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奇岩に座すカミ-石山寺・如意輪観音の旅 その1

”「なぜ如意輪観音なのか?」を考えると、ナゾがナゾを呼ぶ仏像沼にはまってしまう深いテーマでありまして、……”
神仏研究家・音楽家の宮澤やすみが、仏像とその周辺をブツブツ語る連載エッセイ。

こんにちは。先月、じつは滋賀と奈良へ取材に行っておりました。
現在、東京は新型コロナウイルスの感染が再燃している状況ですが、ぼくが出かけたのはそれ以前、ちょうど緊急事態が解除され状況が収まりかけていたころのこと。現地に迷惑を掛けないよう、充分に感染対策しての旅でした。

行ってきたのは、石山寺。
勅封秘仏本尊・如意輪観音菩薩のご開扉に合わせての参拝です。
当初は6/30までとされていたので、この機を逃すまいと出向きましたが、その後8/10まで延長措置がとられています。


勅封本尊御開扉のポスター。このあと8/10までに期間延長されました

大雨とコロナ禍で人もまばらな本堂内陣。ひさしぶりの大物に長い時間じっくり向き合うことができ、だからこそ思うことや疑問も生じ、石山寺のこと、如意輪観音のことについてブツブツと書いていきたいと思います。

ちなみに、SNSでは仏像の写真だけ見て「いいね」して、中身を読まない人がいると聞きますが、世の中そんなもんなんですかね。この先仏像写真は少なめなのですが……。

まあこの際、いいねだけして読んだ気になっている人はほっとくとしましょう。
この文章を読んでくださっているあなただけに、精一杯の”ブツブツ”を贈りたいと思います。

全部で何回の連載になるかわかりませんが、気長にお付き合いいただければ。


石山寺は”石”の寺

というわけで、石山寺・如意輪観音の旅第一回。風情ある京阪電車、石山寺駅から徒歩10数分。
そぼ降る雨の中、大きな山門をくぐって、石山寺の境内に入ります。


石山寺山門

お寺の名前のとおり、ここは大きな石というか岩の上に伽藍が形成されています。
地質学的には硅灰石(けいかいせき)といって、石灰岩が花崗岩マグマの熱で変質してできたもの。ふつうは大理石になるのだが、硅灰石となって、それが地表に多く表れているのが珍しいとか。ちょっと鉱物地質マニアでないとむずかしい話ですが、国の天然記念物になっているそうです。


石山寺といえばこの風景が有名。硅灰石の岩盤上に多宝塔が建つ

山門を進むと、「くぐり岩」と呼ばれる、岩盤に自然のトンネルがあります(説明によると、この部分は大理石とあるが普通の石灰石という意見もあって、ますますややこしい)。
ここをくぐると諸願成就するのだそうです。


奥に見える穴が「くぐり岩」。この日は大雨だったので、妖狐でも出そうな恐ろしい雰囲気でした。いちおうくぐってみたけど願い事するどころじゃなかった

そのくぐり岩のすぐ前に、神仏ファンとしては気になるものがあります。
下の写真をご覧ください。これは井戸ではなく、「比良明神影向石」といいます。


石山寺創建伝承

これは、石山寺草創の伝承にかかわる大事な石。
ここで、『石山寺縁起絵巻』に残る、石山寺創建エピソードをご紹介しましょう。


比良明神影向石


時は奈良時代。
朝廷は、東大寺大仏に鍍金するための金を探していました。
聖武天皇から金を探す命を受けた良弁僧正、最初は吉野の金峯山寺に向かいます。「金峯山」の名前のとおり、金がたくさんありそうです。
金峯山にたどり着いた良弁僧正、金をお与えください!と祈ります。
すると現れたのは、あのいかつい蔵王権現!
権現が言う事には、
「この金峯山の金は、この先56億7千万年後に弥勒菩薩がこの世に降り立つとき、この地を黄金で飾るために使われるもの。だから金を差し上げるわけにはいかない」。
そのかわり、近江の国、びわ湖の南に観音菩薩が現れる土地があるから、行ってみよと言います。
その夢告のとおり、近江の地を訪れた良弁僧正が、通りかかったのが、奇岩連なる石山の地です。

見ると、石のうえに老翁が座り、ゆうゆうと釣りをしています。
この老翁が、蔵王権現の言う聖地とはまさにここであると告げました。
このおじいさんこそ、近江の地主神である比良明神だったのでした。

その比良明神が座っていたというのが、この「比良明神影向石」なのです。
見ると、四角くてどうみても人が削ったように見えますが、ともかくそういう伝承の地なのですね。

比良明神は、琵琶湖の西側の比良山地に位置する神のことで、別名「白髭明神」ともいう。東京でも向島に白髭神社があり、この名前のほうが通っていますね(ここで神社方面の話題を広げたくなりますが、話を戻します)。


さて、比良明神のお告げを受けた良弁僧正は、この地の大きな岩の上に6寸(20cm弱)の金銅如意輪観音像を安置して祈りましたところ、2年後に陸奥の国から黄金が産出。めでたく大仏鍍金の目処が立ちました。

仕事を終えた良弁僧正ですが、なんと石山に安置した如意輪観音像が岩にくっついて離れなくなったので、ここにお堂を建てて丁重に祀りました。

以上が、石山寺の草創伝説です。


連載一回目で、さっそく話が長くなってしまい恐縮です。


要は、石山寺はめずらしい巨岩の地であること。
銅鐸が発見されていることからも、おそらくここは巨石を依代とした祭祀の場であっただろうことは容易に想像できます。
仏教流入後、飛鳥時代には石切り場として利用され、飛鳥・川原寺の礎石にここの石が使われていたことが分かっています。
古代からの祭祀の積み重ねがあったうえに、石山寺は創建されました。

伝承では、東大寺の大仏造りの功労者みたいに描かれますが、ここで金が出たわけでもなく、いったいどこまでが事実なんでしょうか。

それに、非常に古い歴史があるなかで、祀られているのが如意輪観音という、日本の信仰史では後発の仏が登場するのが面白いのです。

そして、石山寺創建の頃はまだ空海はいなかった。それなのに、なぜ空海ゆかりの真言密教の仏である如意輪観音が本尊なのか?

もちろん、伝承をそのまんま鵜呑みにしたって野暮なだけでして、そのへんはまあまあなんとなく受け止めておけばよいのですが、
「うつくしい観音さま~」
だけで済まない、大きな謎が、石山寺にはあるんですよね。

「石山寺がなぜ如意輪観音なのか?」を考えると、ナゾがナゾを呼ぶ仏像沼にはまってしまう深いテーマでありまして、ここから「如意輪観音の旅」が始まるわけです。

石山寺を参詣することで、奈良・東大寺のつながりが見え、さらに視点は飛鳥、斑鳩へ。黒幕(?)は真言密教……。

まあ、長い旅になりそうですが、気楽にお付き合いください。
次回はいきなり毘沙門天が登場します。今回はこのへんで。


(参考)
大本山 石山寺公式ホームページ
https://www.ishiyamadera.or.jp



●おしらせ
本コラム著者・宮澤やすみ出演

1.
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オンライン配信も実施! 都内のバーでの三味線ライブ。
ゲストは、神楽研究の第一人者・三上敏視さん。
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(オンライン配信での観覧。会場観覧も入場10名限定で受付)

詳細、予約は
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2.
本コラム筆者の”仏像バンド”ことThe Buttz(ザ・ブッツ)
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アルバムジャケットは飛鳥・橘寺の風景



宮澤やすみ公式サイト:http://yasumimiyazawa.com
宮澤やすみツイッター:https://twitter.com/yasumi_m