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鉈彫り観音の魅力再発見-特別展「横浜の仏像」

”こういう細部は、明るい展示室で初めて見られたもので、お寺ではここまで見えませんでした……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。最近は海外からの依頼が何件か続き、自宅でコツコツと三味線レコーディングをしている宮澤やすみです。
コロナのおかげで返って海外の人とつながるという、ひょうたんから駒みたいな事態になってます。

さて、仏像ファンの間ですでに話題になっている特別展「横浜の仏像」。わたしもやっと行ってきました。
横浜市歴史博物館で3月21日まで開催です。

いきなり私事で恐縮ですが、筆者は近隣の神奈川県立横須賀高校の出身でして、住んでいたのは逗子市。
地元では、「よここう出身です」といえば誰もが「横須賀高校」と理解するのですが、ひと山越えて横浜市に入れば、「よここう」と言うと「横浜高校」なんですよね。

「横浜市民は、自分を”神奈川県出身”と言わず”横浜出身です”と言う」とかなんとか、横浜人のプライドの高さが笑い話になったりしますが、横浜というのは、神奈川県のなかで特別な地域であります。

歌の世界では「港のヨーコ、ヨコハマヨコスカ」と、一緒くたにされる地域ですが、海と山しかない三浦半島育ちの子供にとっては、きらびやかな「横浜」という存在は、あこがれと羨みとほんのりとした嫉妬を抱かせる、近くて遠いような存在でありました。
(大人になって京浜急行で毎日上京するようになると、そんな印象は消えるんですけどね)

ただ、そんな横浜のイメージは、山下公園やみなとみらいなどの港湾エリアだけに限ったもので、本当は「横浜」はじつに広い。
しかも、歴史をたどれば「横浜」の深みも見えてくるのです。
今回の特別展に寄せられた、横浜市教育委員会教育長の鯉渕信也氏の言葉を引用すると、

「横浜の歴史といえば、開港期以降を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、本特別展を通じて、横浜の歴史の奥深さや魅力を再認識」
できる、絶好の機会なのでありました。

日本仏像史研究で高名な山本勉先生の監修もあって、古代から南北朝あたりまで、およそ一千年間の仏像の歴史を把握することができる展示になっています。
横浜という一地域の仏像だけを扱っていながら、とぎれなく歴史を網羅するというのは珍しいのではないでしょうか。同時に、横浜という地域が古くからいかに重要な地域であったか、を感じます。


展示冒頭。大きく破損するも価値が認められた阿弥陀如来坐像(向導寺蔵)。この像のみ撮影可

個人的に印象に残った仏像は、

まず飛鳥時代の金銅仏。飛鳥時代の前期(止利様式)に見られる微笑と、後期(いわゆる白鳳文化初唐様式)の張った胸や肩幅、シンプルな衣文線が混じるデザインが興味深いです。
江戸期には八幡神社のご神体だったというエピソードも、神仏習合ファンとして惹かれるものがあります。下記のリンクに写真が出ています。

つぎに、チケット(写真)やポスターにも載っている、素地仕上げの素朴な薬師如来立像(證菩提寺)。大きな頭を前に出して、「はい、どうしました~」と聴診器を差し出す町のお医者さんみたい。


受付でもらえる「観覧記念券」。次回これを提示すると「リピーター割引」が受けられる

あとはやはり、弘明寺の十一面観音菩薩。横浜を代表する鉈彫り仏です。全体にノミ跡が付けられているのは、霊木が仏の姿に「化現」する様を表現したと言われます。ノミ跡には意味があるわけです。

よく見ると、顔の部分だけ細いノミを使って丁寧にノミ跡が彫りつけられています。衣と肌を区別するためかと思いきや、腕や足の部分は、衣と同じ太さのノミでザクザクと彫られていますから、面相部には特別に何らかの想いを込めたのでしょうか。その理由は不明であります。


弘明寺本堂にて十一面観音を撮影。NHK番組収録のときに許可を得て撮らせてもらいました

頭上の突起は、「立像化仏」だそうです(図録解説より)。ほとんど人の形をしていませんが、これが返ってジャコメッティの彫刻を見るような思いを抱かせて、彫刻の美しさとしても抜群だと思います。
こういう細部は、明るい展示室で初めて見られたもので、お寺ではここまで見えませんでした。

ちょっと離れて、横からお顔を見ると、眉がキリッと上がって、ちょっと笑みをたたえた口元で、「エッヘン」と自信満々に胸を張った王子、といった雰囲気に見えます(妄想すみません)。

お寺では厨子に入り側面や背後が見られません。この機会にお見逃し無いようどうぞ。

展示は平安後期以降へとつづき、運慶と慶派の展開も目を見張るものがあります。ぜひ展示室でご覧ください。


それでは聴いてください。
クレイジーケンバンドで「愛があるなら年の差なんて」



特別展【横浜の仏像】
2021年1月23日~3月21日
横浜市歴史博物館 企画展示室
https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/hama_no_butsuzo/


(参考記事)
【タウンニュース神奈川区版】
区内ゆかり 横浜最古の仏像 市歴史博物館に展示中
https://www.townnews.co.jp/0117/2021/02/25/563162.html



●おしらせ
本コラム筆者・宮澤やすみ関連情報

1.
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2.
宮澤やすみ監修 中村文人著
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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m