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第294回 派閥を超えた先の”自由な派閥”「プチパレ美術館」展
”なんとか派、なんとかイズム、ってのももう疲れたよね、今なら若者のイズム離れとか言われそうで--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ソロライブ「ひとりワロス」最終回をこの後の日曜に控え緊張気味の宮澤やすみです。このあとは出番がほぼなく浪人生活となるので、この機会に初めての人もぜひ来てください。
さて、只今は夏の美術展開幕のシーズン。今回も美術館の話題でございます。
新宿のSOMPO美術館で開幕している「スイス プチ・パレ美術館展」を取材してきました。
フランス近代絵画の流れがよくわかる、終わった後にアフタヌーン・ティーでもいただきたくなる瀟洒な展示です。
スイスにあるプチ・パレ美術館の外観。貴族のお屋敷にお呼ばれ、みたいな気分
「プチ・パレ」の「プチ(Petit)」は「小さな」という意味、「パレ(Palais)」は「宮殿、大邸宅」という意味でして、わたくし現地のプチパレ美術館を見ていますが、たしかに豪華な大邸宅で、それでいて宮殿と呼ぶには小さく、ほどよい規模でかわいらしい建物です。
りっぱな「大邸宅」なのに「小さい」という、小粋なエスプリってやつでしょうか。エスプリという言葉も最近聞きませんが。
ともかく、「プチ(小)」が付くことに意味があるのです。私の専門である「小唄」にも通じますけれども、ちょっとした唄といいながらじつは奥深いという、謙譲の意味が込められていて、「プチ(小)」なりの哲学を感じるのでございます。
子供向けにプチ・パレ美術館のペーパークラフトも販売。思い出を絵日記にしようという趣向。できれば現地を訪問したいところ
展示は、フランスの印象派の流行を受けて学んだ画家たちの作品を展示。
印象派以降のさまざまな絵画様式の変遷をたどっています。
「あいつら(印象派画家)がそうくるなら、オレはこうやる」という感じで、19世紀末のトレンドは、必ずしも印象派の一枚岩ではなかったようです。
展示を進むごとに、「後期印象派」「ナビ派」「フォービズム(野獣派)」「キュビズム(立体派)」そして「エコール・ド・パリ」と、当時めまぐるしく登場した絵画の動向が出てきます。
大胆な筆致が特徴のフォービズム絵画。アンリ・マンギャン《室内の裸婦》など
コンパクトな展示のおかげで、そのめまぐるしさに混乱することもなく、なるほど絵画のアプローチが異なるとこうなるんだな、ということがわかります。
あらゆる視点をひとつの画面に構成するキュビズム絵画。マリア・ブランシャール《静物》など
最後の「エコール・ド・パリ」は、二度の大戦の間の自由な気風に乗って、「いろいろ実験したけど、もう好きにやろうや」という時代の空気が感じられます。
商業ポスターの元絵として描かれた《猫と一緒の母と子》(テオフィル=アレクサンドル・スタンラン)をはじめ、キュビズムの難解な絵の後で見ると、正直ほっとします
なんとか派、なんとかイズム、ってのももう疲れたよね、今なら若者のイズム離れとか言われそうですけど、どの派閥にも属さない自由な画風、とのことで、やっぱり群れをきらうアーティストはそうなりますよね。
でも群れないでいたことが、かえってひとつの群れに属されてしまうのね、という、近代アート界の矛盾というか悲哀というか、そういうものを感じました。
仏像界隈でいえば、自由なスタイルで彫った五百羅漢なんかがお寺の境内にあったりしますけど、あれも自由に作ろうとして似たような造りになってしまう現象、そんなところに当てはまるかもしれないですね。
今ならインスタにありそうなヴァロットンの日常スナップ作品《身繕い》。奥はユトリロの作品
じつは、わたくし会社員の時代にスイス・ジュネーヴに仕事で滞在しており、このプチ・パレ美術館も訪れているはずなんです。
当時の記憶があいまいなので、前を通っただけかもしれませんが。ジュネーヴの観光案内に必ず載るような人気スポットだったと思います。
古いアルバムめくり……当時の写真がありました。1995年私が現地で撮影したプチ・パレ美術館。「20世紀の夜明け(
L'Aube du XXe siecle)」と題した展覧会をやってたようです
ジュネーヴ滞在は、時間に追われることもなく、休日は旧市街をそぞろ歩いたり、避暑地ヴヴェイやローザンヌに足を延ばしたり、ヨーロッパの落ち着いた風情を楽しみました。
こちらも私が撮影したジュネーヴの街並み。レマン湖に噴き出す噴水「ジェドー(Jet d'Eau)」が街のシンボル
滞在したホテルの従業員さんが、日本文化が好きな詩人で、その縁で彼自作の詩を和訳して毛筆で書いてあげたら大変よろこんでもらえました。会社の仕事そっちのけで、日本人のアイデンティティとして日本文化を知っておくことの大事さを思い知ったものでした。
その後いろいろあって会社をやめて、三味線を手にして、日本文化、仏像の取材をするようになり、今は三味線ミュージシャンが本業になってしまっているのだから、人生わかんないものですね。
美術館ネタがつづいたので、次回からは寺社の話題に戻ります。
それでは聴いてください。
ティアーズ・フォー・フィアーズで、「ルール・ザ・ワールド(Everybody Wants To Rule The World)」。
【スイス プチ・パレ美術館展
印象派からエコール・ド・パリへ】
SOMPO美術館
2022年07月13日(水)~10月10日(月)
毎週月曜休館
詳細は↓
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2021/petit-palais/
---おしらせ---
(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
2022/7/24(日)15:30開演
上野広小路/御徒町 ワロスロード・カフェ
本職の小唄など三味線音曲をゆるりと。詳細後日。
2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ
宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/
3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。
こんにちは。ソロライブ「ひとりワロス」最終回をこの後の日曜に控え緊張気味の宮澤やすみです。このあとは出番がほぼなく浪人生活となるので、この機会に初めての人もぜひ来てください。
さて、只今は夏の美術展開幕のシーズン。今回も美術館の話題でございます。
新宿のSOMPO美術館で開幕している「スイス プチ・パレ美術館展」を取材してきました。
フランス近代絵画の流れがよくわかる、終わった後にアフタヌーン・ティーでもいただきたくなる瀟洒な展示です。
スイスにあるプチ・パレ美術館の外観。貴族のお屋敷にお呼ばれ、みたいな気分
「プチ・パレ」の「プチ(Petit)」は「小さな」という意味、「パレ(Palais)」は「宮殿、大邸宅」という意味でして、わたくし現地のプチパレ美術館を見ていますが、たしかに豪華な大邸宅で、それでいて宮殿と呼ぶには小さく、ほどよい規模でかわいらしい建物です。
りっぱな「大邸宅」なのに「小さい」という、小粋なエスプリってやつでしょうか。エスプリという言葉も最近聞きませんが。
ともかく、「プチ(小)」が付くことに意味があるのです。私の専門である「小唄」にも通じますけれども、ちょっとした唄といいながらじつは奥深いという、謙譲の意味が込められていて、「プチ(小)」なりの哲学を感じるのでございます。
子供向けにプチ・パレ美術館のペーパークラフトも販売。思い出を絵日記にしようという趣向。できれば現地を訪問したいところ
展示は、フランスの印象派の流行を受けて学んだ画家たちの作品を展示。
印象派以降のさまざまな絵画様式の変遷をたどっています。
「あいつら(印象派画家)がそうくるなら、オレはこうやる」という感じで、19世紀末のトレンドは、必ずしも印象派の一枚岩ではなかったようです。
展示を進むごとに、「後期印象派」「ナビ派」「フォービズム(野獣派)」「キュビズム(立体派)」そして「エコール・ド・パリ」と、当時めまぐるしく登場した絵画の動向が出てきます。
大胆な筆致が特徴のフォービズム絵画。アンリ・マンギャン《室内の裸婦》など
コンパクトな展示のおかげで、そのめまぐるしさに混乱することもなく、なるほど絵画のアプローチが異なるとこうなるんだな、ということがわかります。
あらゆる視点をひとつの画面に構成するキュビズム絵画。マリア・ブランシャール《静物》など
最後の「エコール・ド・パリ」は、二度の大戦の間の自由な気風に乗って、「いろいろ実験したけど、もう好きにやろうや」という時代の空気が感じられます。
商業ポスターの元絵として描かれた《猫と一緒の母と子》(テオフィル=アレクサンドル・スタンラン)をはじめ、キュビズムの難解な絵の後で見ると、正直ほっとします
なんとか派、なんとかイズム、ってのももう疲れたよね、今なら若者のイズム離れとか言われそうですけど、どの派閥にも属さない自由な画風、とのことで、やっぱり群れをきらうアーティストはそうなりますよね。
でも群れないでいたことが、かえってひとつの群れに属されてしまうのね、という、近代アート界の矛盾というか悲哀というか、そういうものを感じました。
仏像界隈でいえば、自由なスタイルで彫った五百羅漢なんかがお寺の境内にあったりしますけど、あれも自由に作ろうとして似たような造りになってしまう現象、そんなところに当てはまるかもしれないですね。
今ならインスタにありそうなヴァロットンの日常スナップ作品《身繕い》。奥はユトリロの作品
じつは、わたくし会社員の時代にスイス・ジュネーヴに仕事で滞在しており、このプチ・パレ美術館も訪れているはずなんです。
当時の記憶があいまいなので、前を通っただけかもしれませんが。ジュネーヴの観光案内に必ず載るような人気スポットだったと思います。
古いアルバムめくり……当時の写真がありました。1995年私が現地で撮影したプチ・パレ美術館。「20世紀の夜明け(
L'Aube du XXe siecle)」と題した展覧会をやってたようです
ジュネーヴ滞在は、時間に追われることもなく、休日は旧市街をそぞろ歩いたり、避暑地ヴヴェイやローザンヌに足を延ばしたり、ヨーロッパの落ち着いた風情を楽しみました。
こちらも私が撮影したジュネーヴの街並み。レマン湖に噴き出す噴水「ジェドー(Jet d'Eau)」が街のシンボル
滞在したホテルの従業員さんが、日本文化が好きな詩人で、その縁で彼自作の詩を和訳して毛筆で書いてあげたら大変よろこんでもらえました。会社の仕事そっちのけで、日本人のアイデンティティとして日本文化を知っておくことの大事さを思い知ったものでした。
その後いろいろあって会社をやめて、三味線を手にして、日本文化、仏像の取材をするようになり、今は三味線ミュージシャンが本業になってしまっているのだから、人生わかんないものですね。
美術館ネタがつづいたので、次回からは寺社の話題に戻ります。
それでは聴いてください。
ティアーズ・フォー・フィアーズで、「ルール・ザ・ワールド(Everybody Wants To Rule The World)」。
【スイス プチ・パレ美術館展
印象派からエコール・ド・パリへ】
SOMPO美術館
2022年07月13日(水)~10月10日(月)
毎週月曜休館
詳細は↓
https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2021/petit-palais/
---おしらせ---
(おしらせ)本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報
1.
宮澤やすみソロライブ「ひとりワロス」
2022/7/24(日)15:30開演
上野広小路/御徒町 ワロスロード・カフェ
本職の小唄など三味線音曲をゆるりと。詳細後日。
2.
日本書紀を歌った新作MV「欣喜雀躍」宮澤やすみ アンド・ザ・ブッツ
宮澤やすみYoutubeチャンネル
https://www.youtube.com/c/YasumiMiyazawa/
3.
宮澤やすみソロアルバム発売中
『SHAMISEN DYSTOPIA シャミセン・ディストピア』
購入は「やすみ直販」で
http://yasumimiyazawa.com/direct.html
(ネット決済のほか、銀行振込、郵便振替も対応)
宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m