という概念が浸透します。こうして仏像もゲージュツの範疇に組み入れられるのが近代という時代でした。

この大胆な構図がたまらない。小山雪岱 装丁『愛艸集』
現在は仏像の存在ってどうなんでしょうね? 宗教観の再認識と芸術の間でゆれている感じでしょうか。
まあ人それぞれ、といってしまえばそれまでですが。
とりとめのない文面で恐縮ですが、明治大正のイマジュリィの数々。活動写真や小唄といったワタクシの仕事と同時代の作品に囲まれて至福の展示でした。
それでは聴いてください。
宮澤やすみ で「夜と共に」(アルバム『廓の夜』より)
(大正12年作の小唄。小唄もこの時代によく歌われました)
デザインとイラストレーションの青春 1900s-1930s
大正イマジュリィの世界
SOMPO美術館
2025.07.12(土)- 08.31(日)
詳細
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2024/taisho-imagerie/
■あわせて読む(関連記事)
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https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20230228-2/
明治の古写真に写る 増上寺の男たち-「法然と極楽浄土」展-
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240507-2/
派閥を超えた先の”自由な派閥”「プチパレ美術館」展
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220719-2/
一次資料でみる100年前の日本人欧州探訪記 「新宿中村屋の娘さん」が着物に三味線で?
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20211005-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線、解説)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyorubook.html
歌詞と解説をまとめたガイドブック発売中
※楽曲はYoutube、Spotifyなどで誰でも聴けますが、これがあればよりよくわかる!
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。こんど上演する『狂った一頁』という無声映画を何度も見て、頭に叩き込んでいる宮澤やすみです。大正15年の前衛映画の名作で、三味線でアバンギャルドな音楽を付けるのです。
そんな中、先日はSOMPO美術館での「大正イマジュリィの世界」展を取材してきました。
まさに無声映画の時代と重なる、今の私にぴったりの展示。仏像にも思いを馳せます。

美術館エントランスのメインヴィジュアル拡大。耽美と妖艶の世界に期待
写真はプレス内覧会で許可を得て撮影したものです(一部一般撮影OKのものもあります)。

全国各地の美術館を巡回してきた人気の展示。大正モダンの世界が満載
イマジュリィとは、イラストという言葉がなかったころの挿画とかグラフィックデザインのことだそうです。
明治大正のころはまだ使い捨ての消費材であった印刷デザイン。しかし今ではアートの一環として再認識されています。

竹久夢二が表紙絵を手掛けた『婦人グラフ』
一瞬で目をひくために工夫が凝らされ、作家独自の世界観も如実に感じ取ることができるイマジュリィは、その時代の気分を色濃く表していて、大正ロマンやレトロ世界が好きなファンが集まります。

三越百貨店パンフのモダンなデザインなどを手掛けた杉浦非水の図案集より。このカッコよさは現代でも通用するのでは
こうした作品の源流は浮世絵なのだそう。その場のなぐさみであった浮世絵が、海を渡ったヨーロッパで人気となり日本でも見直されました。その流れも展示されています。

浮世絵の技法と美学を大正時代なりに進化させた小村雪岱の装丁『大衆文芸評判記』
浮世絵の木版技法で作られたイマジュリィもあれば、当時の技術をうまく使って人の想像力を掻き立てるものもあり、
装丁や挿画といったイマジュリィがたくさん世に出たのが大正時代。
世はアバンギャルド、モダンアート華やかなりし時代で、一風変わった構成や色遣いが現代の人の目もひきつけます。
これらは、油絵や水墨画などの芸術作品とは異なる世界の、商業デザインだったのですが、今ではその境界は気に留める必要もなく、時代をストレートに感じさせるイマジュリィの価値が見直されているようです。

マッチ箱のデザインコレクションも秀逸。いつまでも見ていたい
以前この連載で「「芸術」が、「芸術」として成立していた19世紀末がうらやましい」と書きました。
その頃はゲージュツが幅を利かせていましたが、20世紀になるとすぐゲージュツの価値感が見直され、ダダ、シュルレアリスムと来て、芸術以外の商品がゲージュツ化していった時代かと思います。21世紀になると一周回って多様な価値観が出てきますが。
私がやってる音楽はというとですね、レコード芸術としてしばらく価値があったんですがね、
ここ10年くらいで急速に、蛇口からでる水道の水みたいになっていまして・・・もうどうしたらよいやら困ったものです。
そんな中で、この先音楽を含めた芸術活動に人々はどんな価値が見いだしていくのか、見極めつつ活動を進めていきたいと思います。
さて仏像はというと、読者のみなさまご存じのとおりで、宗教の礼拝対象であったものが、岡倉天心&フェノロサの活動によって「文化財」「宗教美術」という概念が浸透します。こうして仏像もゲージュツの範疇に組み入れられるのが近代という時代でした。

この大胆な構図がたまらない。小山雪岱 装丁『愛艸集』
現在は仏像の存在ってどうなんでしょうね? 宗教観の再認識と芸術の間でゆれている感じでしょうか。
まあ人それぞれ、といってしまえばそれまでですが。
とりとめのない文面で恐縮ですが、明治大正のイマジュリィの数々。活動写真や小唄といったワタクシの仕事と同時代の作品に囲まれて至福の展示でした。
それでは聴いてください。
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(大正12年作の小唄。小唄もこの時代によく歌われました)
デザインとイラストレーションの青春 1900s-1930s
大正イマジュリィの世界
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※楽曲はYoutube、Spotifyなどで誰でも聴けますが、これがあればよりよくわかる!
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宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com



