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第433回 蔦重の浮世絵から学ぶ 人付き合い術「蔦屋重三郎」展
”蔦重の偉い所は、敵と思われるような人物であっても付き合いを切らないところ--”
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。小唄と三味線の出演が立て込んでちょっとピンチの宮澤やすみです。しかしこれが終わるとぽっかりとヒマになってしまうのですが。
そんな中、4月はさまざまな美術展が続々開幕。おなじみの東京国立博物館・平成館では「蔦屋重三郎」展が開幕。
プレス内覧会に行ってきました。
4月だけで何回内覧会行ってるんだという(その間に仏ネタも取材しています)。10月と並んでこの時期は多いのです。

吉原の大門をくぐるところから、展示が始まる。いつもの仏像系展示とはちがう演出
仏像ばかり見ていると、絵画作品に目が行かなくなりがちなのですが、
浮世絵は平板な日本人顔ばかりと思ったら、じつにさまざまな表情や顔つきがあり、役者絵では実在の人物に似せた写実的な描写もあり、浮世絵の一筋縄でいかない多様な表現を観ました。この辺が、浮世絵マニアを沼らせるところなのでしょうか。

展示風景より、喜多川歌麿筆《婦女人相十品 文読む女》大判錦絵 寛政4-5年(1792-93) 東京国立博物館蔵
今回は、なぞ多き浮世絵作家・写楽の作品も多数展示。
有名なこの絵は、「江戸兵衛」という悪役の図。あまりに有名な絵なので子供の頃から見ていますが、あの頃はトイレでも我慢してるのかなと思うくらいであまりピンと来なかったように思います。ま、子供ですからね。
のちに歌舞伎を観るようになってからは、主人公に向かってタンカを切って力をみなぎらせている様子が伝わります。生でその図をみると、その力のこもり具合がより感じられます。

雲母刷り(きららずり)といわれる雲母をちりばめた画面は、見る角度によってキラリと光る。ネット画像ではわからない輝きだ。東洲斎写楽筆《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵
今回は大河ドラマ「べらぼう」とコラボした展示なので、蔦屋重三郎が手掛けた作品が主なもの。
「蔦重」の仕事の歴史を見ていく趣向になっています。

役者絵の数々が、江戸の世界へいざなう
ドラマを見ていても思うのですが、蔦重の偉い所は、敵と思われるような人物であっても付き合いを切らないところ。ときにはコラボ仕事もして成功させています。

松本幸四郎の渋い大人の風合いがよく表れている。東洲斎写楽筆《四代目松本幸四郎の 山谷の肴屋五郎兵衛》大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵
ドラマだと西村屋などはライバル関係にあるようですが、今夏の展示ではその西村屋と共同で出した本などもありました。

大河ドラマで使われた蔦重の店「耕書堂」のセットも
時代もありますが、何事も義理人情の世界です。狭い出版業界、お互いにウィンウィンの関係が築けるならば敵も味方もないということでしょうか。

当時アイドル扱いされていた茶屋の看板娘おきたの図。クール系美人。喜多川歌麿筆《難波屋おきた》大判錦絵 寛政5年(1793) 東京国立博物館蔵
蔦重の人付き合い術とは、じつに割り切った、ドライでビジネスライクな人付き合いだったのか。それとも、江戸っ子らしく人懐っこく、たとえ嫌われていても相手の懐に入り込んでなんとかするタイプだったのか。どっちだったんでしょうか。想像がふくらみます。

平賀源内による「エレキテル」の実物(後期は複製を展示)。平賀源内作《エレキテル》木製彩色 江戸時代18世紀 郵政博物館蔵
ともかく、身寄りのない吉原の若造が、ガチガチの利権がらみの本屋商売に新参で入り込み、大成功していくのだから大したものです。
蔦重の、人付き合い術、人を動かす人心掌握術、こうしたところは学びたいと思います。
そんな中ですが、私の本業である三味線と小唄の演奏で、蔦重も「聞いたかもしれない」古い小唄を収録して、アルバムを出しました。
タイトルは『廓の夜』。
唄の場面は吉原遊郭。花魁、遊女の悲喜こもごもを歌った小唄ばかり。先ほどの雲母刷りを歌った「写楽」という小唄も収録。
配信リリースなので、検索すれば誰でもすぐ聴けます。しかし、
ただ聴くだけじゃわからないので、歌詞と解説をまとめたブックレットも出しています。これを読みながら聴くのが一番です。
それでは、まずは聴いてみてください。
宮澤やすみで「写楽」(古典小唄アルバム『廓の夜』より)。
特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」
2025年4月22日(火)~ 6月15日(日)
東京国立博物館 平成館
詳細:
https://tsutaju2025.jp/
■あわせて読む(関連記事)
正面から見据える江戸文化「大吉原展」
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20240326-2/
風神雷神が吉原に繰り出した? 小唄で描かれる神仏世界
https://www.butuzou-world.com/column/miyazawa/20171021-2/
--おしらせ---
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線、解説)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyorubook.html
歌詞と解説をまとめたガイドブック発売中
※楽曲はYoutube、Spotifyなどで誰でも聴けますが、これがあればよりよくわかる!
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com
音楽家で神仏研究家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。小唄と三味線の出演が立て込んでちょっとピンチの宮澤やすみです。しかしこれが終わるとぽっかりとヒマになってしまうのですが。
そんな中、4月はさまざまな美術展が続々開幕。おなじみの東京国立博物館・平成館では「蔦屋重三郎」展が開幕。
プレス内覧会に行ってきました。
4月だけで何回内覧会行ってるんだという(その間に仏ネタも取材しています)。10月と並んでこの時期は多いのです。

吉原の大門をくぐるところから、展示が始まる。いつもの仏像系展示とはちがう演出
仏像ばかり見ていると、絵画作品に目が行かなくなりがちなのですが、
浮世絵は平板な日本人顔ばかりと思ったら、じつにさまざまな表情や顔つきがあり、役者絵では実在の人物に似せた写実的な描写もあり、浮世絵の一筋縄でいかない多様な表現を観ました。この辺が、浮世絵マニアを沼らせるところなのでしょうか。

展示風景より、喜多川歌麿筆《婦女人相十品 文読む女》大判錦絵 寛政4-5年(1792-93) 東京国立博物館蔵
今回は、なぞ多き浮世絵作家・写楽の作品も多数展示。
有名なこの絵は、「江戸兵衛」という悪役の図。あまりに有名な絵なので子供の頃から見ていますが、あの頃はトイレでも我慢してるのかなと思うくらいであまりピンと来なかったように思います。ま、子供ですからね。
のちに歌舞伎を観るようになってからは、主人公に向かってタンカを切って力をみなぎらせている様子が伝わります。生でその図をみると、その力のこもり具合がより感じられます。

雲母刷り(きららずり)といわれる雲母をちりばめた画面は、見る角度によってキラリと光る。ネット画像ではわからない輝きだ。東洲斎写楽筆《三代目大谷鬼次の江戸兵衛》大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵
今回は大河ドラマ「べらぼう」とコラボした展示なので、蔦屋重三郎が手掛けた作品が主なもの。
「蔦重」の仕事の歴史を見ていく趣向になっています。

役者絵の数々が、江戸の世界へいざなう
ドラマを見ていても思うのですが、蔦重の偉い所は、敵と思われるような人物であっても付き合いを切らないところ。ときにはコラボ仕事もして成功させています。

松本幸四郎の渋い大人の風合いがよく表れている。東洲斎写楽筆《四代目松本幸四郎の 山谷の肴屋五郎兵衛》大判錦絵 寛政6年(1794) 東京国立博物館蔵
ドラマだと西村屋などはライバル関係にあるようですが、今夏の展示ではその西村屋と共同で出した本などもありました。

大河ドラマで使われた蔦重の店「耕書堂」のセットも
時代もありますが、何事も義理人情の世界です。狭い出版業界、お互いにウィンウィンの関係が築けるならば敵も味方もないということでしょうか。

当時アイドル扱いされていた茶屋の看板娘おきたの図。クール系美人。喜多川歌麿筆《難波屋おきた》大判錦絵 寛政5年(1793) 東京国立博物館蔵
蔦重の人付き合い術とは、じつに割り切った、ドライでビジネスライクな人付き合いだったのか。それとも、江戸っ子らしく人懐っこく、たとえ嫌われていても相手の懐に入り込んでなんとかするタイプだったのか。どっちだったんでしょうか。想像がふくらみます。

平賀源内による「エレキテル」の実物(後期は複製を展示)。平賀源内作《エレキテル》木製彩色 江戸時代18世紀 郵政博物館蔵
ともかく、身寄りのない吉原の若造が、ガチガチの利権がらみの本屋商売に新参で入り込み、大成功していくのだから大したものです。
蔦重の、人付き合い術、人を動かす人心掌握術、こうしたところは学びたいと思います。
そんな中ですが、私の本業である三味線と小唄の演奏で、蔦重も「聞いたかもしれない」古い小唄を収録して、アルバムを出しました。
タイトルは『廓の夜』。
唄の場面は吉原遊郭。花魁、遊女の悲喜こもごもを歌った小唄ばかり。先ほどの雲母刷りを歌った「写楽」という小唄も収録。
配信リリースなので、検索すれば誰でもすぐ聴けます。しかし、
ただ聴くだけじゃわからないので、歌詞と解説をまとめたブックレットも出しています。これを読みながら聴くのが一番です。
それでは、まずは聴いてみてください。
宮澤やすみで「写楽」(古典小唄アルバム『廓の夜』より)。
特別展「蔦屋重三郎 コンテンツビジネスの風雲児」
2025年4月22日(火)~ 6月15日(日)
東京国立博物館 平成館
詳細:
https://tsutaju2025.jp/
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--おしらせ---
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1.
吉原の酔狂と悲哀を歌った古典小唄集
『廓の夜』 宮澤やすみ(唄、三味線、解説)
https://yasumimiyazawa.com/kuruwanoyorubook.html
歌詞と解説をまとめたガイドブック発売中
※楽曲はYoutube、Spotifyなどで誰でも聴けますが、これがあればよりよくわかる!
宮澤やすみ出演情報(これからとこれまで)まとめ
https://yasumimiyazawa.com/live.html
宮澤やすみ公式サイト:https://yasumimiyazawa.com