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醍醐寺から来た座主の「如意輪推し」-石山寺・如意輪観音の旅 その6

”それまでに見たことがなかったような特徴のある仏の姿に、人々は怖れながらもより強い霊験を期待したことでしょう……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。ここ数回は、滋賀・石山寺をテーマにブツブツ書いております。

※出かけたのは6月、ちょうど緊急事態が解除され状況が収まりかけていたタイミングでのこと。現地に迷惑を掛けないよう、充分に感染対策しての旅でした。

前回は、石山寺の歴史を追って、「観音」が「如意輪観音」となるプロセスを見ました。

さて、石山寺の境内は、いろんなお堂があちこちに建っています。
毘沙門堂は先の記事で紹介しましたが、その向こうに見えるお堂が御影堂です。


石山寺の境内。画面右奥に見えるのが御影堂


「御影堂」というと、仏像ファンやお寺ファンの人なら、弘法大師・空海を祀るお堂というイメージがあるかもしれません。
ぼくもそういうつもりでこのお堂にもお参りしました。
弘法大師といえば、特徴のあるあのポーズ。
金剛杵をもった右手をひねって、自分の胸前に掲げている、有名なポーズがあります。

それをイメージしながら、中を覗いてみると、アレ?ちがう。

右手は膝に下していて、左手は数珠をもっている。
お顔は柔和で、ほほえんでいるようにも見えて、やさしそうなおじいちゃんに見えます。

背後には弘法大師の掛け軸があって、その前に座るこの方はどなたでしょうか?

じつはこの方、淳祐内供(しゅんにゅうないく)というお名前で、石山寺の第三代座主です。


奥の掛軸が弘法大師。手前が淳祐内供の像。室町時代作の塑像

菅原道真の孫で、真言宗・醍醐寺の観賢(かんげん)を師として醍醐寺の僧だったお方です。
観賢のあと醍醐寺座主となるはずでしたが、身体に障害があって辞退。石山寺に移って修業と著作に専念しました。

この人の生きた時代は、寛平2年(890)~天暦7年(953)。

ここで、前回記事の年表の3.を参照していただきたいのですが、石山寺の本尊を「如意輪観音」とする初めての文献『三宝絵』が成立する直前の時代に、石山寺で座主を務めていらしたことになります。

そして、淳祐内供は醍醐寺の出身。
醍醐寺は、弘法大師空海の真言密教を受け継ぐ聖宝(しょうぼう)が創建した真言宗の寺。修験道の寺院としても大きな勢力を誇ります。

そんな醍醐寺出身の、いわばゴリゴリの真言密教の人が石山寺の座主を務めました。
(淳祐内供の師匠である観賢も、石山寺の二代目座主を務めたそう)

そんな事情で、石山寺は、創建は奈良時代にさかのぼるものの、平安時代にはすっかり醍醐寺由来の真言宗のお寺となっていたのでした。

空海は、「密教」のインフルエンサー。唐で学んだ密教を日本にもたらし、あたらしい仏教として密教をアピールしました。
なかでも真言宗は空海直系の宗派です。
密教が平安の世に流行する成り行きは、ぼくの著書『仏像の光と闇』をご参照ください。

真言宗では、奈良の時代には存在しなかった、さまざまな仏の尊格が登場します。

不動明王など、恐ろしい形相の「明王」などが代表的な存在なんですが、観音菩薩も変化して、そこで登場するのが「如意輪観音」なのでした。

それまでに見たことがなかったような、特徴のある(キャラが立っている)仏の姿に、人々は怖れながらもより強い霊験を期待したことでしょう。

平安時代中期は、まさに密教が時代の主流であります。

石山寺も、この時代の流れに乗って、醍醐寺と結びつき(両寺は山を挟んでお隣同士の位置関係にある)、空海ゆかりの真言宗の寺院として隆盛します。

そして、石山寺で活動した淳祐内供は、どうやら如意輪観音の信仰が強かったようです。


今風にいうと、「如意輪推し」ってやつです。

むりに今風に言わなくてもいいんですが、どこかしらにゆるさを入れたくなるのが筆者の性分なのでお許しください。

そんな淳祐内供の「推し」と、醍醐寺とのつながりから、都の大寺院が醍醐寺との提携関係を結んでいく様が見えてきます。

まるで「半沢直樹」ばりの、組織同士のマウント合戦。そのへんも次回から少しずつ見ていきたいと思います。


(参考)
大本山 石山寺公式ホームページ
https://www.ishiyamadera.or.jp





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アルバムジャケットは飛鳥・橘寺の風景。手前の礎石は石山寺の石を使った川原寺の復元



宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m