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第279回 福岡・筥崎宮-「敵国降伏」扁額に込められた「徳の力」

”「降伏」という言葉にどんな意味があるんでしょうか--”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。新曲「一木造」など準備中の宮澤やすみです。自分のバンド、The Buttzの久しぶりのライブ、出番めったにないのでどなたもぜひ。

先日取材で訪れた九州・福岡ですが、地元の大きな神社である筥崎宮(はこざきぐう)にも行ってきました。
なんといっても筥崎宮で目立つのが、楼門の「敵国降伏」の扁額です。


筥崎宮、一の鳥居前

なかなか強力なワードがいきなり目に入ってくるわけですが、この地は歴史上、外国への玄関口であり聖も邪もやってきた場所ですから、切実な願いが込められていたようです。


「敵国降伏」と書かれた楼門の扁額

筥崎宮の創建もこの言葉がきっかけみたいなもので、
延喜21年(921年)に、時の醍醐天皇がこの四文字ワードの宸筆(天皇みずからの書)を下賜したのがはじまりだそうですから、もとから外敵へ睨みをきかせる目的があったといえます。
その後も、時の天皇や上皇から、「敵国降伏」の宸筆が下賜されたそうで、古来日本は言霊の国ですから、この四文字に大きな力を感じていたんじゃないでしょうか。


現在の楼門は文禄3年(1594)の建立。伏敵門とも呼ばれる

現在の扁額については、鎌倉時代の蒙古襲来の時代に下ります。
文永11年(1274年)の蒙古襲来(文永の役)で境内は炎上。時の亀山上皇は再建に尽力し、自らの筆による「敵国降伏」を奉納します。
のちに楼門が建つときに、この宸筆を写して作った扁額を掲げました(現在は複製を使用)。

ご存知のとおり、その後の弘安の役(1281年)で蒙古襲来を食い止めることができたわけですが、日本のトップの強力なメッセージが、国の玄関口であった筥崎宮に掲げられていたのでした。

お宮は福岡の海岸(箱崎浜)に面していて、境内全体は海の白砂に覆われています。
その中でも浜の砂をお祓いした「お潮井砂」にご利益があるとされ、参拝者が持ち帰って災いを払うお守りにする風習が古くからあります(2022年2月現在コロナ感染対策で砂の授与は休止)。


やわらかい白砂で覆われた境内

そんな、海の玄関口のキワキワに位置する神社ですから、外敵に対する防御拠点になるわけです。

それにしても、「敵国降伏」という言葉の威力が強烈なんですけど、ここでの「降伏」という言葉にどんな意味があるんでしょうか。

一般的な現代語で「降伏(こうふく)」は戦争用語になりますが、ここでの「降伏(ごうぶく)」は仏教用語です。

『精選版 日本国語大辞典』によると、

”① 神仏の力や、またはその法力によって、悪魔、煩悩、怨敵などをとりしずめること。調伏(ちょうぶく)。折伏(しゃくぶく)”


また、筥崎宮の楼門下にもこんな説明が書いてありました。

”(敵国降伏)の意味は武力で相手を降伏させる(覇道)ではなく 徳の力をもって導き 相手が自ら靡(なび)き降伏するという王道である”

とのこと。
要は、ただ力で押さえつけるのとはちがうようですね。


境内末社の池島殿(祭神は宗像三女神)は手足の守り神とされ、たくさんの草鞋が奉納されている

さらに、同義語の「調伏」をみてみると、

”① (「ぢょうぶく」とも) 仏語。怨敵、悪魔、敵意ある人などを信服させ、障害を破ること。また、身心をととのえて、悪業や煩悩などを除くこと。降伏(ごうぶく)”

とあります。
このなかで「敵意ある人などを信服させ」という箇所が、「徳の力で導き」ということにつながるのでしょうか。

相手を信服させる徳の力とは、凡人の私にはまったく持ちえませんが、一国の主には権力や独裁じゃなくて、相手の心まで導くような「徳の力」を持っていてほしいものですね。

ロシアによるウクライナ侵略が深刻化しているなか、ちょうどこの扁額を思い出してご紹介しました。

それでは聴いてください。
デヴィッド・ボウイで、「気の触れた男優 Cracked Actor」。




---おしらせ---

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宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m