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彩色の見方

彩色仏像の受け止め方

原色そのままの極彩色に色付けられた仏像にちょっと違和感…。正直、よくわかりません!そう感じる方は多いようです。実際、復元予想の画像からは正直、そう思わざるをえません。 詫び寂びの言葉そのままの姿で今に伝わる仏像も、造像当時は詫び寂びとはかけ離れた鮮やかな極彩色で彩られていたようです。当時の彩色に使われたのは、鉱石や半貴石を砕いて作った岩絵の具でした。代表的なものは天然の辰砂(赤)、孔雀石(緑:マラカイト)、藍銅鉱(青:アズライト、ブルーマラカイト)、ラピスラズリ(紫)、そして本朱、胡粉、墨などで、一色一色が美しく輝くいわば宝石の粒子だったようです。 色彩は、同じ色味でもその素材によって全く印象が変わります。本朱で塗られた柱とペンキのそれとは全くの別物です。これまでも寺院に安置される仏像で極安価な絵の具で単純な色の塗り分け程度の彩色がなされているものを目にしてきましたが、このようなものが彩色仏像の一般的な印象になってしまわないよう、本当の色彩の魅力をお伝えしたいと思います。

きちんと彩色された仏像を前にした時、私たちはどのように受け止めたらよいのでしょう。不動明王を例にお話します。 様々な原色の中でまず気付くのは、引き込まれるような畏怖を感じさせる肌の群青と、恐ろしい気迫に包み込まれそうな火炎後背の真っ赤な本朱色。そして緑青、紫、赤、黄の鮮やかな衣、その表面には唐花や唐草、雲と様々な幾何学文様が描かれ、眩しく光り輝く首飾りなどのアクセサリー…。 不動明王の青と赤からは心の動揺を感じるかもしれませんし、金の線で描かれた文様の複雑さにくぎ付けになるかもしれません。自分がその時何を感じているかをじっと観察するのは面白いものです。そして彩色された仏像を見慣れて色彩をもっと楽しめるようになったら、金色に輝く如来、愛染明王の朱色、本来の朱色の阿修羅など造像当時のお姿を思い、それぞれの仏様の特色となる色の意味を想像するのもさらに深く面白いものです。

仏像彩色師 篁 千礼(たかむら ちひろ)/文

仏像彩色の技法

仏像を仕上げるには、大きく四種類の方法があります。

1.木地仕上げ

木地のまま、又は拭きうるしなどにより木目を損なわず仕上げる方法。

2.淡彩色仕上げ

ごく薄く溶いた水干絵の具、染料を用い 木地の風合い、美しさを活かした淡く柔らかな印象になる淡彩仕上げ

3.極彩色仕上げ

下地塗りから始め 重厚な彩色を施す技法 木地に貝殻の微粉末である胡粉という白い顔料を膠で練り溶かした絵の具を何層にも重ねてしっかりとした下地を作ります。水干絵具での下塗り、岩絵の具を膠で練り塗り重ね、重厚で美しい彩色を施します。

4.仏像彩色に欠かせない金を用いた装飾

1)箔押し 肌、宝珠、宝冠、瓔珞、腕釧等の部分に使われる金箔を漆で貼り付ける技法

 

2)金泥蒔き 漆を薄く塗った表面に金泥を蒔いてゆく技法、金箔を貼るのとは違う柔らかな表情になります。如来の肉身部分  は金泥蒔き、衣の部分は金箔にするというように使用されます。

 

3)截金仕上げ(きりかね) 金箔を数枚焼き合わせて厚くし、竹刀で極細く切ったものを貼り文様を描く

 

4)金泥書き 金泥を膠で練り、柔らかな線で自在に文様を描く技法。

これらの技法を駆使した彩色を美しさへと調和させる基本となる技法が次の二つです。

 

「紺丹緑紫」(こんたんりょくし) 青には赤、緑には紫という意味で色の対比を表しています。青と赤、緑と紫を美しく対比させる配色方法で、寒色と暖色、光と影、色の対比によって奥行が生まれ、お互いを引き立たせる色使いの方法です。

 

「繧繝彩色」(うんげんさいしき) 色のグラデーションを様式化した方法。同系色の色彩の濃淡を、暈(ぼか)しを入れず段階的に彩色することによって立体的効果を生み出す工夫です。外側の薄い色から内側(中心)に向かって濃い色にする彩色で、その逆に塗ることを「逆繧繝彩色」と言います。

 

このように様々な技法を組み合わせることによって、より複雑で味わい深い彩色となります。美しいと感じる彩色がなされた仏像には、総じてこのような技術が駆使されています。

彩色技術の見極め方

色彩や色調の受け止め方は人それぞれですから、自分の感性に正直になれば良いと思いますが、まとまりがなく配色に安直さを感じないか、技術は雑ではないか、稚拙さはどうか、そんなことに注意してご覧いただきたいと思います。  美しく澄んだ色調、すっきりと洗練された線、それぞれの造形にあった配色、仏像の種類に合った文様、それら全てが丁寧に、的確になされ全体的に上品で美しい調和を感じられるものが良い彩色仏像だと思います。  いにしえより寺院や山車など様々なものに色彩を用いた大胆な装飾がなされ、人々を元気づけてきました。“色づく”という言葉が表すように、色彩の持つ力、生命を生き生きさせる力を感じていただきたいと思います。