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第2回  仏像を所有し、生活の場に置くことの意味とは?


仏像を所有し、生活の場に置くことの意味

書斎に、リビングに、玄関に、仏像を置く……。
古くから伝わる仏像を、小さなサイズで精巧に再現できる技術が誕生し、仏像はインテリアの一つとして、家庭の様ざまな場所に飾ることが可能となりました。
これまで仏像は、寺院や博物館など公共の場にあるものでしたが、仏像を、個人が所有し、生活の場に置くことには、どんな意味があるのでしょうか。
 
仏像を親密な関わりの中に招き入れる

信仰の対象として寺院に安置される。歴史的遺物、伝統美術として博物館などに展示される。
そうした仏像は、いずれも誰のものでもないものとして現れます。
特定の仏像に対し個人的な思い入れを持っていても、その仏像を眺めることができるのは、特別なときだけでしょう。
この場合、私たちにとってその仏像は、単なる非日常的な存在となります。
 

 
それに対し、家の中に仏像を置くということは、仏像を日常空間の中に組み入れることであり、誰のものでもなかった仏像を、自分との親密な関わりの中に招き入れることとなります。
しかも、家の中に置く仏像は新しく作られたものでありながら、新しく作られたものではありません。
それは、数百年以上前、あるいは千年以上前からの長い歴史を背負っているからです。
現存する仏像を経年変化の跡も含めて再現することは、その歴史をも再現していると言えます。
仏像を造像した人々の思いその仏像に掛けられてきた願いその仏像の遍歴、そういったすべての歴史を、忠実に再現された仏像は継承しています(1)。
 
所有者自身が新たな歴史を作っていく

それだけではありません。忠実に再現された仏像を所有することは、仏像が背負ってきた歴史を継承することであるとともに、所有者自身が新たな歴史を作っていくことでもあります。
寺院と結びついていた仏像の歴史が、個人の歴史と結びつくことによって、その新しい歴史を刻むことになるのです。
個人向けに作られた仏像は、その限りではたくさんある製品のうちの一つですが、私たちがその仏像と共に生活していくことで、唯一のかけがえのない特別な存在になっていきます。
それぞれの所有者がそれぞれの仏像とかかわる中で、仏像の歴史は更新されていきます。
仏像と共に毎日過ごしていく中で起こった出来事も、仏像の新しいストーリーとして、その仏像に固有の個性を与えることになります。
かつて日本では、親から子へと受け継がれる家財道具というものが見られました。
個人向けに作られた仏像も家財として受け継がれるとすれば、個人の歴史としてだけでなく、家の歴史とも結びついて更新されていくことになるのではないでしょうか。
 
脚注
(1) オリジナルと複製品については、次回のコラムで考察します。
関連記事
・コラム第1回 「インテリアとしての仏像」が生み出す文化とは?
 

執筆者: 岡田基生
上智大学大学院哲学研究科・博士前期課程修了。専門は、京都学派の哲学。論文に、「歴史の動きに関する基礎的研究―後期西田哲学を手がかりとして―」(『哲学論集』/上智大学哲学会/2017年)などがある。