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第456回 光の技術革新が絵画を変える――「印象派―室内をめぐる物語」より
”ここで次の展示室にいくと、ある発明が目に入ります。それが――”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。栃木県の日光江戸村で三味線を弾いてきた宮澤やすみです。子供から大人まで楽しんでいただけました。
そんな中、東京・上野の国立西洋美術館で開幕中の『印象派―室内をめぐる物語』のプレス内覧会に行ってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。
この展覧会は、フランス・パリにあるオルセー美術館の所蔵作品を展示。
オルセーといえば、印象派絵画の殿堂なのですが、このなかで今回は、室内の様子を描いた作品を主に集めています。

外光と室内のコントラストがリアル。クロード・モネ《アパルトマンの一隅》1875年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ
印象派といえば、太陽の自然光がもたらす色合いや輝きを捉えて絵にしたのが、それまでの古典的な絵画と異なるものです。
なので、どうしても屋外の建物や風景を題材にした作品が多い。
クロード・モネの《印象 日の出》とか、《ルーアン大聖堂》とか、検索してみてください。
しかし、そうした印象派グループの画家たちは、じつは室内の風景も巧みに描いているんです。
ルノワールのこちらなんか、室内でピアノをたしなむ楽しそうな姉妹を描いて、くつろいだ休日の空気感が感じられます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《ピアノを弾く少女たち》1892年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ
脳内には、クイーンの「Lazy On A Sunday Afternoon」が勝手に流れてきます(もちろん館内では流れませんよ)。
この明るく幸せそうな絵を見ると思いますのは、やはり光の具合であります。
絵をよく見ると、ピアノの脇にろうそくを置く燭台がある。
作品の明るい画面はルノワールの得意技なのだろうと思いますが、ろうそくが灯されてなく、外から差し込む光だけでこれだけ室内が明るくなるんだろうか、と思いました。
まだ電灯は普及していない時代です。パリは「光の都」とも言われ、夜にガス灯が灯されてはいましたが。
とはいえ、絵画の画面は明るい昼間。
ここで次の展示室にいくと、ある発明が目に入ります。それがガラス窓です。
大きなガラス窓によって、外光がたくさん入るようになったのが、ちょうど印象派活躍の時代に重なるのでした。

ガラス窓の発明があったからこそできた作品。アルベール・バルトロメ《温室の中で》1881年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ
南に面した部屋で、天気がよい絶好の季節、おそらく5月あたりでしょうか、ちょうど光が差し込む時間帯にピアノを楽しむ。
いくつもの条件が揃わないと、この画面は作れないように思います。

ルノワール作品の横には当時の譜面台が置かれていて当時の雰囲気を感じられる
その、ある意味奇跡的な瞬間をルノワールは見逃さず(見て覚えて後で描いたと思われますが)、幸せな時間をキャンバスに定着させるという、すばらしい仕事をしてくれました。
ほかの作品も、子供がお父さんの前でキャッキャしてる瞬間や、反対にちょっと不機嫌で冷たい感情の家族の表情などを見事にとらえています。

家族の冷めた関係が伺える傑作。一般撮影OK。エドガー・ドガ《家族の肖像(ベレッリ家)》1858-1869年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ
描くのに時間がかかるはずの油絵で、こんな風に一瞬の感情を表現する技に感服しました。
時は19世紀末、電気の光が無い時代で、光の表現を求めた印象派。
一瞬の表情を捉える技は、20世紀になると写真が登場することで、絵画の役目は写真に取って代わり、絵画は迷走(?)しながらも独自の芸術表現になっていきます。

先ほどの絵のモデルになった妻はドレスを大切に保存。そのドレス実物も展示。《アルベール・バルトロメ夫人のドレス》1880年 綿 オルセー美術館、パリ
それでは聴いてください。
クイーンで「うつろな日曜日(Lazing On A Sunday Afternoon)」
オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語
2025年10月25日[土]ー2026年2月15日[日]
国立西洋美術館
詳細:
https://www.orsay2025.jp/
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https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20210921-2/
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https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20220719-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線、解説)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyorubook.html
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※楽曲はYoutube、Spotifyなどで誰でも聴けますが、これがあればよりよくわかる!
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:
https://yasumimiyazawa.com
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。栃木県の日光江戸村で三味線を弾いてきた宮澤やすみです。子供から大人まで楽しんでいただけました。
そんな中、東京・上野の国立西洋美術館で開幕中の『印象派―室内をめぐる物語』のプレス内覧会に行ってきました。
写真は特別に許可を得て撮影したものです。
この展覧会は、フランス・パリにあるオルセー美術館の所蔵作品を展示。
オルセーといえば、印象派絵画の殿堂なのですが、このなかで今回は、室内の様子を描いた作品を主に集めています。

外光と室内のコントラストがリアル。クロード・モネ《アパルトマンの一隅》1875年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ
印象派といえば、太陽の自然光がもたらす色合いや輝きを捉えて絵にしたのが、それまでの古典的な絵画と異なるものです。
なので、どうしても屋外の建物や風景を題材にした作品が多い。
クロード・モネの《印象 日の出》とか、《ルーアン大聖堂》とか、検索してみてください。
しかし、そうした印象派グループの画家たちは、じつは室内の風景も巧みに描いているんです。
ルノワールのこちらなんか、室内でピアノをたしなむ楽しそうな姉妹を描いて、くつろいだ休日の空気感が感じられます。

ピエール=オーギュスト・ルノワール《ピアノを弾く少女たち》1892年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ
脳内には、クイーンの「Lazy On A Sunday Afternoon」が勝手に流れてきます(もちろん館内では流れませんよ)。
この明るく幸せそうな絵を見ると思いますのは、やはり光の具合であります。
絵をよく見ると、ピアノの脇にろうそくを置く燭台がある。
作品の明るい画面はルノワールの得意技なのだろうと思いますが、ろうそくが灯されてなく、外から差し込む光だけでこれだけ室内が明るくなるんだろうか、と思いました。
まだ電灯は普及していない時代です。パリは「光の都」とも言われ、夜にガス灯が灯されてはいましたが。
とはいえ、絵画の画面は明るい昼間。
ここで次の展示室にいくと、ある発明が目に入ります。それがガラス窓です。
大きなガラス窓によって、外光がたくさん入るようになったのが、ちょうど印象派活躍の時代に重なるのでした。

ガラス窓の発明があったからこそできた作品。アルベール・バルトロメ《温室の中で》1881年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ
南に面した部屋で、天気がよい絶好の季節、おそらく5月あたりでしょうか、ちょうど光が差し込む時間帯にピアノを楽しむ。
いくつもの条件が揃わないと、この画面は作れないように思います。

ルノワール作品の横には当時の譜面台が置かれていて当時の雰囲気を感じられる
その、ある意味奇跡的な瞬間をルノワールは見逃さず(見て覚えて後で描いたと思われますが)、幸せな時間をキャンバスに定着させるという、すばらしい仕事をしてくれました。
ほかの作品も、子供がお父さんの前でキャッキャしてる瞬間や、反対にちょっと不機嫌で冷たい感情の家族の表情などを見事にとらえています。

家族の冷めた関係が伺える傑作。一般撮影OK。エドガー・ドガ《家族の肖像(ベレッリ家)》1858-1869年 油彩/カンヴァス オルセー美術館、パリ
描くのに時間がかかるはずの油絵で、こんな風に一瞬の感情を表現する技に感服しました。
時は19世紀末、電気の光が無い時代で、光の表現を求めた印象派。
一瞬の表情を捉える技は、20世紀になると写真が登場することで、絵画の役目は写真に取って代わり、絵画は迷走(?)しながらも独自の芸術表現になっていきます。

先ほどの絵のモデルになった妻はドレスを大切に保存。そのドレス実物も展示。《アルベール・バルトロメ夫人のドレス》1880年 綿 オルセー美術館、パリ
それでは聴いてください。
クイーンで「うつろな日曜日(Lazing On A Sunday Afternoon)」
オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語
2025年10月25日[土]ー2026年2月15日[日]
国立西洋美術館
詳細:
https://www.orsay2025.jp/
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宮澤やすみ公式サイト:
https://yasumimiyazawa.com



