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ユーモラスな造形に宿る民俗信仰「人形道祖神」
--「特異な形に見えるけどその目的は、日本の各地にある素朴な信仰そのものなんですね」
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ--
こんにちは。勢いでレコードを買ってしまったあと、プレーヤーを買うつもりが意外と高いことに気づき、未だにレコード聴けていない宮澤やすみです。
そんな中ですが、前回は武蔵野美術大学美術館の企画展「手のかたち・手のちから」をご紹介しました。
その展示の別室にあったのが、こちらの「人形道祖神」です。
展示されている人形道祖神。写真提供:武蔵野美術大学
これは、秋田を中心に東日本で見られる神の像で、村の境界に置かれるもの。外部から災いが侵入しないように、もしくは村の病気や災厄をこれに封じ込めるといった意味もあるようです。
写真でおわかりのとおり、藁で造られた人形は、なかなかの素朴な造型ですよね。
本来は、災いに対抗すべく、力強いヒーロー的な神という設定なのですが、現代人からみたらなんともユーモラスでカワイイじゃないですか。ゆるキャラ的な人気が出てもおかしくない。頭部は発泡スチロール製の模型とのことですが、現地では木製のものが据えられます。
しかし、東北ならではのプリミティブかつ豪快な造形感覚というのでしょうか。こういう造形はなかなかすぐ作れるものではないでしょう。
昔の人々の美意識が、現代まで脈々と受け継がれているわけで、見るものを感動させます。
岩手県のヤクヤマイニンギョウ。両手に五円玉がくくりつけられている。写真提供:武蔵野美術大学
かたちだけでなく、地域の民俗信仰として受け継がれている文化が興味深いんですよね。
こちらのサイトに詳しく書いてありますが、人形道祖神は、秋田のなかでもいろんな種類があって、大迫力なのはカシマ様、ほかにニオウ様(ニンニョサマ)、ジンジョ様(地蔵様が訛ったもの)、ショウキ様など、いろんなタイプがあるそうです。
ニオウ様は、仏像ファンにはおなじみの仏教系守護神。
カシマ様は、鹿島神宮祭神のタケミカヅチの神がモデル(強い武神)。
ショウキ様は道教系の神からきているそう。
ジンジョ様は、地蔵さまだから上記3人の力強い系とは異なりますが、村のはずれに地蔵があるのはよくある風景。
秋田県湯沢市岩崎地区のカシマサマ。Wikipediaより
だから、特異な形に見えるけどその目的は、日本の各地にある素朴な信仰そのものなんですね。
(道祖神が訛ったドンジン様というところもあるそうです)
ぼくの著書『仏像の光と闇』にも書きましたけど、災いや呪いを打ち払うために仏像などを造るとき、その仏像も呪力に満ちたいかつい姿になる。
造型や材料のちがいはあるけれど、都市も農村も、こういう強い力をもつヒーローに守ってもらいながらくらしを繋いできたのですね。
ムサビの展示を監修された神野善治教授によると、人形道祖神は、地域の方々がお祭りの日に向けて手作りで造って、木にくくりつける。一年経つと、新しい人形神に取り換える。年に一度(ときには隔年になったり、ゆるい)の行事を続けているんですね。
取り換える際に、いちおう神事といいますか儀式は行われるけれど、行事の中心は地域の一般の人たちなので、宗教儀礼という意味合いは薄くなっているようです。
以前、別の民俗学講座で観た映像では、長野県の行事で似たような藁の神像を祀り、後で盛大に燃やして、それが祭りのクライマックスとなっていました。役目を終えた道祖神さんは、災いや厄を一身に受けた存在だから、きれいさっぱり燃やしてしまうわけです。
しかし、最近は燃やすのも近隣への配慮とか大変ですから、地域によって役を終えた像の処理はまちまちのようです。街の神社やお寺での「お焚き上げ」も大変みたい。
それにしても、各地の民俗信仰や習俗が消えかけている昨今、この人形道祖神の文化は、残っていってほしいものですね。まず単純に、面白いもんね。
とくに秋田では「秋田はなまはげだけじゃない」というキャッチコピーのもと、2018年から「秋田人形道祖神プロジェクト」が発足し、魅力を伝えようとしてらっしゃいます。
観光アピールにも良いでしょうね。だまこ汁にギバサに高清水、そして人形道祖神。
秋田に行きたくなってきました。
くらしの造形20
「手のかたち・手のちから」
武蔵野美術大学 美術館・図書館
2019年8月9日(金)〜2019年9月21日(土)
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/15930/
---おしらせ---
本稿の筆者・宮澤やすみ出演
【活動写真サロン】
9/11(水) 19:30開演(19:00開場)
新宿カールモールにて
出演:
山内菜々子(活動写真弁士)
宮澤やすみ(エレキ三味線、三味線、小唄)
サイレント映画に活動弁士が生で声を付け、
楽士が生演奏する、活動写真上演。
現代の演奏で古い映画も今の作品として蘇ります。
今回は1915年の米映画を三味線の伴奏で上演します。
宮澤の専門である「小唄」コーナーもあります。
詳細はフライヤー
http://yasumimiyazawa.com/katsu_salon.jpg
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ--
こんにちは。勢いでレコードを買ってしまったあと、プレーヤーを買うつもりが意外と高いことに気づき、未だにレコード聴けていない宮澤やすみです。
そんな中ですが、前回は武蔵野美術大学美術館の企画展「手のかたち・手のちから」をご紹介しました。
その展示の別室にあったのが、こちらの「人形道祖神」です。
展示されている人形道祖神。写真提供:武蔵野美術大学
これは、秋田を中心に東日本で見られる神の像で、村の境界に置かれるもの。外部から災いが侵入しないように、もしくは村の病気や災厄をこれに封じ込めるといった意味もあるようです。
写真でおわかりのとおり、藁で造られた人形は、なかなかの素朴な造型ですよね。
本来は、災いに対抗すべく、力強いヒーロー的な神という設定なのですが、現代人からみたらなんともユーモラスでカワイイじゃないですか。ゆるキャラ的な人気が出てもおかしくない。頭部は発泡スチロール製の模型とのことですが、現地では木製のものが据えられます。
しかし、東北ならではのプリミティブかつ豪快な造形感覚というのでしょうか。こういう造形はなかなかすぐ作れるものではないでしょう。
昔の人々の美意識が、現代まで脈々と受け継がれているわけで、見るものを感動させます。
岩手県のヤクヤマイニンギョウ。両手に五円玉がくくりつけられている。写真提供:武蔵野美術大学
かたちだけでなく、地域の民俗信仰として受け継がれている文化が興味深いんですよね。
こちらのサイトに詳しく書いてありますが、人形道祖神は、秋田のなかでもいろんな種類があって、大迫力なのはカシマ様、ほかにニオウ様(ニンニョサマ)、ジンジョ様(地蔵様が訛ったもの)、ショウキ様など、いろんなタイプがあるそうです。
ニオウ様は、仏像ファンにはおなじみの仏教系守護神。
カシマ様は、鹿島神宮祭神のタケミカヅチの神がモデル(強い武神)。
ショウキ様は道教系の神からきているそう。
ジンジョ様は、地蔵さまだから上記3人の力強い系とは異なりますが、村のはずれに地蔵があるのはよくある風景。
秋田県湯沢市岩崎地区のカシマサマ。Wikipediaより
だから、特異な形に見えるけどその目的は、日本の各地にある素朴な信仰そのものなんですね。
(道祖神が訛ったドンジン様というところもあるそうです)
ぼくの著書『仏像の光と闇』にも書きましたけど、災いや呪いを打ち払うために仏像などを造るとき、その仏像も呪力に満ちたいかつい姿になる。
造型や材料のちがいはあるけれど、都市も農村も、こういう強い力をもつヒーローに守ってもらいながらくらしを繋いできたのですね。
ムサビの展示を監修された神野善治教授によると、人形道祖神は、地域の方々がお祭りの日に向けて手作りで造って、木にくくりつける。一年経つと、新しい人形神に取り換える。年に一度(ときには隔年になったり、ゆるい)の行事を続けているんですね。
取り換える際に、いちおう神事といいますか儀式は行われるけれど、行事の中心は地域の一般の人たちなので、宗教儀礼という意味合いは薄くなっているようです。
以前、別の民俗学講座で観た映像では、長野県の行事で似たような藁の神像を祀り、後で盛大に燃やして、それが祭りのクライマックスとなっていました。役目を終えた道祖神さんは、災いや厄を一身に受けた存在だから、きれいさっぱり燃やしてしまうわけです。
しかし、最近は燃やすのも近隣への配慮とか大変ですから、地域によって役を終えた像の処理はまちまちのようです。街の神社やお寺での「お焚き上げ」も大変みたい。
それにしても、各地の民俗信仰や習俗が消えかけている昨今、この人形道祖神の文化は、残っていってほしいものですね。まず単純に、面白いもんね。
とくに秋田では「秋田はなまはげだけじゃない」というキャッチコピーのもと、2018年から「秋田人形道祖神プロジェクト」が発足し、魅力を伝えようとしてらっしゃいます。
観光アピールにも良いでしょうね。だまこ汁にギバサに高清水、そして人形道祖神。
秋田に行きたくなってきました。
くらしの造形20
「手のかたち・手のちから」
武蔵野美術大学 美術館・図書館
2019年8月9日(金)〜2019年9月21日(土)
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/15930/
---おしらせ---
本稿の筆者・宮澤やすみ出演
【活動写真サロン】
9/11(水) 19:30開演(19:00開場)
新宿カールモールにて
出演:
山内菜々子(活動写真弁士)
宮澤やすみ(エレキ三味線、三味線、小唄)
サイレント映画に活動弁士が生で声を付け、
楽士が生演奏する、活動写真上演。
現代の演奏で古い映画も今の作品として蘇ります。
今回は1915年の米映画を三味線の伴奏で上演します。
宮澤の専門である「小唄」コーナーもあります。
詳細はフライヤー
http://yasumimiyazawa.com/katsu_salon.jpg