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時代のうつろいを感じる「みほとけのキセキ」展

”印象に残ったキーワードは「過渡期の様式」というもの。たとえば……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。仏像を歌う僕のバンド”The Buttz(ザ・ブッツ)”の配信ライブ、今週末です。歌に出てくる秘仏の撮影許可をいただけたので、仏像にしか興味ないという方もぜひご覧ください。

さて、先日は、静岡県の浜松市美術館「みほとけのキセキ」展に行ってきました。

なんといっても、「展示仏像すべて撮影OK」という前代未聞のサービスが功を奏したのか、すでにSNSではかなり盛り上がっているようです。(※フラッシュは禁止)。
僕が訪れたときも、みなさん一生懸命撮っていました。老婆心ながらアドバイスすると、撮るだけでなく、肉眼でもしっかり見るといいですよ。おうちに帰ってからの記憶の残り方がちがいます。


摩訶耶寺・千手観音菩薩立像。平安時代中期の一木造

今回の展示は、遠江・東三河の仏像をずらりと展示。
今で言うと、静岡県の浜松を中心とした県西部地域と、愛知県の豊橋市にあたります。
これは、浜名湖を中心とした文化圏に相当します。

古くは、滋賀の琵琶湖が「近ツ淡海(ちかつあはうみ)」と呼ばれ、縮めて「近江(あふみ=おうみ)」、
浜名湖は、「遠ツ淡海(とおつあはうみ)」で、縮めて「遠江(とおとうみ)」となりました。

古代の人々にとって、遠江は東国へ向かう重要な交通路でした。
坂上田村麻呂が東征の際に座って休憩したという峠が、「寸座」という駅名になっていたりします。

今回の展示の仏像は、ほとんどが聖武天皇創建伝承のある、古いお寺のものです。

そこに伝わる仏像は、都の文化を取り入れながら、この地域なりの美意識で造られています。

印象に残ったキーワードは「過渡期の様式」というもの。

たとえば、2階にある豊橋・普門寺の釈迦如来坐像は、制作年代は12世紀。この時代に流行ったのが「定朝様(じょうちょうよう)」というスタイルで、たしかに薄い衣の表現やおだやかな表情に、その様式が見えます。
つぶつぶ型の螺髪が、おでこの際に水平に並んでいるのを見ても、定朝様のセオリーをきっちり学んでいるように思えます。


普門寺の釈迦如来坐像(写真左)と阿弥陀如来坐像(右)

しかし、体つきを見ると肩幅ががっしり広く、量感のあるたくましいお姿。そして目がいくのは高く盛り上がった肉髻(頭頂部)です。定朝様の仏像だと、肉髻は低くなだらかな形になるものですが、ここはちがうんですね。
どちらかというと、前時代の京都神護寺・薬師如来立像に通じるような、あそこまで誇張されてはいないとしても、それを思い出させるものがありました。

こうした逞しく力強い造形は、教科書どおりにいけば「平安前期」の作風になるのですが、この仏像は平安後期で、ざっと100~200年くらい時代のズレがあります。
つまり、古い様式と新しい様式がブレンドされているところが、「過渡期の作風」といわれるゆえんです。

歴史の中で、文化はそんなに急にガラッと変わることはない。
たとえば平成の時代にEXILEが流行ったといっても、みんながすべてEXILEを聴いていたわけではなくて、ビートルズやベートーヴェンを楽しんだり、僕のように明治大正の音楽をわざわざ勉強して演奏する人も同時にいるわけです。
歴史を学ぶときに、ざっくりと「●●時代」と線引きして区別しがちですが、実際は過去の文化が積み重なって同時に存在しているものなんですよね。


こちらは西楽寺の阿弥陀三尊像。衣や顔立ちは平安後期らしい優美な表現だが、その後の鎌倉時代に流行した玉眼が入っているそうで、興味深い作例のひとつ

そして木材の使い方も、大きな木材ひとつを割って組み合わせて造ったとのこと。図録の解説を引用すると、
「東三河地方は山間部が多く、巨木を得ることが比較的容易であったため、大きな仏像を一材から彫る風潮が(中略)残ったものと推測」とのこと。量感たっぷりの仏像には、そんな地域性も関係しているのでしょう。


がっしりした体格が頼もしい、普門寺の釈迦如来坐像

ぼくは今回、天浜鉄道で浜名湖北岸を見て回りましたが、たしかに車窓の一方は穏やかな湖が見えるのに、反対の車窓を見ると、山が迫ってその隙間に里があるような感じで、けっこう山深い地域なんだなと実感しました(この話はまた後日)。
このような地勢が、良質の木材と仏教文化を育んだのでした。


このほかの仏像も、平安時代の定朝様から鎌倉の新様式(慶派に代表されるリアルな造形)に移る過渡期の姿もあって、時代のうつろいを感じさせる興味深い展示になっています。

最後に、「みほとけのキセキ」オフィシャルサポーターで、ぼくの仏像仲間でもある久保沙里菜さん(フリーアナウンサー)のコメントをどうぞ。

「今回ガラスケースなしの露出展示で仏像を間近で見ることができます。また、360度ぐるっと見られる仏像もあるので普段は絶対見られない後ろ姿に大興奮しました。そしてなんと全ての仏像写真撮影OK!
こんな贅沢な特別展はなかなかありません。ぜひお越しください!」(久保沙里菜)


ちゃぶ台でくつろいでる姉妹に見えるけど、仏像好き芸人みほとけさん&久保沙里菜さんの等身大パネルです。ほかに仏像イラストレーター田中ひろみさんや安達えみさんなど僕のブツ仲間が勢ぞろいして頼もしい限りです

彼女はYoutubeでも活躍中で、ぼくのバンドThe Buttz(ザ・ブッツ)の『欣喜雀躍』というアルバムにもゲスト参加しているので、ぜひ聴いてください(下記URL)。



それでは聴いてください。
中島みゆきで「時代」(ライヴ2010~11)



(参考リンク)

【みほとけのキセキ-遠州・三河の寺宝展-】
2021年3月25日(木)~4月25日(日)
月曜休館
午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
浜松市美術館
詳細は
 https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/artmuse/


【圧巻】オフィシャルサポーターが話題の特別展を最速で見てきた【浜松市美術館】
久保沙里菜「さりーなちゃんねる」
 https://youtu.be/JJwkvlmQ6Wk



●おしらせ
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.(配信ライブ)
宮澤やすみ出演(配信)
仏像バンド”The Buttz(ザ・ブッツ)”復活記念配信ライブ
春のお寺をめぐり、新生メンバーでの仏像ソングをお届けします。
4月10日(土)19:30から(いつでも視聴可)
宮澤やすみYoutubeチャンネルにて
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa


2.(アルバムCD,ダウンロード)
久保沙里菜の「仏像ニュース」収録
仏像バンド”The Buttz(ザ・ブッツ)”『欣喜雀躍』ほか発売中
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)


3.(著書)
宮澤やすみ監修 中村文人著
『仏像”ここ見て”調査隊 奈良編』
『仏像”ここ見て”調査隊 京都編』
くもん出版から発売中
https://amzn.to/3dDMYpn



宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m