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第448回 薬師如来と吉祥天の意外なつながり

”そんな中、山梨の福光園寺は興味深かった――”

音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。秋の「小唄 in 神楽坂」に向けて一門みんなで準備し始めている宮澤やすみです。今年は今までで最多の出演人数になります。

そんな中、二週にわたって薬師如来のおはなし。今回が三週目です。
薬師如来の像は、ご存じのとおりどっしりとした仏の姿(いわゆる如来)の形で造られるものですが、
例外的に、菩薩や天部形で表現されることもあるようです。


イスムの薬師如来坐像。これが天部形で表されるとは一体?

その代表的存在が、京都太秦の広隆寺(宝冠弥勒で有名な)で、そこにある秘仏「勅封薬師如来立像」があります。
写真はネットに出回ってますけど、それを見るとほぼ吉祥天の姿。
由来はこの後考察しますが、どうやら広隆寺近隣の神社の神像として造られたと思われます。
くわしくは、仏像解説サイトの老舗「観仏日々帖」さんに詳しく書かれています。

現代からおよそ1200年前の奈良時代は、日本の神は悟りに向けて修行の身とされたため菩薩形で表されたり、
護法神(仏教の守り神)の一種として天部の姿で表されたりしたのでした(いわゆる衣冠束帯の神像のかたちが出るのはこの後の平安時代)。
そもそも、天部とはインド神話の神々のことですから、日本の神が天部の一員になるのも納得です。

そんな中、私が見た例では、山梨の福光園寺は興味深かったです。


福光園寺の「香王観音」※許可を得て撮影

ここは吉祥天信仰の非常に古い歴史をもつお寺。本堂には鎌倉時代の立派な像が安置。
そして、もっと古い像として「香王観音」と呼ばれる像がありますが、これがどうみても観音菩薩じゃなくて吉祥天なんですね。
ケヤキの一木造りで、平安時代(藤原期)の作とされます(伝承では行基作)。

古いお寺の長い歴史の中で、信仰の移り変わりに応じて像名が変わるのはよくあること。
「香王観音」は、広隆寺に伝わる吉祥天形薬師の信仰を彷彿させます。


福光園寺の「香王観音」。肩から条帛を懸ける姿が吉祥天形薬師如来の特徴といわれるが、この像もそう見える

福光園寺のある山梨県笛吹市は、甲斐の黒駒に代表される聖徳太子信仰の地であり、古くから都と通じていたそうです。
市内を流れる笛吹川流域の丘にはいくつもの前方後円墳があり、古代から駿河湾-富士川-笛吹川のルートで都と交易があったそう。


福光園寺の近くにある前方後円墳「銚子塚古墳」

そこから何百年か時代が経つと、平安時代初期には霊薬であるブドウの産地としてお寺がいくつもでき、病平癒の薬師如来が安置されました。
私見になりますが、このような土地柄で、吉祥天を祀っていた福光園寺が天台系薬師信仰の流れに沿って「香王観音(とのちに呼ばれる吉祥天形薬師))」が造られたとしても不思議ではないと思います。

そして、ここで疑問となるのが、
「薬師さんがなんで吉祥天とつながるの? ぜんぜんイメージちがくない?」
という素朴な意見。
そこでキーワードになるのが「悔過(けか」だと思います。

奈良時代のお寺では、身の穢れを落として祈る「悔過」法要が盛んにおこなわれ、その時の本尊とされたのが十一面観音と薬師如来と吉祥天でした。
十一面観音悔過は、今でも東大寺二月堂の「お水取り」として継承されています。
新薬師寺は薬師悔過の中心。
吉祥天悔過は薬師寺が知られます。

そんな「悔過」本尊の仲間として、薬師如来と吉祥天は同一視されたのではと思います。
それに菩薩形の「薬師菩薩」は観音のような姿ですし、悔過を通じて個別の仏菩薩天部がまとめて信仰されたのではないでしょうか。

こうして、日本の神を吉祥天の姿で表し薬師如来(と同格)とした例は各地にあるようです。
私が見た限りでは、滋賀の櫟野寺の吉祥天立像があります(特別展「平安の秘仏 滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち」より)。


櫟野寺の吉祥天立像(許可を得て撮影)。三体あるうち胸に条帛という布を巻いているところが広隆寺の像と共通する

また、岩手の天台寺にある伝吉祥天立像は、条帛はありませんが、その簡略化されたいでたちから、土着の神を仏像風に表した神像(まわりくどい言い方ですが)といえそうです。


天台寺の伝吉祥天立像。「みちのく いとしい仏たち」展より許可を得て撮影

それでは聴いてください。
ザ・ブッツで「一木造」


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--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

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