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観音は女性?男性? 意外と悩む答え方

”現代の我々は観音=女性的というイメージを持ちますが、その発端はどこにあったんでしょうか……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。先日のライブでは、クセ強めの髪の毛が梅雨の湿気でどうしてもまとまらず爆発したようなヘアスタイルで出演しました宮澤やすみです。よく言えば芥川龍之介みたいとも言えます。

前回は仏像めぐりツアーでの経験を書きましたが、もう少し続きます。

観音めぐりツアーなどで、必ず聞かれることといえば、

「観音さんは、男なの?女なの?」

という話題。
これ基本的な話題なんですけど、言い方がなかなかむずかしいものでして。


飛鳥・橘寺にて。ここの如意輪観音さんはおっとり型といいますか、男性とも女性ともつかないおだやかなお顔

当時、ツアーの参加者は、だいたい自分の母の世代に近い奥様方でした。それなりに信心のある方がほとんどです。

このへん、客筋によって反応がだいぶ変わってくることなんですけど、おおよそこういう層の方々の場合、答えはすでに自分のなかにあったりするんですよね。
質問に答える側である我々ガイド役が、そのお客様の心のなかにある答えを言ってあげることで、満足するのです。
本当のことを知りたいんじゃなく、「共感」したいということ。

「そうですね~ この観音さまはね、お母さんなんですね」
とか言いきってしまえば、「共感」は得られて、お客様満足度は高まります。
お坊さんなんかは、方便の一環として、宗教的立場からこういうふうに言い切ってしまうことが多いです。
うらやましい。

いっぽう、ぼくのような「センセイ」と呼ばれるカテゴリの人は、迷います。

「菩薩は一般的に、釈迦の王子の時代の姿をもとに作られるから、基本的には男性なんですね」
「ただ、観音は慈悲の菩薩と言われ、その慈悲を強調したり、十一面観音などは密教的な図像から女性的な姿で描かれることもあり、それが流行したんです」

とか言ったって、バスツアーの奥様方は、斜め掛けポシェットのベルトを握りしめて、日除けの帽子の陰で残念そうな顔をするだけで、なかなか「共感」は得てもらえないのです。

共感を得ようと無理して「お母さんなんですね」と言い切ってしまうのも、立場上むずかしい。
「観音様はお母さま」という言葉は、比喩としてポエムの領域で言えば美しいですが、センセイ役だと言いづらいんですよ。
仏像ソングを歌うアーティストとしてだったら、言ってしまえると思いますけどね。


ツアー客が同世代くらいの場合もあり、そんなときはバカ話を交えた仏マニアトークに花が咲いたものでした

「大人のコミュニケーション力」に詳しいコラムニストの石原壮一郎さんと、ノンフィクション作家・髙橋秀実さんによる対談記事が非常に示唆に富んでいます。高橋氏の言葉を引用します。

”「みなさんこうだと思ってるでしょうが、じつはこうなんです」みたいな話をしても、だめかもしれません”
「どうにも本が売れません」出版人のための悩み相談室-方丈社HPより)

観音さんの話もまさにこれで、「じつはこう」という話はまったく期待されてないのでした。
繰り返しますが、客筋によってだいぶ変わってくることなんですけど、高齢層の楽しい観光バスツアーの時間では、こんな感じでした。

逆に、著書とかこの連載などで、じっくり読んでやろうという方々にとっては興味深く思ってもらえる話だと思うので、この連載に書いている次第です。

観音像は、飛鳥の時代には王子様チックな若い男性の姿。女性らしさが出るのは奈良~平安初期の十一面観音において。それでもセクシーとは異なる厳格なスタイルです。千手観音なんかは性別を越えて荘厳な存在感を発揮します。如意輪観音には艶めかしい姿もありますが、男性的な像もたくさんある。
だから、仏像ファンの目線だと、観音だからすべて女性的というイメージは、あんまり無いはずです。


戦後に造立された東京・長谷寺の大観音。聖子ちゃんカットでいかにも女性的

それがなぜか、現代の我々は観音=女性的というイメージを持ちますが、その発端はどこにあったんでしょうか。
おそらく、近世になって登場した、白衣観音とか慈母観音とか、白いベールをかぶったまさしく女性的な石像などが、影響しているのではないでしょうか。


秩父・金昌寺の慈母観音は、キリシタンのマリア信仰との関連も指摘されている

観音は、人々の願いに応じて変化(へんげ)するのが基本です。
だから、いろんな姿があっていいのですが、近世以降の人々は女性的な愛情を観音に求め、それに応えるかたちで女性的な観音像が多く造られた。
ちゃんと期待に応え、人々の「共感」を勝ち得た観音菩薩。
人気を持続する秘訣を教えてもらった気持になりました。


それでは聴いてください。
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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m