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第454回 円形の仏塔も 円堂はなぜ八角形? 興福寺北円堂
”仏教の円堂も古墳の円墳も、故人が住む天の世界をまるっと表現するなかで――”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。三味線の演奏本番が近くなるとだいたい手をケガする宮澤やすみです。たんに不注意なだけでございます。

報道内覧会にて。興福寺北円堂の仏像群。許可を得て撮影
そんな中、東京国立博物館での特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」から話を引っ張って、これで4回目。
弥勒仏から北円堂の話題に迫ってきました。
その前回記事の末尾では、
「円堂なのに、なぜ八角形?」
という疑問を残していたので、今回はそこに触れてみましょう。
まず前提として、八角円堂は遺骨を納めることはないものの、故人を追悼するための「参詣用墓(詣り墓)」に近いものだということで(前回記事参照)、施設の意味合いとしては「ほぼお墓」といってよいかと思います。

興福寺北円堂は、藤原不比等の追善供養のために造られた
そこで、同じ時代の古墳に注目すると、上円下方墳とか八角墳が特徴的。
(いわゆる古墳時代の後でも、飛鳥-奈良時代にも古墳は造られていました)
写真を引用します。

上円下方墳の例「石のカラト古墳」。8世紀初頭
この形は、「天円地方(てんえんちほう:天は円形、地は方形をしている)」という、古代中国の宇宙観に基づくものとされています。
時は遣唐使の時代、中国の思想や技術をどんどん吸収していた頃ですから、お墓にもその影響が見られるわけです。
で、円形が八角形になるところですが、ここなんですよ。
ここがよくわからない。

八角墳の例「牽牛子塚(けんごしづか)古墳」。7世紀末~8世紀初頭、2022年に整備され強烈なインパクト
というか、諸説あるところなのだそうで。
整理してみましょう。
木造建築では技術的にできなかったという説があります。ただ、のちの密教寺院では四角い基壇に円形が乗るかたちの多宝塔で、天円地方が表現されています。

多宝塔の例(石山寺)。上から見て初層が方形(四角)、二層目が円形に造られている
古墳では円形が簡単でしょうがわざわざ八角形で造るのはなぜか(斉明天皇など当時の天皇に八角墳が見られる)。
八が日本で「聖数」であるからという説も。八百万とか八重垣とか八百屋さんとか、なにかと”八”が珍重されます。
仏教でも八大竜王とか八正道とかあるので、神道仏教とも八になじみがある。とはいえ、説としては弱いでしょうか?
私が個人的にしっくりきているのは、やはり中国の世界観から来ている説。
この連載で過去に紹介しましたが、中国の風水や九星気学といった思想では、世界を八方位で表します。八方塞がりなんて言葉もあるくらいで。
仏像だと、干支に合わせた守り本尊がありますが、あれって十二支を無理やり(?)八尊にまとめてますよね。あれは八方位に合わせているからです(下記「あわせて読む」参照)。
時は遣唐使の時代(さっきも言った)。
有名なキトラ古墳もこの時代の古墳でして、方位に合わせて四神が描かれたり、星図が描かれたのも、中国の思想によるもの。
そういう時代だから、仏教の円堂も、古墳のかたちも、故人が住む天の世界をまるっと表現するなかで、より中国風の思想に依った八角形デザインを採用した、
というのが実際のところなのではないでしょうか。
ただ、さっき触れたように、仏教寺院の多宝塔のように本当に丸い形の建築が登場するのは、ちょっと後の時代になるから、建築技術の問題もあったのかも…?
まあなにしろ、数々の要因が重なって八角円堂のスタイルができたのではないでしょうか。
よく分からないことをあれこれ考察するのは楽しいね、というお話しでした。
それでは聴いてください。
Eighth Wonder で「ステイ・ウィズ・ミー(Stay With Me)」
特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」
2025年9月9日(火)~11月30日(日)
東京国立博物館 本館特別5室
詳細:
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/unkei2025/index.html
■あわせて読む(関連記事)
ウシとトラが一緒になる理由-「守り本尊」のナゾ
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20210126-2/
そもそも八角円堂って何? 興福寺北円堂
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20251007-2/
菩薩じゃなくて如来? 北円堂・弥勒仏の理由
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20250930-2/
塑像の眼を模した運慶の技量「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20250909-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線、解説)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyorubook.html
歌詞と解説をまとめたガイドブック発売中
※楽曲はYoutube、Spotifyなどで誰でも聴けますが、これがあればよりよくわかる!
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:
https://yasumimiyazawa.com
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。三味線の演奏本番が近くなるとだいたい手をケガする宮澤やすみです。たんに不注意なだけでございます。

報道内覧会にて。興福寺北円堂の仏像群。許可を得て撮影
そんな中、東京国立博物館での特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」から話を引っ張って、これで4回目。
弥勒仏から北円堂の話題に迫ってきました。
その前回記事の末尾では、
「円堂なのに、なぜ八角形?」
という疑問を残していたので、今回はそこに触れてみましょう。
まず前提として、八角円堂は遺骨を納めることはないものの、故人を追悼するための「参詣用墓(詣り墓)」に近いものだということで(前回記事参照)、施設の意味合いとしては「ほぼお墓」といってよいかと思います。

興福寺北円堂は、藤原不比等の追善供養のために造られた
そこで、同じ時代の古墳に注目すると、上円下方墳とか八角墳が特徴的。
(いわゆる古墳時代の後でも、飛鳥-奈良時代にも古墳は造られていました)
写真を引用します。
上円下方墳の例「石のカラト古墳」。8世紀初頭
この形は、「天円地方(てんえんちほう:天は円形、地は方形をしている)」という、古代中国の宇宙観に基づくものとされています。
時は遣唐使の時代、中国の思想や技術をどんどん吸収していた頃ですから、お墓にもその影響が見られるわけです。
で、円形が八角形になるところですが、ここなんですよ。
ここがよくわからない。
八角墳の例「牽牛子塚(けんごしづか)古墳」。7世紀末~8世紀初頭、2022年に整備され強烈なインパクト
というか、諸説あるところなのだそうで。
整理してみましょう。
木造建築では技術的にできなかったという説があります。ただ、のちの密教寺院では四角い基壇に円形が乗るかたちの多宝塔で、天円地方が表現されています。

多宝塔の例(石山寺)。上から見て初層が方形(四角)、二層目が円形に造られている
古墳では円形が簡単でしょうがわざわざ八角形で造るのはなぜか(斉明天皇など当時の天皇に八角墳が見られる)。
八が日本で「聖数」であるからという説も。八百万とか八重垣とか八百屋さんとか、なにかと”八”が珍重されます。
仏教でも八大竜王とか八正道とかあるので、神道仏教とも八になじみがある。とはいえ、説としては弱いでしょうか?
私が個人的にしっくりきているのは、やはり中国の世界観から来ている説。
この連載で過去に紹介しましたが、中国の風水や九星気学といった思想では、世界を八方位で表します。八方塞がりなんて言葉もあるくらいで。
仏像だと、干支に合わせた守り本尊がありますが、あれって十二支を無理やり(?)八尊にまとめてますよね。あれは八方位に合わせているからです(下記「あわせて読む」参照)。
時は遣唐使の時代(さっきも言った)。
有名なキトラ古墳もこの時代の古墳でして、方位に合わせて四神が描かれたり、星図が描かれたのも、中国の思想によるもの。
そういう時代だから、仏教の円堂も、古墳のかたちも、故人が住む天の世界をまるっと表現するなかで、より中国風の思想に依った八角形デザインを採用した、
というのが実際のところなのではないでしょうか。
ただ、さっき触れたように、仏教寺院の多宝塔のように本当に丸い形の建築が登場するのは、ちょっと後の時代になるから、建築技術の問題もあったのかも…?
まあなにしろ、数々の要因が重なって八角円堂のスタイルができたのではないでしょうか。
よく分からないことをあれこれ考察するのは楽しいね、というお話しでした。
それでは聴いてください。
Eighth Wonder で「ステイ・ウィズ・ミー(Stay With Me)」
特別展「運慶 祈りの空間―興福寺北円堂」
2025年9月9日(火)~11月30日(日)
東京国立博物館 本館特別5室
詳細:
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/unkei2025/index.html
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本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
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宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:
https://yasumimiyazawa.com



