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第6回 仏像を見て、心が安らぐ心理状態とは?


仏像が与えるリラックス効果とは

じっと仏像を眺めていたら、なぜか安心感を覚え、リラックスできた――そんな経験をしたことはないでしょうか。仏像を見ていて、そのような心理状態が起こるのは、なぜなのでしょう。

もちろん仏像は、いつも心に安らぎを与えるものとして私たちの前に現れるわけではありません。例えば、三十三間堂の千手観音を前にして、記憶や書籍を頼りに、他の千手観音像と比較する場合を考えてみてください。あれやこれやと分析し、頭を働かせている限り、心が安らぐことはありません。注意を集中して仏像を鑑賞しても、科学者がリサーチするように仏像を調べ上げるようでは、心は疲労するばかりです。

では、仏像を見て心が安らぐのはどんなときで、どのようなメカニズムが働いているときでしょうか。仏像が与えるリラックス効果のヒントを得るために、ここでは、瞑想に関する心理学的な研究を参照してみましょう。


イスム 弥勒菩薩

仏教に由来する瞑想について

二十世紀の後半から心理学では、仏教に由来する瞑想についての実証的な研究が行われてきました。一般に、瞑想には、「集中型」と「洞察型」の2つのタイプの区別が認められます(1)。

集中型の瞑想とは、呼吸、ロウソクの炎、マントラ(呪文)など、何らかの対象に注意を固定して集中するタイプの瞑想です。集中型の瞑想を行うと、日常的な精神機能が抑えられ、注意が一つの対象に固定されることで、ある種の深い精神の集中状態がもたらされます。このタイプの瞑想は、ヨーガなど、さまざまな伝統の中に見られます。

洞察型の瞑想とは、注意を一点に固定することよりも、内面の精神機能の性質を洞察することの方に重点が置かれる瞑想です。南方の上座部(テーラワーダ)仏教の伝統的修行の中で行われていた「ヴィパッサナー瞑想」が、その代表的なものです。この瞑想は、1970年代にアメリカで心理療法として導入されるようになり、近年、日本でも「マインドフルネス・メディテーション」と呼ばれ流行しています。


イスム 菩薩半跏像

瞑想と「リラクセーション反応」

2つのタイプの瞑想には同様に、「リラクセーション反応」が見られることが認められています。酸素消費、二酸化炭素産出、呼吸数、心拍数、心拍出量、血圧、体温などを低下させ、皮膚抵抗の増大などを引き起こす働きを、心理学者の安藤氏は「リラクセーション反応」と呼んでいます(2)。

仏像を見て、直ちにこうした「リラクセーション反応」が得られるとは限らないでしょう。しかし、分析的に思考するのではなく、じっくりと仏像と向き合い、心が安らぐときには、集中型の瞑想を行っているときの心の状態と同一の状態になっているのかもしれません

このような状態は、仏像を見つめる人と仏像が一体となってこそ生まれるとも言えるかもしれません。この点については、改めて、この連載コラムで考えていきたいと思っております。

脚注
(1) 瞑想研究の第一人者であるゴールマンに由来する。Goleman, D. Meditation and Consciousness: An Asian Approach to Mental Health. Am. J. Psychotherapy., 30: 41-54, 1976. を参照。
(2) 心理学者 安藤治『心理療法としての仏教』/法蔵館(2003年)を参照。

読書案内
安藤治『心理療法としての仏教』/法蔵館(2003年)
スーザン・スモーリー他『マインドフルネスのすべて』/本間生夫/丸善出版(2016年)
恩田彰『禅と創造性』/恒星社厚生閣(1995年)

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執筆者: 岡田基生
上智大学大学院哲学研究科・博士前期課程修了。専門は、京都学派の哲学。論文に「歴史の動きに関する基礎的研究―後期西田哲学を手がかりとして―」(『哲学論集』/上智大学哲学会/2017年)などがある。